【連載】ちろうのAKB体験記 最終回 ■あとがき

■あとがき

33回にわたって続けてきた「ちろうのAKB体験記」であるが、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。本連載はポップカルチャーの評論家でAKB48とも深い関わりのあるの宇野常寛氏が企画・編集する「メルマガPLANETS」に2013年に連載されていたものです。当時、こんなふうに文章にして表現するというのは自分自身でも初めての体験だったので不安だったが、このような文章を書く機会を与えてくれたことをあらためて感謝します。

初めは文字通り初期AKB48現場の体験記から始まり、「フォロワーグループ」や「メイド喫茶」「女ヲタヲタ」などについて書き、終盤は「さしこの軌跡シリーズ」を展開するなど、自分の好き勝手にやらせてもらいました。

このAKB体験記を書こうと思ったきっかけは3つある。まず一つ目は、「異常」とも言えるほどに楽しかった初期AKBの現場のことを文章にして記録しておきたかったということ。まだまだ書き足りないことや、ブラック過ぎて書ききれないことなどたくさんあるが(笑)、ひとまずの成果は出せたのではないかと思っている。これはAKBを取り巻くすべての環境に対して、楽しませてもらったことの恩返しという意味合いもある。「メモリストブログ」を初め、AKBに関する記録を丹念に残してきた諸先輩方がいる一方で、「AKB48白熱論争」(幻冬舎新書)「前田敦子はキリストを超えた」(ちくま新書)など、AKB48と社会との関わりを丁寧に言葉にする評論家の方々がいる。そんな中、一応は「古参」といっても差支えのない程度に初期AKBを見てきたぼくは、何も残していないではないか!何かできることはないか、と思い立ったのが、ただひたすらに体験したことを綴ることだった。

あくまでも体験記だから、必ずしも全てを書ききれているわけではないし、細かなところで記憶違いをしていることもあるかもしれない。だからこそ書き始めることは勇気のいることだったが、やはり何事も「やってみる」ことが大切だと思い、一歩を踏み出した。これは、自分に自信がなくともAKBのオーディションに書類を送った、指原莉乃を見習ったつもりだ。

二つ目の理由は、現在の推しメンである指原莉乃さんの魅力を少しでも世間に広めるためだ。ぼくはこれまで自分のブログや、指原莉乃さんに関する同人誌を作ることによってそれをしてきていたつもりだが、せっかくの機会なので本連載でもその要素を盛り込ませていただいた。それは後半の「さしこの軌跡シリーズ」にあたる部分である。

彼女はいつでも自分で「可愛くない」と言ったり「歌やダンスが下手である」と強調する。それは表現者としてハードルを低くするためで、卑怯だという言い方も出来るかもしれないし、ひ弱でヘタレな印象を与える発言かもしれない。しかし彼女の思惑はもっと別なところにある。とにかく正直にしか振る舞えないのだ。そして、それらの発言は裏を返せば「自分はこうである」という芯がしっかりしているということだ。ぼくが何故指原さんを推しているのかという理由を挙げていけばキリがないが、一つだけ挙げるとすればその「芯の強さ」と表現できると思う。そしてここ約3年間ほど指原莉乃について考える中で、彼女の魅力とは何か、またそれが我々一般人にも生かせるのではないかという仮説が自分の中でまとまってきたので、それはまた改めてどこかで発表できれば良いと思っている。

そして三つ目がぼくにとって最も重要な動機と言える部分なのだが、「アイドル」というものの楽しさ、「アイドル現場を見ること」の素晴らしさを伝えたいという目論見があった。この体験記は「昔のAKBは良かった」ということを回顧するためではなく、むしろその先を見据えている。これまでぼくが各所で何度か強調しているように、昔のAKBを今から体験することはできないが、AKBによって培われたアイドル運営のノウハウによってほとんど同じ(機能的に等価な)楽しみ方ができる現場が無数に広がっている。これはとても素晴らしいことである。それを一人でも多くの人に味わってもらいたい。そして未だに世間的にはあまり理解されていないアイドルヲタクという趣味が、もっと広く理解されれば良いと思っている。

楽しいだけではない。アイドルヲタクという趣味は、自分自身が成長できるのだ!何をバカなことをと思われるかもしれないが、本当にそうなのである。これが、真剣に誰かを「推す」ということの本当の効果だと思う。何故なら推している対象を輝かせるには、自分自身が成長しなければならないからだ(ここで自分の推しメンではない他のメンバーや、他のアイドルヲタを貶めることによって自分が優位に立とうすることだけはしないように気をつけて欲しい)。素晴らしいものを素晴らしいと言う。そこで気迫のこもったパフォーマンスに感動する。もっと簡単に言えば、相手を喜ばせるにはどうしたらいいか、とか、ぼくなどは単純に女性との接し方も学んだ。「アイドルのケツを追っかけてるだけだろう、みっともない」と言われるかも知れない。それでもぼくは突き進もうと思った。ただの一ヲタクでしかなかったぼくが、このような連載を持たせてもらったことがまさにその証拠である。

「AKB48」と「ちろうAKB体験記」はその興奮を体験をするきっかけであればいいと思う。これまでまったくアイドル現場というものを体験していない人には、まずAKB48の劇場およびコンサート会場に出向いていってほしい。そしてその他無数にあるアイドルグループの現場に躊躇せずに行ってみて欲しい。そこで推しメンを見つけることになれば、世界が変わってくるだろう。こんなに楽しい趣味の世界があるのかと驚かれるはずである。さらに付け加えるならば、AKB(グループ)がいかに優れているものかという理解も深まるだろう。

AKBグループではない、必ずしも知名度のあるわけではないアイドルグループに推しメンを見つけることはメリットがたくさんある。AKB48に比べてはるかに安く、近くで、頻繁にそのライブイベントを見ることができるからだ。ファンの数がAKBに比べて少ないのだから当たり前だといえる。当然認知も容易にしてもらえる(例えば一度2ショットチェキを撮るだけで良い)。推しメンから認知してもらうことは本当にかけがえのない体験だと思う。古参であることを自慢するためとか、認知されていることを自慢するためとかでなく、自分で見つける喜びを体験して欲しいのだ。そのためにはやはり現場に出向いてライブを見るしかないだろう。

■2019年のあとがき

この連載を読んでいただいた皆さんにはお分かりの通り、体験記としては実質2年間(2006~2008年)、その後の指原さんの記述に関してもせいぜい2013年時点までのことしか触れられていない。その後ぼくが何をしていたかというと、いくつかのアイドル現場に没頭し、またいくつかの現場からは足が遠のいて、ということを繰り返している。それを詳述するには、ここにはあまりにも余白が足りない(新たな連載を立ち上げる必要があるだろう)。

しかし2019年の現在、推し始めて5年目になる大切な現場がある。それが秋葉原に常設劇場を構える「仮面女子」である。これについては2015年に「仮面女子の研究☆」という同人誌を作った。もしご興味がある方は手に取ってみてください。

詳細はコチラから→https://tirou.hatenablog.com/entry/20150810/p1

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それではちろうの次回作にご期待ください。

(おわり)


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