「夢介千両みやげ」で雪組が好きになったでゲス

キャッシュレス生活に移行して以来、つくづく「お金ってただの数字だな。」と思うようになりました。増えても減ってもただの数字。もちろんゼロになったら困るし、少ないより多い方がいいには違いない。でもどれだけ増えようが、結局は使わなければ何の価値にもならないんですよね。

では、どう使えばお金の価値を最も高めることができるのか。若い頃はそれなりに背伸びして、身の丈に合わない高価な品物や経験に突っ込んでみたりもしました。これはこれでちゃんと意味がありましたが最近は、「高い価値に交換する」より「高い価値を生み出す」ための使い方を考えるべきなのかな、などとも思うようになりました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

雪組「夢介千両みやげ」を配信で観ました。

主人公・夢介は小田原の庄屋の息子で、牛のようにのんびりとした、あけっぴろげなお人好し。家業を継ぐ前に都会でひと通りの道楽修行を済ませるべく、親から千両をもらって江戸にやってきます。しかし道中で、また江戸に着いてからも次々と面倒ごとに巻き込まれては、義理もないのに気前よく大金をはたいて解決し、周囲を驚かせます。

傍目には、トラブルを安易にお金で解決しているようにも見えます。でも実は、夢介には鋭い洞察力と深慮があって。たとえ相手が悪人でも、お金をかけることで良い方向に導けると思えば惜しみなく大金を与えるし、逆に悪化させるなら「死に金」と言ってびた一文与えません。
つまり夢介は、人に対して投資をしている。
その結果、あっという間に千両はなくなってしまうけれど、かわりに人々から絶大な信頼や敬意や愛情を得る。すなわち元々の千両を、お金では買えないし得ようとすれば逆に失う、プライスレスな財産に変えたということですね。

やっぱり人、とくに若い人への投資がいちばん賢いお金の使い方なのかもしれません。ごく一部を除いて、物は経年で価値がどんどん下がっていくけれど、人は逆に上がっていきますから。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

演出家さんがなぜこの作品を宝塚でやろうとしたのかは謎ですが、雪組でやろうとしたのはわかる気がした。というか、この作品は現在の雪組でしかできない気がしました。

まず、主人公の夢介を演れるトップスターが雪組の彩風咲奈さんしかいない。
夢介は、切れ者なのを隠して鈍重を演じているのではなくて、あけっぴろげな人の良さと深慮遠謀が同居している多面的なキャラクターです。もともと愛嬌のあるお顔立ちで、またどんな人物像にも集中して入り込み、場面に応じて瞬時に切り替わるタイプの役者さんと思われる彩風さんならではの役だと思いました。

そして、若旦那を演れるのも朝美絢さんしかいない。
着流し姿が良く似合って最高に粋。空気感のあるキレのいい踊りにも惚れ惚れしました。自身の美貌を自慢するセリフを言い放って嫌味にならないのも朝美さんだけではないでしょうか。

雪組はトップコンビと男役二番手・三番手のバランスがとても良くて、安定感がある。地に足がついたお芝居も、派手さはないけれど堅実でいいなと思いました。
雪組さん、もっといろいろと観て解像度を上げていきたい。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?