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“奇跡のリンゴ”の木村さん「コンピュータウイルスも生き物だから餓死する」

大変遅くなってしまって、本当に申し訳ございませんでした。
この記事は「10月分の10回目の更新」となります。

 

『ムー』に使い回される男

先月26日、次のようなネット記事がありました。

これによると、オカルト雑誌『ムー』の編集長に「ネタが尽きることはないのか」と聞いたところ、次の回答だったそうです。

とっくに尽きている。だから、使い回し
「材料次第では見せ方を変えられる。日々、新たな発見や研究成果も得られているので、鮮度を上げて仕立て直すことは可能」

この件は、私も心当たりがありました。
たとえば……。

2009年7月号が「木村秋則のUFO不思議体験」。

2013年6月号が「木村秋則の不思議体験」。

2017年6月号が「木村秋則のUFO体験」。

『ムー』2017年6月号

……という感じで、「木村秋則」という人物の特集が忘れたころに繰り返されています。
(少しは「新たな発見」もあるのですが、毎回8~9割は同じ内容です)

さて、この木村さんというのは、無農薬・無肥料のリンゴ栽培に世界で初めて成功したと言われている農家の方です。

最初に成功したのは1988年で、1990年に『おはようジャーナル』で紹介。
2006年にNHKの『プロフェッショナル』で取り上げられたことで、知名度が跳ね上がりました。

その後は、本もたくさん出ていて、2010年に舞台化、2013年に映画化されました。

一般的な認識としては「農業の発展に貢献した文化人」みたいな枠で、『新潮45』で対談するようなポジションになっています。

2013年7月号

と、普通に評価されている有名人なのですが、色々なところで
「私はUFOに拉致された」
「あの世に行ってきた」
地球の終末は近い
などと主張しているため、『ムー』に使い回されています。

NHKで有名になったわりにははっちゃけた人物で、以下、そんな木村さんを面白おかしく紹介してみたいと思います。

 

感動の実話、完全映画化!

2013年に公開された映画『奇跡のリンゴ』は、感動の実話を映画化したという触れ込みでした。

ちなみに、DVDに付属する「リンゴ型ブックレット」はこんなの。

ページを開くと、『僕等がいた』の小畑友紀先生が寄稿していたりします。(木村さんの大ファンらしいです)

それから、DVDのジャケットは、こんな感じの笑顔なのですが……。

このジャケットにだまされてはいけないと、邦キチも注意を促していました。

『邦キチ!映子さん』2巻

(この『奇跡のリンゴ』という映画、邦キチ以外にも、柳下毅一郎さんの殺しの映画レビューとかでネタにされているので、いまさら紹介するのも気が引けます)

 

映画のストーリー

主人公の木村さんは、物語序盤でリンゴ農家に婿入り。

しかし、妻は農薬に過敏な体質で、農薬の散布作業を手伝うと、体調を崩して寝込んでしまうほどでした。
そこで木村さんは、農薬を使わない自然農法への挑戦を決意します。

まず、「農薬のかわりにワサビで殺菌できないか」と考えた木村さんは、4つある畑のうち1つを使って実験しますが、失敗しました。

そこで木村さんは、「覚悟が足りなかったんだ」と反省。
ほかの3つの畑があるから生活が保障される。ナメてたんだ、オラは
と言い出して、手持ちの畑すべてを無農薬栽培の実験に使うことにします。

つまり、無農薬栽培に成功するまでは収入がなくなり、早く成功しないと一家で路頭に迷うことになるのです。

そうして、「卵の白身だ! 要は、たんぱく質で固めればいいんだもの」といった思い付きを試していく木村さん。

「農薬のかわりにショウガを使う」
「農薬のかわりにニンニクを使う」
「農薬のかわりに牛乳を使う」
「農薬のかわりにコーヒーを使う」
「農薬のかわりに泥水を使う」

などと、何年間も無収入に近い状態で試行錯誤を続けました。
(その間にも子作りはしていて、2人目・3人目と扶養家族が増えていきます)

 

「困難への挑戦」という美談

そうして、無農薬栽培をはじめて5年後。

すべての畑は、病気と害虫に埋め尽くされていました。

「ぜんぶ……、振り出しだよ……」と絶望する木村さん。
とっくに貯金は底を尽き、売れるものは売り払い、おじいちゃんは定期預金を解約していました。

3人の娘たちにランドセルを買うこともできず、一家が貧乏なことは、町中に知れ渡っているようです。
長女は、クラスメートから消しゴムをもらうと、それを三等分して妹たちに分け与えます。

このとき、プレゼントした消しゴムをいきなり切り刻まれたクラスメートは号泣したのでした。

・『新潮45』2013年7月号によると、実際には借金が4200万円ほどあったそうです。(金利がついて、返済した金額は7500万円)

・『ソウルメイト』によると、「服もオモチャも何ひとつ買えず、子どもたちは駄菓子の5円チョコを3日かけて食べていました。最後には、給食費すら払えなくなって担任の先生に呼び出されました」とのこと。

・『奇跡のひみつ』などによると、家族5人で月3000円の生活費。毎日のおかずとして、ハコベなどの雑草を食べていたそうです。
(『ほおばれ!草食女子』みたいな節約法、実際にあるのですね)

そんな感じで、映画の途中からは、父親が狂人だったせいで一家がマトモに生活できない様子が、陰鬱な雰囲気で描かれ続けます。
それは、無計画な博打に失敗しただけで、どう転んでも美談ではありません。

しかも、そこまでして主人公が無農薬にこだわる理由が、映画ではフワッとしていてよく分かりません。

いちおう、きっかけは奥さんが農薬に過敏なことですが、それは「奥さんがリンゴ農家の仕事に向いてない」という話。
食べる分には、農薬を使ったリンゴに問題があるわけではないのですよね。

映画の中では、次のような会話があります。

友達「いい加減、あきらめろ」
木村「ここでオラがあきらめるってことは、人類があきらめるってことだ
友達「人類は農薬を使ってりんごば育てる。それでいいべさ。なしてダメなのさ?

この問いに、木村さんはうつむいて一言も言い返せません。
映画内で、「農薬を使って育てればいい」というのが普通に事実なのです。

木村さんは、ただ純粋に「困難への挑戦」をしたいだけで、そのために妻子の生活がメチャクチャになったのでした。

「奥さんのため」を建前にして、結局は奥さんを苦しめている……という友達の指摘が正論で、これだと「感動の実話」というよりは「恐怖の実話」だと思いました。

 

無農薬 地獄ロード

そんなこんなで、生活は困窮。木村さんの精神状態も危うくなり、農作業中に突然、地獄の幻覚を見たりします。
(そして意識が戻ってから、リンゴの木に湧いた害虫を見つめて、「現実のほうが、よっぽど地獄だな」と嘆息)

なんとか害虫を減らせないかと、虫への脅迫状を畑に吊るしておくという方法も試すのでした。

虫を日本語で説得しようとする木村さん

これを見た近所の人たちは、「いよいよ頭おかしくなった」と思いました。

そして冬の間は、木村さんは都会に出稼ぎに行きます。
宿泊費はケチって、ダンボールと新聞で野宿です。

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