【連載】ちろうのAKB体験記 第2回 ■ 初めてのKチーム公演

■ 初めてのKチーム公演

AKB48の第2期生、Kチームなるものが存在しているということを知り、ひとまずは見ておくことにした。このときは友人を誘うことなく、平日にふらりと訪れることにした。平日公演は11時チケット販売開始で、19時開演。相変わらずやることがなく暇だし、チケットの売れ行きに関してもよくわからなかったので15時頃にチケットを買いに行った。すると当然の如く余裕でチケットを購入することができた。

チケットを買ったはいいものの、公演までの時間を潰すのに苦労した。何しろぼくは東京でたった一人ぼっち。どこに何があるかも分からず、アニメグッズを見て回るでもなく、秋葉原で小さなブームとなっていたメイド喫茶というものに行ってみるという勇気もなく(後にぼくはメイド喫茶ヲタクとして華々しくデビューするわけだが、それは別章で)、ヲタ友達のひとりもいない。無駄に電気街を歩いてみたり、喫茶店で時間を潰してみたり。チケットを買ってから開演までの時間を潰すのにはその後も幾度もなく苦労したものだ。そして開演時間が近づき、ドンキホーテ8階に向かった。

ぼくはアイドルを見るときにおいて、予習はしない。何より「体験」が重要だと思っているからだ。ネットやあるいはチラシの写真を見て「(推せそうなのは)この子かな?」と当たりを付けて臨んだって、実物を見たらそうでもないこともあるだろうし、逆に全くノーマークだった子に目を惹かれることもある。ならば予習など全くの無意味だ。そして逆に、どれだけ写真が残念で、ヲタ評判が悪くとも、一度は現場に足を運ばなければ判断はできないだろうと思っている(これは特にAKBのことではなく、AKBブレイク以降のアイドルブームにおいても変わらず実践していたこと。そしてそもそも予習が面倒ということの言い訳)。これはいかにも地下アイドルヲタ的発想だと思う。いつでも始まりは「現場」なのだ。AKBに限って言っても、今のようにテレビや雑誌で見る機会もなければ、ぐぐたす、モバメ、ブログすらない(メンバー発の情報は、柱の会会員限定のブログが初だったと思う。あとはトガブロ、メモリスト、2chでレポートを追う程度か)。情報だけからAKBにハマるという回路はほぼなかったはずだ。新規客が増えるのはぼくのように勝手にネットで調べてやってくるパターンか、あとはヲタがヲタを誘ってという口コミ的なものがほとんどだった。そして現場に来るだけでは完結しない。そこで決定的な「出会い」があって初めてAKBヲタになるのだ。

前置きが長くなってしまったが、つまり何の予習もなしに初めてのK公演に臨んだというわけだ。そのときはあいにく抽選で20巡前後に干されてしまい、立ち見の3列目からヲタの間を縫うようにして見ることになる。2本の柱とヲタの頭のせいで、絶望的に視界が悪かったことをよく覚えている。

その公演はK1st「Partyが始まるよ公演」だった。初めての演目に、初めて見るメンバーたち。状況は同じだが、前回の初劇場体験とは違い、まず抽選に干されてしまった。これは少なからぬ影響があったと思う。そんなに心を動かされなかったのだ。メンバーに優劣があったとは思わない。ただダンスの難易度や楽曲のクオリティに関しては劣っているように見えた。端的に言うとParty公演は楽曲もダンスもよりシンプルで、会いたかった公演の方が洗練されているように感じられた。それもそのはずで、Party公演は、歌もダンスも全くの未経験のメンバーのために作られたセットリストで、会いたかった公演は4ヶ月間公演をこなしたメンバーに与えられた次なるステージだったからだ。本来であれば「Party」→「会いたかった」と経なければいけないステップを、ぼくの場合は「会いたかった」→「Party」と逆行してしまったためにそう感じたと言えるかもしれない。

そして印象に残ったことといえば、今ではAKBに限らずアイドル現場ではおなじみになっているMIXの存在に気づいた。気づいたといっても全貌はつかめない。何か意味不明な、呪文のような言葉を少なくないヲタが声を合わせて叫んでいる!何を言っているのかは分からない。「知りたい!」とは思わなかったが、「こんなふうに盛り上がるのか~すごい世界だ!」などと考えていた。

狭い劇場とはいえ、立ち見3列目からの鑑賞で、メンバーの顔はそこまではっきりと判別できない。事前情報がなければなおさらだ。さらには柱の影響で視界の2~3割は常に塞がれていることもそれに拍車をかけた。そんな中でも特段に目を引いた一人のメンバーがいた。それは大島優子だった。とにかく笑顔がキラリと輝いていて、存在感で他を圧倒していた。身長はそれほどでもないが、体のキレは抜群で、笑うとやや大きめなエクボができる女の子。とても可愛いと思ったし、はっきり言って彼女のこと以外ほとんど印象に残らなかった。まったくの初見のぼくにそこまで印象を残すほどなのだから、芸能活動歴が長さというだけではない魅力が彼女にあり、それがその後の躍進につながっているのだと思う。

