ワールズエッジで会いましょう

三年近く付き合った彼氏と、やっぱり別れようと思う。
たくさんたくさん考えたけれど、それは明日ではないかもしれないけれど、別れようと思う。

彼と付き合い始めて一年ほど経った頃から、わたしの精神は少しずつこわれていった。
朝7時に起きて夕方まで学校、30分だけ家に帰って着替えてご飯を食べて、22時過ぎまでアルバイト、帰ってお風呂に入ったら次の日の予習、3時ごろに寝る限界生活を毎日していたら、夜布団に入る時、朝電車に乗った時、バイトまでの道、ところ構わずボロボロと涙が止まらない状態ができあがってしまった。
どうして悲しくないのに涙が出るのかわからなかったし、涙が出ているとなんだか悲しいような気がして、余計に泣けてきてしまって辛かった。

夜はとりわけ辛くて、毎日死にたいと思うようになった。ベッドに入ってわけもなく泣きながら、わたしの部屋の天井の梁は首を吊るのになかなか良さそうだと何度も考えた。
やっぱり泣きながら、死ぬか〜。と思った日にはスマホのメモに遺書も書いた。みんなにありがとう、大好きだよって書いてたら余計に泣けてきた。
でも死ねなかった。死ぬのはたぶん、あんまり怖くなかったと思う。だけど、わたしが死んだら、周りの人が自分を責めてしまうのではないかと思った。わたしはバカだけど、そういうところに気づくくらいにはまだ賢かったみたい。
身の回りで自殺とか、多分そういうのって、一生残ると思うから。それは嫌だなあと思ったら、死ねなかった。

死にたくて死にたくて、でも誰にも言えなかったから学校もバイトも元気にがんばった。家族にも泣いているところは見せなかった。うまく眠れなくなって、夜中に泣きながら家の近くの川沿いを一人で何時間も歩いて、へとへとになったら帰って眠る生活をしていた。誰かに弱いところを見せたら、がっかりされちゃうかなって、ずっと昔から思っていたから。なんてバカなんだ。本当。

さすがにまずいと思って、家族には黙って精神科に通い始めた。カウンセリングではやっぱりたくさん泣いてしまった。わたしは、自分の気持ちを人に話すのがすごく苦手だったから。
病院に通っていることを、一番最初に打ち明けたのは彼氏だった。バイト終わり、いつも送ってくれる帰り道、わたしは話すの上手じゃないから、短い手紙を書いて読んだ。少しの間だけ支えてほしいです、って書いたと思う。

その時、「辛いのは君だけじゃないからね」って言われたこと、絶対許せないと思う。あー、この人、わたしのことなんにも見てないんだ、って思って悲しかったな。わたしの彼氏ってバカな人だ。辛いのはわたしだけじゃないなんて知ってるのに。わたしは、わたしの辛さを君の物差しで測らないで欲しかったのだ、たぶん。
だけど今思えば、彼には彼の辛さがあるのに、一方的に支えてほしいなんて、ちょっと傲慢だったのかな。わからない。

死にたい夜も、人の声を聞くと安心できた。彼はかなりの夜型人間だったので、夜中起きていてなんでもない連絡をくれるだけで、わたしは勝手に助けられていた。
だけど、わたしが本当に死にたくて死にたい時も、助けてくださいと言った時も、「友達と友達の彼女とapexしてるから無理」だったので、わたしは大好きだったゲームを起動できなくなった。ちなみにapexはやったことないのに大嫌いになった。今思えば、自分がすこぶるバカでかわいそうだけど、精神の病ってそういうものだから、まあ仕方ないかもねって思ってほしい。

apexを始めようと思ったのは、ちーちゃんに出会ったから。努力と向上心の塊で、負けず嫌いで、感受性豊かで、優しくて可愛いちーちゃんに、その名の通り勇気をもらった気持ちになった。(繊細すぎて誤解されることもあるけれど、迷いりつきを保護するちーちゃん という切り抜きを見て、わたしはこの子の性根が大好きだと思ったのだよ)
apexを始めたとき、FPS自体全くの初心者だった彼女に、わたしはおこがましくも勝手に自分を重ねてしまっていたのだと思う。
何度やられても歯を食いしばって立ち上がるその姿が一等眩しく見えたこと、よく覚えてる。

apexゲームの中で、右も左もわからないわたしは、たくさんたくさん死んだ。死体撃ちもされたし、味方に見捨てられたこともあった。
でも、優しい人もたくさんいた。武器やいいアーマーを譲ってくれる人、回復を分けてくれる人、移動する時にこっちに行くよ!って毎回ピンを刺してくれる人、トロトロだったわたしを守りながら戦ってチャンピオンを獲らせてくれた人もいた。
初めてキルリーダーになった時、初めて目標だった1000ダメージを出せた時、他の人からしたらなんてことないかもしれないけれど、手が震えるくらい嬉しかった。
気づいたら、一日に何時間も一人で遊ぶくらいにはapexが好きになっていて、そのこともすごく嬉しかった。

わたしの目的は、もっともっと上手くなって、彼氏を轢き殺すことだった。(ヤバすぎる)
だけどそんなに急に上達するものでもなくて、目標の2000ハンマーにはぜんぜん届かないし、ランクもゴールドで止まったまま。彼氏はあんなに仲が良かった友達ともその彼女とも遊ばなくなって、わたしと遊ぶだけになった。

でもやっぱり、彼氏と別れようと思う。たしかに彼氏はapexソロダイヤだけど、たしかにわたしは一緒にやる友達彼氏以外にほとんどいないけど、それでも別れようと思う。

前より少し強くなって、自分のこと、大切にしてくれる人と一緒にいたいなって思えるようになったから。
大切にしてもらったことを忘れたわけじゃないけれど、わたしの方が、自分のこと上手く大事にできるなって思ったから。

明日かもしれないし、1ヶ月後かもしれないし、一年後になるかもしれないけれど、彼氏に言おうと思う。
わたし、もっともっと練習して、もっともっと強くなるから、またいつか、君の一番好きなマップで、ワールズエッジで会いましょう、って。

そしたら絶対絶対、フィニッシャーするからな!って、言ってやろうと思うのです。

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