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人生色々、インド人色々

インド人と一口に言っても、当然さまざまな人がいる。大都市と大都市でも気質が違うし、貧困層と中間層、富裕層の境目がくっきり分かれる。でも私が受ける印象を言うと、立場に関わらず自分たち目的からブレない人が多いと感じる。また個人レベルの目的と言うより、家族や同族としての目的だ。

サンディヤも決して自分を譲らない女性だった。インド経済の中心地、大都市ムンバイからこんな山の中のゲストハウスに来てしまった自分の行動はさて置き、その全てが気に入らない。

彼女は2階の風通し良く眺めの良い部屋を陣取った。私が自分の部屋を気に入っていない事を知ると、私の部屋も2階に変えさせた。彼女が来てからと言うもの、朝7時には私の部屋にもチャイが来た。毎日夕方には部屋の掃除が入ることになったけど、私物を触られたくない私は断ることに。

「毎日シーツ交換来てないの?」と、私まで半ば怒られた。星の付いたホテルじゃないし、日本人の私にとっては学生時代の合宿のようなもの。

サンディヤと一緒に過ごすようになった。大きな声で話す彼女はうるさいほどに賑やか。少しでもチャパティーが冷めていたら作り直させ、退屈すればステレオで音楽をかけさせた。ある時ほうれん草カレーの食感がジャリっとして、「スパイスってジャリジャリするのかな?」と聞くと、とっさにコックに皿を戻して抗議し始めた。どうも土が洗い切れてなかったらしい。

その剣幕に圧倒されていたら、「あなたももっと言わないと、誰も何も改善しないわよインドでは」と。サバイバル術を教えているつもりらしい。初めて食する食べ物にまさか土が入っているなど思いもよらず、更にサンディヤの押しの強さにも圧倒された。ゲストハウスの他のゲストたちにも、何故インドに来たのか根掘り葉掘り聞いては絡んでいた。

いわゆる女王様タイプ。でも中年を迎え体脂肪とコンプレックスを抱えた女王様。私の苦手なタイプかもしれなかった。会社のお局さまを思い出した。

ヨガの先生にも容赦ない意見をぶつけていたサンディヤ。大都市で豊かな生活を手に入れた彼女にとっては、妥協しない事が真剣さの表れなのだろう。「どうしても痩せたいんです」と。「今までどのヨガの先生についてもダメだったけど、今回はこんな山の中に来たし、食事も質素だから痩せられますよね?」と。都会の優等生を相手に先生も困惑していた。彼女が膝が痛いとクラスを休んだ時、先生はこうこぼした。

「インドの都会のリッチなマダムは、答えをお金で買えると思っているんだろうか」

「ピザもワインもタワーマンション暮らしもやめて働けば痩せられるだろうに」と。

先生っぽくない本音ではあった。先生も1人の人間。インドの田舎のヨガ青年なのだ。少人数の濃密な時間の中で、それぞれの仮面の奥の素顔が見え始めていた。

サンディヤと私は年齢は近かったかもしれない。元々痩せ型で気力だけで動いているような私と、ムッチリ筋肉質の彼女は対照的。私がクラスで質問すると、先生が答える前に「そんなくだらない事」と笑い声を上げたりする事が目立ち始めた。私が逆立ちに成功した時は、彼女の大げさな拍手と笑い声に驚いて倒れたこともある。

近くにいる人に強い共感や嫉妬を覚えることを心理学で「投影」と言う。2人だけでは息が詰まった。

ある日、いつもよりも喧々諤々とした質疑応答の後、サンディヤがお腹が痛いと言い出した。ちょうど急ぎの用事が出来た先生は、宿主に事情を話して救援を頼んで帰宅。それを見た彼女は胃の痛みよりも苦々しく、

「何もしないで帰るなんて、私のことが嫌いなのねあの人」と言い放った。

結局、宿主がドクターを呼んでくれ、薬の処方も受けて彼女の症状は落ち着いた。私に「あなただけだわ、側にいてくれたの」と。この後すぐにライブに出かける事は彼女には言わなかった。

先生にまで不信感をぶつける様になった彼女。「もう宿の食事はイヤ。代金は支払済みだし、外で食べさせてもらうわ」と言い出した。またワガママが始まったかという表情の先生も、特に反対もしなかった。

彼女と出かけた夕食のカフェ。テーブルの側に看板犬が来るのをひどく嫌がった。「ねぇ知ってる?」と彼女。「インドではヨガ講師はお金になるのよ」と。「先生も、普通の人の何倍も稼いでる。外国人は知らないと思うけど」と。

もう、どーでも良かった。

「私、このコース最後まで受けられるかしら?来週はムンバイから夫が遊びに来て一緒に観光するから休むわ。その時どうするか相談して決めるわ」って。

国際投資家の旦那とコースをサボってデートするのが幸せなの♡とでも言いたげな彼女。会社を辞めてヨガに来たのに、ただ自分のゆく先が思いやられた。

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200時間を過ごしたヨガスタジオ。私にとっては神聖な場所。

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