【教育×小説】本質研究所へようこそ(1)【連載】

■プロローグ

東京都豊島区。雑司ヶ谷は北側を東池袋、東側を文京区大塚、目白台、西側を目白に囲まれた一帯で、明治通りに出て15分ほど歩けば池袋に出られるという立地だ。交通の足としては東京メトロ副都心線の雑司が谷駅、都電荒川線の都電鬼子母神前停留所がある。法明寺は日蓮宗の寺院で、その境内にあるのが鬼子母神堂だ。これが駅名の名前の由来にもなっている。雑司ヶ谷霊園は総面積12万平方メートルの巨大な霊園で、夏目漱石や泉鏡花、永井荷風といった文豪から、金田一京助、小泉八雲、ジョン万次郎、東条英機、など明治・大正を生きた偉人たちが眠っていることで有名である。


穏やかで気持ちのよい春の昼下がり、この4月から中学二年生になるチロウは雑司が谷を散歩していた。学校の春休みの課題で、日本の文豪について調査するというものがあり、チロウは夏目漱石について調べることにした。何作かの作品を読んでレビューしたり、伝記本を読んだり、Wikipediaで経歴を調べている中で、漱石の墓がここ雑司が谷にあるということを知り、さっそく「雑司が谷霊園」に足を運んだのだった。豊島区に住んでいるチロウにとっては15分も歩けばたどり着く距離だが、こんな機会がない限り雑司が谷に足を運ぶことはなかった。園内マップを頼りに、整然と並んだ墓石の中から目的の墓を見つけた。そこには大きく「夏目」と書かれていた。偉大な文豪の存在とこの世界が、時間的にも空間的にも、しっかりつながっているんだという不思議な気持ちになった。

その帰り道、少し周辺を散歩しようと思い立ったチロウは、ふと見ると石畳と味のあるアーケードを見つけた。その雰囲気に惹かれて、鬼子母神参道を歩いていた。「雑司が谷観光案内所」なんてところもある。風情のある通りだ。するとその通りの一角に、一際不思議な看板を掲げている家を見つけた。

【稲垣本質研究所】

(小中学生、高校生、社会人、大歓迎!~散歩の途中に、気軽にふらっとお立ち寄りください)

――この世界の本質を追求するための研究所です――

「なんだこれ」

築30~40年は経とうかという一軒家ではあるが、看板を掲げているところを見ると商売をしているらしい。
――本質って何だろう。普通に勉強を教えている塾じゃないのかな。
チロウは本質という言葉が気になった。しかもそれを追求する場所なのだ。どこかの大学の研究所なのかとも思ったが、どうもそういうお堅い感じでもないらしい。何かアットホームな雰囲気を漂わせていた。江戸時代には寺子屋というところで地域の子供が集まって勉強をしていたと聞いたことがあるが、そんな感じだろうか。

「小中学生も歓迎と書いてあるし。気になる・・」
本来であれば、チロウには足を踏み入れる勇気はなかったかもしれない。しかし「本質研究所」という語の響きが妙に気になったこと、看板にある通りに「散歩の途中」であったこと、気軽にお立ち寄りくださいという言葉によって、一体これがどんな場所なのか確かめたくなった。
「話だけでも聞いてみようか」


昔ながらの引き戸にそっと手をかけると、ゆっくりと戸は開いた。
これがチロウと本質研究所との、最初の出会いだった。



ここはとある一人の先生が運営している個人塾です。とは言っても一般的に想像される学習塾ではありません。決まったカリキュラムがあるわけではなく、時間を区切った授業もなし。年齢も性別も、出身地も、学年すらも関係ありません。

それどころか、受験勉強をする中学生や高校生のためだけの場所でもありません。現代に生きる様々な職業の、どんな年齢の人でも受け入れ、お互いに影響を与えて高め合うことを推奨している場所です。ここの運営をしている先生はときに生徒になるし、また子供たちが先生になります。また、いろんな職業の大人たちが特別授業を受けに来たり、単に遊びに来ることもあります。

私塾、寺子屋、コミュニティサロンと言っても良いかもしれません。


これは、とある中学生の少年が、この一風変わった「研究所」の代表を務める先生と、そこに通う三人の少女たちとともに成長していく物語です。

今これを読んでいるあなたは小学生でしょうか。それとも中学生、高校生?はたまた大学生?
子育て中のお父さん、お母さんかもしれません。ビジネスマンでも大歓迎です。
ご自身もこの研究所に通っているという気持ちで、読み進めていってください。

(次回に続く)

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