iPhone15proでしれっと追加されたLOG撮影とは何ぞや

ざっくり言うと

カメラのセンサーが捉えた12bitとか16bitある「明るさの段階」を、10bitとか8bitの「明るさの段階」の中に、人間の目の特性から見て効率的に収めるためのなんやかんやである。
データを軽くするために8000個くらいあるボールを1000個しか入らない箱に上手いこと選別して入れようぜ!みたいな感じだ。

ここで言う"bit"とはbit深度のことだ。色深度とも言う。
オタクは何かと約1680万色(正確には16,777,216色)に光り輝くのが好きだが、これは色の三原色それぞれが8bitの色深度を持っていることを意味する。
2の8乗が256、3色あるので256の3乗で16,777,216となる。

大抵の動画コンテンツの色深度は8bitだが、もし10bitが標準の世界になったらオタクは約10億色(正確には1,073,741,824色)に光り輝く。

なおここではYUVとかRec.709とかの話はしない。気になる人はググってみよう

人間の目が見る明るさ

目に限らず、人の感覚というものは小さい刺激に敏感で、大きい刺激に鈍感と言われる。
ろうそくの火が10本から11本になったときに感じる「変化の度合い」と、100本から110本になったときに感じる「変化の度合い」が大体同じということになる。

「人間の感覚の大きさは、受ける刺激の強さの対数(LOG arithm)に比例する」として、なんかえらいひとが「ウェーバー・フェヒナーの法則」という名前をつけた。

カメラ(センサー)が見る明るさ

一方カメラは明るさの変化を直線的に捉える。1本のろうそくが2本になるのも1000本のろうそくが1001本になるのも、センサーにとっては同じ量の変化である。

rawデータのようにセンサーが捉えた全てを保存する形式なら良いのだが、色深度を間引く場合は問題になる。
先ほどの例で言うと、人は1000本のろうそくが1100本にならないと、10本→11本のときほどの変化を感じられない。
ろうそくが増えるほど1本の価値は下がっていく。それなのに同じようにデータを割り当てるのはちょっと具合が悪い。

LOGは階調の価値を人に合わせる

LOGで撮った映像は、ろうそく10本→11本の時と100本→110本の時、どちらも明るさが1上がったものとして記録する。実際にはもうちょっと複雑な計算がされていたり色々あるのだが、要するに暗い部分ほど細かく、明るくなるにつれて大雑把に階調(明るさの段階)を割り振るということだ。

映画に使われるような冗談みたいにバチクソ高いカメラはダイナミックレンジが16ストップ(絞り16段分)くらいあり、バカ正直にビデオレンジに詰め込もうとするとメリハリのないショボい画になってしまう。
LOG撮影ならシャドウ・ミッドトーンに階調を多く残すことができ、より編集に耐えうる素材にできるのだ。

LOGで撮られた動画は後編集が必須

この動画ではLOGで撮った動画にカラーグレーディング(色味を編集してシーンの雰囲気を出す作業)を施す過程をまとめている。各カットのはじめに映る薄ぼんやりした動画が撮って出しのLOG動画だ。

暗い部分にデータを多く割り振るために、暗い部分を明るく持ち上げてからエンコードする。そのため、そのままでは動画のようにメリハリのない「眠たい」映像になってしまう。

LOGで撮った動画は撮ったままを見るためのものではなく、撮影後の色調整が必須だ。逆に言えば、そんな手間を増やすことになってもカラーグレーディングにとって低い輝度の階調が重要ということでもある。

iPhoneでLOG撮影ができると何なん?

正直わからん

LOGは映画の撮影でよく使われるし、ACES規格も映画に使われる色空間だから、本気で撮影機材として組み込まれたいのかもしれないし、単に映画っぽいことしてみたい人へのアピールなのかもしれない。
実際俺は別に撮るものもないのにこれを使ってみたいがために買おうとしてるし。

LOG撮影ができるカメラって高いしレンズも別で買わなきゃいけないからスマホでできるってのはちょっと面白いんだよね……。まあ高いって言いつつ、BMPCC4Kとか本体価格だけみるとiPhone15proのほうが高いんだけど。

どの層に需要あるんだよ感満載だからあんまりプッシュしないのかも。

余談

実はiPhone7くらいの頃からLOG撮影ができるサードパーティ製アプリは存在した。FilmicProというもので、Appleが「iPhoneで撮った動画だぜ」つってCMやってた頃に撮影用アプリとして使われていた実績もある。

ところで、iOSはセンサーが捉えたrawなデータへのアクセス権を写真機能以外に与えていない。動画アプリを作りたい人がiOSに「動画データくれ」というと、iOSは得意のコンピューテーショナルなんとかかんとかした後の動画データを渡してくる。このデータは今なら8bitか10bitか選べるが、どちらにせよセンサーが捉えたデータから既に間引かれた後のものになる。

LOGはあくまでbit深度をより最適化してから間引くための方法なので、たとえば8bit→8bitにLOGガンマを当ててエンコードしてしまうと、出来上がるのはスカスカのまま広げられたシャドウとごっそり間引かれたハイライトを持った動画である。階調の豊かさは変わらないどころか間引かれたハイライト分失われてしまう。

FilmicProのLOG撮影がやっていたのはまさにこれであり、残念ながらLOGっぽいフィルターをかけて動画撮影しているだけだった。
そういう意味では、今回初めてiPhoneユーザーはホンモノのLOG撮影ができるようになるかもしれない。

…Android機種ならどっかでもうやってそうだよなあ

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