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かなしいの箱をつくる

こころにも、救急箱が必要だ。

わたしは恋人と同棲をはじめるときに彼が救急箱を持ってきたので驚いたことがある。実家ではもちろん、一人暮らしの部屋でも薬や絆創膏を適当に保管していたせいだ。急いでいるときにすぐに目当ての薬を見つけることができて、これは便利だなあと緑色の十字が描かれたプラスチック製の箱をしげしげと眺めた。

救急箱は持っていないわたしだが、こころの救急箱を部屋の見えやすい位置にいつも置いている。こころの救急箱とは、かなしくなった時に自分を元気付ける物たちを仕舞った箱だ。具体的には友人から貰った手紙やプレゼントなどを保管していて、わたしは「かなしいの箱」と呼んでいる。

ずいぶん前に作ったので、これを機に中身をリニューアルしつつ、わたしがどんなものを仕舞っているのかを紹介したい。

箱について

まずは箱。部屋の一等地にいつもあるものなので、出来るだけ気に入ったものが良い。わたしは色々見た中で無印良品の紙箱がお気に入りだった。角がかくっとしていて、ほどよい重みがあり、チャコールグレーとベージュの色味が上品だ。だが、店頭ではあまり人気がなかったのか大幅に値引きされていた。このままお店から無くなってしまうのだと思うと、すこしさみしい。

わたしは「かなしいの箱」には、A5サイズの箱と見出しシールを使っている。見出しシールは箱と色を変えるとアクセントになってかわいい。また、紙箱にこだわらなくても、ホーローやプラスチックの容器などでも中身が見渡しやすくてきっと素敵だ。


箱の中身について

部屋の物をひっくり返しながら、かなしくなった時にわたしを現実に引き留めてくれる宝物をひとつひとつ集めていく。この作業をしているだけでも、さまざまな幸福な記憶を思い出してセラピーのような効果があった。以下はわたしが箱にいれたものたちのリストだ。

部屋のものをひっくり返しながら、宝物を探した。


  • 睡眠導入剤

わたしが落ち込んでいるときは、ぐるぐる考え事をするよりも、もう眠った方がよいと相場が決まっているので心療内科でもらった眠くなる薬をいれておく。ちなみに、この薬は前に飲んだときに眠気が翌日まで残ってしまったので、未来のわたしが困らないように注意書きをした。

  • からだをあたためるグッズ

めぐりズムの蒸気でホットアイマスクと、ナイトミン耳ほぐタイムという耳栓型のカイロをいれた。どちらもお気に入りのグッズだ。わたしは身体があたたまると安心して眠くなりやすい。これらをつかって、早々に眠ってしまおうという作戦だ。

  • クレンジングシート

眠ってしまう前に顔を洗う元気がないことがほとんどなので、メイク落としを入れておくことにした。顔や体を拭くとさっぱりした気分になって良い。メイク落としを購入した無印良品では歯磨きのシートも販売していて、これも気分がさっぱりして良いだろうと思った。

  • 『ちいさな手のひら図鑑 とり』

大学時代の友人にもらった鳥の図鑑だ。表紙がぷっくりとしていて、機序はわからないけれど触っていて安心する。また、贈ってくれた彼女のことを思い出してとてもうれしい気分になる。落ち込んでいるときは大抵表紙を撫でたり膝に乗せたりしている。もしそういった安心するぬいぐるみがあるひとは箱にしまっておくか、箱の上にのせておくと便利なはずだ。

  • 『たんぽるぽる』

好きな本を一冊いれておくことにした。『たんぽるぽる』はわたしがいちばんお気に入りの歌集だ。この本は、大切な友人に手持ちの『たんぽるぽる』を贈ったところ、恋人が自室から同じ本(ハードカバー版)を譲ってくれたものだ。かなしくなるまでは読めなくなってしまうが、落ち込むことが少し楽しみでいられる。

  • 妹からもらった手紙

妹はわたしの生活を気にかけて時折手紙をくれる。彼女からもらった手紙はどれもとても大切にしていて、時折読み返しては、げらげら笑っている。(とても面白い手紙なのだ。)

  • 思い入れのあるアクセサリー

母や亡くなった父からもらった指輪や、妹がプレゼントしてくれたネックレス(壊れてしまった)のトップをいれることにした。オパールの指輪は失恋したときに、ブレスレットは絵で受賞したときに母が贈ってくれたものだ。箱の中身を集めているとさまざまな細やかな記憶を思い出す。

  • 友人にもらったユニコーン

これは一人暮らしを始めたわたしに東北に暮らす友人が送ってくれた食玩だ。当時すごく不安だったので彼女から連絡がきてほんとうにうれしかったのを覚えている。真っ暗なトンネルに小さなライトが灯ったような感覚だった。食玩の中身は食べてしまったが、これも大切にしているものの一つだ。

  • もらった手紙

大学時代熱心に書いていたツイッターや文通を経由して貰った手紙。落ち込んだ時に読み返すと、元気だったころを思い出して少し背筋がのびる。

  • ブローチ

ずっと前に展示をした際に、ブローチがほしいとツイートをしたら焼いてきてくれたフォロワーがいて、わたしに贈ってくれた手作りの陶磁のブローチ。表面が滑らかで、触れているととても安心する。


おわりに

箱もなんだか誇らしげにみえる。

ほとんど宝箱になった。朝の光にお気に入りのものたちが照らされてとってもきれいだ。こんなふうに元気な間にかなしくなった時の準備をしておくと、次にかなしくなるのがあまり怖くなくなる。今回箱を作ってみて、自分の気分の浮き沈みを少しポジティブに捉えられるようになった。

あなたも気が向いたらぜひ「かなしいの箱」をつくってみてほしい。身近な人と箱の中身を見せ合ってあたたかな記憶をシェアしてみるのもきっと素敵な時間になると思う。


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