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プレップスクールのマナーの教え方

'Show your good manners.'

家の引越しにともない、息子は8歳から私立のプレップスクールに編入し3年間通いました。それまで通っていた、おおらかな公立の小学校とは異なる厳しいマナーに最初はびっくりしたようでしたが、徐々に慣れて新しい学校生活を楽しんでいました。

プレップスクールは、もともとはパブリックスクールへの進学を準備する13歳までの男の子が通う男子校で、現在も低学年からマナーを徹底的に習得させようとする伝統が残っています。

同じプレップスクールでも学校によってやり方に多少の差異はあると思いますが、息子が通っていた学校の子どもたちは次のような方法でマナーを学んでいました。


ドット制

低学年は、各生徒が「ドット」と呼ばれるご褒美ポイントを1年かけて各教科の先生からもらえるよう励み、学年の最後に集計をして、いちばん多くドットを獲得したクラスは学校からメダルやお菓子がプレゼントされる、という仕組みでした。マナーの良い行いをした生徒はドットをもらうことができ、息子は「先生が通るときにドアを手で押さえていてあげたら、ドットをくれたよ」と話してくれたことがありました。仲間を助けてあげたり、思いやりのある発言をしたり、何かを成し遂げたときも、その生徒にドットが与えられました。


ペナルティ

「ウォーニング」→「タイムアウト」→「ディテンション」の3段階で、マナー違反の罰則が設けられていました。例えば、授業中に無駄なおしゃべりをしたら「ウォーニング(警告)」、注意を聞かずにまだおしゃべりをしていたら「タイムアウト(休み時間に罰則室で椅子に座らせられ、遊ばせてもらえない)」、暴力をはたらいたりスウェアワード(侮蔑語)を発した生徒は「ディテンション」を告げられ、即座に校長室へひったてられて保護者にも連絡がいきます。大昔のような体罰は行いませんが、差別やいじめに対しても学校側は明確なポリシーを掲げ、決して容認することはありません。


握手

登校の際は校門に必ず校長先生あるいは学年主任の先生が立っており、握手をしながら目をみて挨拶をしないと学校に入れてもらえません。下校時も同じようにしてから門を出ます。これを毎日繰り返すことにより、先生は生徒全員の名前と顔を覚え、生徒も礼儀正しく握手をすることができるようになっていきます。


身だしなみ

息子の学校では6年生(10歳)から生徒全員がネクタイを着用するきまりでしたが、10歳といったらまだ遊びざかり。それに、うまくネクタイを結べない子もいます。ジャンプしたり走ったりしてネクタイが歪んでも、自分で直せない、直さないケースが多々あり、服装の乱れを感じた学年主任の男の先生が、ある日の学年集会で6年生全員を前にネクタイの結び方を実演、約100人のボーイズがそれを見ながら練習をする、という一幕があったそうです。幼い頃からネクタイを正しく結ぶことは、身だしなみを気づかう大人になるための第一歩であり、習得すべきマナーのひとつ。また、7年生からはネクタイに加えて制服のジャケット着用が義務づけられていました。 

※上の写真は息子と友人が学校の前でネクタイの練習をしているところです。


挙手の仕方

授業で何か発言したいことがあるとき、'Me! Me!' と声をあげたり、僕に気づいてと言わんばかりに手を何度も突き立てることは見苦しいとされています。手はぎゅっと握らずふんわり丸めて人差し指のみをたて、無言で挙手するよう教えられます。生徒たちは、先生にあててもらえるまで、その状態で辛抱強く待ちます。


直接的表現を避ける

息子が6年生の頃、同級生とふたりで移動教室のときに廊下を歩いていたら、同級生の男の子が鼻をほじり、それをたまたま学年主任の男の先生が目撃、注意をされました。その際、「鼻くそをほじるな!」ではなく、「金鉱から金を盗むのはやめなさい」とおっしゃったそうです。'Stop poking your gold mine.' という表現だったとのことで、poke = つつくと盗むの掛詞、gold mine = 金鉱(つまりここでは鼻の穴)、そして鼻くそを「金塊」に例えた言い回し。ジェントルマンは直接的で汚い表現は避けるべきであり、人が傷つかないさじ加減であれば叱るときもユーモアを交えてよろしい、というお手本を見せられた気がしました。気どっている、と批判するか、面白いね、と笑うか。私は、品位と優しさを保ちつつ、こういういかにもブリティッシュな言葉遊びをするひとが好きなもので、思わずニヤリとさせられました。


Text by Ayako Iseki      Photography by Akemi Otsuka  


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