海外の人から激推しされた「龍の宮物語」

星組「龍の宮物語」をスカイステージ放送で観ました。

自分には、SNSで知り合った海外の宝塚仲間がいます。大陸の人で、いつか来日して大劇場の舞台を観るのが夢だという。宙組ファンという点で意気投合し、互いに翻訳アプリを全力で駆使しながらメッセージをやり取りしています。
ある日彼女が、宙組以外では誰が好き?と訊いてきました。

「 I think 瀬央ゆりあ in star troupe is cool」
「 Me too ! hehe. then I recommend 龍宮物語. 瀬央 is very beautiful and transparent.」
(原文ママ)

… 透明とな?

どういうニュアンスか知りたかったのですが、DeepLをもってしても言語の壁は越えられず。「まあいっぺん観てみよう」と機会をうかがっていたのでした。

以下、ネタバレあります。

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1.瀬央ゆりあはたしかに透明だった

華やかな容姿の瀬央さんは、舞台上ではどちらかといえば輪郭がくっきりした役を演じることが多いような気がしています。しかしNOW ON STAGEなどで拝見するお姿は、ほっそりとして繊細で聡明な女性という印象。「龍の宮物語」の清彦は、素の瀬央さんに近い当て書きのお役なのかなと思いました。

その清彦が最初に登場するプロローグが、非常に印象的でした。
白い和傘を掲げた白い書生服姿で、強いライトを浴びながら振り向く清彦。
白い。白すぎる。
光を受けているというより、光が透過して反射しているような白さ。
驚いたのが、瀬央さんの白眼の白さでした。
あれだけ白い部分が目立つ大きな眼だと、ふつうなら横を向いたときに毛細血管の走行などが浮いて見えたりするものですがそれがない。冴え冴えと白い。

最後まで通して観てからふたたびプロローグを見返して思ったのが、あれは龍の宮を知ってしまった後の清彦だったのかな、ということでした。あの大きな白い眼には、境界を越えた先にあるものが見えている。と、思わせる。プロローグの清彦を演じていた瀬央さんは、たしかに透明だったと感じました。

2.清彦の罪と玉姫の罰

「龍の宮物語」の感想を書くのはとても難しいと感じます。浦島太郎伝説と泉鏡花の幻想小説をベースとした、こういう言い方は失礼かもしれませんが非常に「匂わせ」の多い、考察好きには辛抱たまらん作品だからです。(そもそも泉鏡花+宝塚ってだけでお耽美好きはキエーってなると思う。少なくとも自分はなった。)
ひっかかる部分を全部書いていたらとんでもない文字数になってしまう。
なので今回は(次回もあるのか?)「清彦はなぜ玉櫛笥(たまくしげ)を開けたのか」をテーマに書いてみようと思います。

龍の宮から人の世への帰還を望む清彦に、玉姫は「再び会いたいと思うなら開けてはならぬ」と言って玉櫛笥を与えます。「もう会いたくないなら開けなさい(=指示)」ではなく、「開けてはならぬ(=禁忌)」です。このとき玉姫は明確に「呪いを持たせる」と言っているので、この禁忌には何らかの罰がセットになっているとわかります。

清彦は実直な青年ですが、禁忌に対しては無頓着な面があります。山彦や村人が止めたのに夜叉ヶ池に行ってしまう。

人がなぜ禁忌を破るのか、その理由はいくつか考えられます。

1)被る罰(不利益)への恐怖をしのぐほどの強い動機があるから
2)罰を出し抜くスリルを味わいたいから
3)罰などないと高を括っているから
4)罰をうけたいから

清彦が夜叉ヶ池に行ったのは1)と3)。(天華えまさん演じる“小賢しい”山彦は性格的に2)だったのかも。)
清彦には「百合子さん」という動機があった。意に添わぬ婚約を受け入れ自分をかばった百合子さんに対して、無力な清彦が示せる唯一の「誠実の証」が夜叉ヶ池に行くことだった。

この「人に対して誠実であろうとする真心」こそが、清彦に潜在する「罪」の本質ではないかと自分は考えます。

誠実であろうとするあまりに、その場限りの守れない約束をしては裏切ってしまう。
たぶん二度と会わないであろう見ず知らずの女性に、秋になったら桜蓼の花を見せると言う。殺めてくれと乞う玉姫に、姫様のお望みならと小刀をふりあげるも結局できない。
玉姫の執着の元である「あの男」と同じ、清彦はたしかに「あの男」の子孫なのだと思います。

一方、玉姫は、自分を見殺しにした恋人を恨みつつも、その子孫として同じ過ちを繰り返す清彦の「真心」に、かつて自分が注いだ愛を思い出します。30年後の人の世で次第に人らしさを失っていく清彦とは裏腹に、龍の宮で人の心を取り戻しはじめた玉姫を演じる有沙瞳さんが壮絶に美しいです。

また天寿光希さん演じる龍神が、己の強大な愛に応えられなくなった玉姫に気づいた時の、水底のような音のない声が凄い。悲劇の予感に一瞬で舞台と客席が張り詰める。

その結果が、天飛華音さん演じる“お兄ちゃん大好き弟龍”の大勝利。清彦に帰れと命じるときの表情がたまりません。

そして。
人の世に戻された清彦は、どんなに会いたくてももう会えないのだからと、震える手で玉櫛笥を開けます。このときの清彦が禁忌を破った理由は、
4)罰をうけたいから
だと自分は感じました。

だって自分を殺そうとまでした玉姫様があんなにおっかない顔で「開けてはならぬ」「呪い」と言いながら渡してきた玉櫛笥。うっかり開けた日には、私にもう会いたくないとはけしからん!と厳罰が降ってきても不思議ではありません。
では清彦が望んだ罰は何だったのかというと、あくまでも自分が清彦だったらと仮定しての想像ですが、「死」あるいは「忘却」ではないかと思います。

でも、玉櫛笥に入っていたのは「私のことは忘れてください」という玉姫の声だけでした。

忘れたければ自分の意思で忘れなさい、という指示。そしてまた、私のことは思い出してはならぬ、という新たな禁忌とも受け取れると思いました。

3.早すぎた代表作

自分は瀬央さんの出演作を全部観たわけではないですが、なんとなく、この「龍の宮物語」が現時点での瀬央さんの代表作になるのかな、と感じました。
台詞もわからない海外の人を、言葉と文化の壁を越えて「美しい」と感動させる作品なのですから。
でも、ちょっと早すぎたんじゃないかな、もっと他にあったはずじゃないのかな、という残念さもある。

公演当時にこの作品を観たファンの中には、瀬央さんと有沙さんのお二人が、いつかセンターに立つ姿を夢みた人も少なからずいたのではと想像します。もしリアルタイムで観ていたら自分もそうだったろうと思う。

今、瀬央さんのスタープロフィールは専科に移り、有沙さんのはなくなりました。
それは寂しいことではありますが、お二人によってこの「龍の宮物語」という美しい作品が生まれ残った幸運を喜びつつ、これからもっと美しい何かがお二人の行く手に顕れることを心から願います。

やっぱり長くなりました。失礼しました。

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ところでDeepLって、たまにアニメ構文な翻訳を返してくることがあってAI凄えなって思います。論文翻訳でもそれやってくれると楽しいのだけど。
「今回我々は◯◯をケイケンしたから報告しちゃうぞ!」みたいな。


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