見出し画像

スキップとローファー 文化祭編の志摩くんを因数分解

こんにちは。この記事ではスキップとローファー屈指の名場面の多い文化祭編を深堀していきます。つきまして主役はモノローグが多い志摩くん。他のキャラクターの進展と合わせてあまりにも華麗に志摩くんの内面が展開していくので大好きな巻です。

テーマは「これは嫉妬だ」とはどういう意味か?です。

ネタバレは5巻までです。

自罰的な志摩くん

夏休み〜夏休み明け(15話〜17話)

 夏期講習の帰り、リリカに突然呼び出される志摩くん。引退して一般人らしく生活できる志摩くんに「自分だけ楽しく高校生活やれるとおもわないで」と口撃してしまいます。リリカは普通の学生生活ではなく仕事を続けて自分だけ置いていかれることを感じて(「変なのは聡介でしょ」より)いますが、炎上の原因を感じているが為す術なしの志摩くんは「…ごめん」としか返せません。
 ここのパートから夏休み明けまでは一貫して幸せになる資格がないと考える自罰的な志摩くんが描かれています。リリカの行動に責任はないなど反論できるほど、志摩くんは自分を守る意味があるとは思っていないし、「いいこ」なので返す言葉がとりあえず謝るになります。このように比較的ストーリーの中で志摩くんの自己肯定感の低さは明示されています。
 夏休みでどれだけ生気を吸われたのか、登校初日はみつみに心配されるほど口数が少ない志摩くん。モノローグでも「躊躇いなくまっすぐ進んでいける君らの方がずっと眩しい」と弁えてしまう自分と逆に、自己実現に迷いのない先輩やみつみを遠い目で見つめます。

何かをするのに高尚な理由は要らない

文化祭準備(18話〜19話)

 文化祭準備編では、みつみや先輩のモチベーションに触れて自己内省を進めます
 クリスとご飯のシーン。自分に心地よい空間を作れているか心配するクリスと、他者を優先して調和を保つべきと話を意図していない方向に引いてしまう志摩くんのズレが描かれます。周りが気を遣われることを引き合いに出して志摩くんが正直に行動すべきだと示唆したつもりのクリス。しかし志摩くんは自分は平気であること+他者優先(こっちがメインだよね)を返答してしまいます。
 そして「オレらの中で一番楽しそうだった」と他者目線からの志摩くんの演劇への姿勢が言及されます。何が自分にとって楽しいのか、やりたいことが何かわからない志摩くんを、他の角度からどんどん描写していきます。リリカとの歩道橋での掛け合いでも「楽しく学校生活〜」というセリフがありました。ここから志摩くんは何が楽しいと感じるのかという自問自答を中心に回っていきます。

 文化祭練習のシーンでは、一生懸命仕事をこなすみつみと幼少期の志摩くんが重ねられます。教室のシーンではみつみの口から「楽しい」という言葉がまた登場。ここちょっと考えないと難しい。
 みつみが文化祭を頑張る理由は「頼られるのが嬉しい」「せっかくのイベントを楽しみたい」からです。みつみが今頑張るのを楽しいと感じるように、幼少期志摩くんは母が喜ぶから頑張り、そして楽しかった(楽しそうだった)。志摩くんは小さな石ころで転けてしまいそうな幼少期の自分を思い出し、声を掛ける。

 結局教室の床の大道具が見えていない(=周りが見えてない?)ほど仕事に忙殺されたみつみは、仕事をこなせず陰で愚痴られるところに遭遇し、不甲斐なさと悔しさと余裕のなさに反省。しかしみつみは立ち上がります。
 この幼少期志摩くんとの対比、悔しい一方で憧れのみつみスピリットを垣間見て晴れやかになります。「みつみちゃんはみつみちゃんだ」の台詞も、立ち上がれなかった志摩くんとみつみは違うと言われているようで憎い。

 場面は少し飛んで、兼近先輩に志摩くんが「演劇の最終目標は何か」と聞いたシーンです。兼近先輩は目標は後付けで日々の習慣の一部に似たものだと返します。ここは志摩くんが後で演劇部に入る理由になった重要場面だと思いますが、何かをするのに明確な理由は要らないことに面食らう志摩くんがいます。

 文化祭という小さい時間、みつみはやりたいことが明確にあって、それは「楽しみたいから」という内的欲求に影響され行動します。長期的には、官僚になることという、自分のためでも地元に動かされているともいえる目標を持ってチャレンジをやめません。たとえそれで傷つくことがあっても、ゆるく楽に生きることより目標達成を優先する強靭な精神があります。兼近先輩はやりたいことを自覚していて、でも外的報酬に影響された目標があるわけではない。他の人に評価されることを怖がらず、自己追求のために追わざるを得ない傷だと受け入れている。

 対して志摩くんはどうでしょうか。内的欲求を自覚できず、他者との調和を気にして生きている。その所為で何が楽しいか、やりたいことなのかわからない。

 まだ無自覚の志摩くんのようにとりあえず文化祭本番に進みましょう。

この感情は嫉妬だ

文化祭本番(20話〜23話)

 2回目の舞台の場面で、志摩くんのモノローグが続きます。
 「頑張ろう」「頑張って」と声を掛け合う同級生。彼らが頑張る理由はあるのか、自分が昔頑張っていたことは内的欲求に裏打ちされて今できるのか志摩くんは自問自答します。しかし好きな食べ物が思い浮かばないくらいだから、自分のしたいことは理解できない。なぜ周りに合わせる方が楽なのに、他の人だって外部に迎合した目標を持っているように見えるのに、なぜ自分は外部由来の行動で責められているように感じるのか
 志摩くんは内的欲求があって、それを自覚できて、「やりたいこと」として遂行できる人に嫉妬していることに気づきます。だから兼近先輩に対峙するには自分は不甲斐なくて悔しい。しかし収穫は十分でした。

 劇終わりに急いでリリカとクリスに駆け寄る志摩くん。今やりたいことがパッと思い浮かぶわけではないけど、「学校が楽しい」ことは確かですよね。過去にしたことは変えられないけど、前に進むには正直に許しを乞うことしかできなかった。リリカにブチギレられましたが……。

文化祭後なんかクッキリした志摩くん

 ダイジェストでお送りしますが、志摩くんは文化祭後に演劇部に入りました。逆に外部由来の行動を取る自分をなんとなく嫌悪していた志摩くんは、母を喜ばせるための演劇を逆に忌避していたんでしょうね。しかし敬遠することで内的な動機付けを隠しているかもしれないと思ったのか、演劇部に入るに至ったのだと考えます。


 文化祭編の志摩くんを追っていったのですが、いかがでしたでしょうか。書き方がいまだに定まらずどうやったら分かりやすくなるか試行錯誤を繰り返しています。面白かったらモチベが上がるのでいいね押してください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?