「マイスターの教え」「専科のお時間」でプロフェッショナリズムを学ぶ

私はタカラジェンヌの“素顔“に興味があります。(しれっ)
とくに「専科」という枠組みと所属する方々に強い興味があります。

宝塚に親しむ前の自分は、専科について「老け役をやる人」という程度の認識しかなったのですが、いま所属している方々をみると決してそうではない。
巷でよく言われていて納得しやすい説明は「プロ中のプロ」ですが、これもよくよく考えると、具体的にどういう意味なのか不明です。そもそもタカラジェンヌ自体が非常にプロ意識の高い集団である中で、より精度の高いプロフェッショナルとみなされるには、一体どういう資質を要求されるのか。それを知りたい。

いまタカラヅカ・スカイ・ステージで、専科の番組が2シリーズ放送されています。

ひとつは「マイスターの教え・リターンズ」。これは専科(の大ベテラン)の方がMCとなって、ひとつの作品をテーマに出演者1名と対談する趣向。これまでに3回放送されていて、概要は以下の通り。

第一回 花組「銀ちゃんの恋」夏美よう/水美舞斗(専科異動後)
第二回 月組「出島小宇宙戦争」英真なおき/英かおと
第三回 星組「龍の宮物語」 夏美よう/天華えま

超面白い。
あらゆる経験をし尽くしてなお研鑽を止めない大ベテランがMCなだけあって、話の掘り下げや引き出しが深くて上手い。そしてゲストも、とりわけ感受性が高く物怖じしない人が選ばれているので、やり取りがスリリングで濃密な対談になっています。これを見た後は、テーマの作品そのものも見たくなる。自分はこれで、「銀ちゃんの恋」や「出島小宇宙戦争」という名作を知りました。

とくに第一回目が本当に良かった。夏美さんが、異動直後の不安を吐露する水美さんに「銀ちゃんの恋」で殻を破ったときの心情を思い出させて自信に繋げていくくだり、1 on 1 のお手本みたいな凄い手腕だなと感服いたしました。

雪組と宙組はどの舞台で誰がゲストになるのか、非常に楽しみです。

そして、もうひとつの番組が「専科のお時間」。こちらは専科同士の対談で、専科の中でも若手の方が先輩格の方にインタビューする形式です。

 第一回 凪七瑠海/凛城きら
 第二回 英真なおき/輝月ゆうま

視聴したのはまだ第一回目のみですが、これもめちゃくちゃ面白かった。
まず、使われている言葉が違う。タカラジェンヌはよく「お稽古に励む」という言い方をしますが、凪七さんと凛城さんはそうした婉曲な表現を使わない。つまり、同じ宝塚の舞台に立っていても、もう生徒ではなく仕事人であるという強い自覚がおありなんですね。
また語られるエピソードも非常に率直な印象です。例えば以下のような。(要約なのでニュアンスが間違ってたらすみません。)

【凛城さん】
・自分より芸歴が長い方から恭しく扱われるのが心苦しい。
・毎回、初めましての人々の中に飛び込んでいくことに緊張する。
・まだ専科として大劇場公演には出たことがなく不安。
【凪七さん】
・毎回、舞台のたびに緊張するし緊張を表に出すほう。
・女役で、女性の気持ちがわからず号泣した。
・「美しすぎる武将」と自分で言うのが恥ずかしかった。
・移動に大きなスーツケースを持って行ってはいけないと思っていた。
・自分も初めての現場に飛び込んでいくたびに胸がギュッとなるが、外の人(=宝塚以外の舞台人)はそれが普通だし、とにかく役に早く集中することだけを考えている。

あの巧みな仕事の裏側でこんなことを考え感じていらっしゃるのかと、意外なようで、でも納得がいく気がしました。


「マイスターの教え・リターンズ」「専科のお時間」での皆さんのお姿から、なんとなく、専科をプロ中のプロたらしめている要素が三つ、垣間見えてきたような気がします。

そのひとつにして最大の要素が「信用・信頼」。他者(作り手や観客)から寄せられるのはもちろん、自分自身へのそれがあって初めて、オファーに応じて期待される役割を完璧にこなし、期待以上の結果を出すことが可能になる。また、それができて当然という覚悟にも繋がっている。生徒であればたとえトップスターであろうと許される挑戦や失敗が、専科では許されない。相当な覚悟がないとできないと思います。
二つめが「教育的素養」。同じ舞台に立つ生徒を導き、トップスターとは違う背中を見せること。
三つめが「謙虚」。もしかしたらこれが最重要なのかもしれません。

やっぱり専科最強です。これから瀬央ゆりあさんも加わると思うと、ますます目が離せません。











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