結局4月のうちに2度、立て続けにK公演を見た。2度目も抽選は干され、立ち見の後方で見た。そしてやはりメンバーの全貌を把握できないまま、大島優子の笑顔を再確認したところでの感想は、「一通り見たし、これで良いか。」というものだった。1期生と2期生、そして2種類の公演も見た。コンプリート!そんなもんだった。

この時点でAKBヲタではなかったのだ。それは決定的な「出会い」をしていなかったということもできる。後に劇場に100回、200回と足を運び、生きがい、友人関係、生活基盤、恋愛対象に至るまでほとんど全てを占めるヲタ活の始まりを告げる「とあるメンバー」はすでにそのステージに立っていたというのに。そのメンバーと出会わなければ(見つけなければ)、ぼくの人生はまるっきり違ったものになったとは思わない。きっと運命づけられていたのだ。ビンゴの球による抽選という運と、視界を遮る柱の存在によって、ほんの少しだけ「見つける」時期が遅れただけだ。ほどなくして、現在もなお神公演と称されている「K2nd 青春ガールズ公演」が始まるという未来が待ち受けていたのだから。

その後6月、7月と実に2ヶ月間、劇場に足を運ぶことはなくなった。生粋のアイドルヲタクでもなければ、誘ってくれる友人のいない一人身の悲しいところである。惰性で行くこともないし、ヲタ友に誘われることもない。(このヲタデビュー2ヶ月の遅れによって幸か不幸か、今でも語り草になっているイベント「花やしきツアー」(※)にまったく無関係でいられた。後に歴史として聞きかじるのだが、このイベントにまつわる話もけっこう面白い。イベント自体ではなく、参加券を3万で買ったとか5万で買ったとか、CDをシャカシャカ振ると当たり券が入っているかどうか一発でわかった話とかその情報が広がる過程とか。笑)

次に劇場に訪れるのは7月の終わりだった。理由は明白である。ネットでK2nd公演が始まっているという情報を得たからだ。「会いたかった」でも「Partyが始まるよ」でもない、新たなるセットリスト。1期生の公演のお下がりをやっていたチームKが、新セットリストを与えられたのだ。それが当時の2期生(チームK)にとって、そしてまたそのヲタたちにとってどれほど重要なことかは今では想像に難くないが、当時のぼくにとっては大した出来事ではなかった。「新しいの始まってるんだ~、じゃ一度見ておくか」それくらいの動機である。

そして7月のとある日に、初めての「青春ガールズ公演」を体験する。それは一つのターニングポイントだった。その日を堺に、暇な日はほぼ毎日、秋葉原に通うことになる。ぼくにとってのAKBヲタ始まりの日と言えるのかもしれない。

この2006年6月に行われたA・K合同のイベントから、それまでの「Aチーム」「Kチーム」という呼称から「チームA」「チームK」という呼称に変わっていた。そしてほどなく始まるK2nd「青春ガールズ」公演内の「転がる石になれ」で「We are the Team K!」と歌われる。

※ 花やしきツアー
 インディーズ2ndシングル「スカート、ひらり」特典のA賞の当たり券を引くと参加することができたイベントで、2006年7月23日に開催された。花やしきに向かう前に、劇場でメンバーがおにぎりを握って、ファンがそれを食べた。おにぎりの具がメンバーによって違っており、高橋みなみの「マーブルチョコ」、小野恵令奈の「マシュマロ」などが話題になったが、メンバーはおにぎりの具にするとは聞かされておらず、好きな食べものを持参しただけなのでメンバーに責任は無い。このおにぎりは胃袋が限界に達するまで何度でもどのメンバーからももらうことができた。
バス移動の際には、メンバーが8台のバスに分乗し、ファンはランダムで割り振られたのだが、推しメンと同じバスに乗るために、現場では戸賀崎氏公認の大トレーディング大会が開かれたという。

メンバーは当時カフェでも販売されていた「AKB浴衣」を着ており、歴史上でも数少ない撮影可のイベントだった。園内をメンバーと並んで歩いて話したり、アトラクションに一緒に乗ることもできたという。まだ地下アイドルと言える規模の時代だったので、当時すでに熱心なAKBファンであれば、参加必須のイベントだった。逆にいえば、このようなイベントを経験していたら、今のような国民的アイドルとなったAKBでは満足できないのかもしれない。そのような意味でファンは「入れ替わっている」ということができるだろう。(稲垣)


(次回に続きます)

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