「花」

はじまりはいつも「一目惚れ」だ。思い返せばあれもこれも。だんだん緩やかに好きになったと勘違いしていたけれど、最初の最初で決まってたんだ。ピンクが似合うお洒落な彼。彼の胸元に刺さるバラになりたい。眼鏡越しの鋭い視線に撃ち抜かれた彼。眼鏡をはずしたその先を見たい。階段を降りる時の手を差し出す仕草にやられてしまった彼。この手を取るのが一生、私だけだったらいいのに。私はいつも、そう思った瞬間、恋に落ちている。
散った恋を思い出すときには、はじまりの瞬間が再生される。彼にまつわる人生の一瞬一秒を切り抜いて、花で美しく飾って何度も味わう。私にとって恋とはそのほんの数秒を差すのであって、残りの時間はすべて余興なんじゃないだろうか。思いあうこともすれ違うことも、恋の本質ではないのかもしれない。
つまり恋は育たない。だって、一瞬を切り抜いたものなのだから。切り花は枯れる運命だ。根を張り絡み合い大きくなることはできない。育むのは愛であるべきだ。
愛とは何か。土に根差す関係とは。それはきっと、始まりさえ思い出せない人たちだろう。切り花にも押し花にもできない記憶。自分の力で美しく咲く人たち。大好きな友人、恋人。私は彼らの雨となり、太陽となりたい。


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