BEYOOOOONDSと私。何の共通点もないアイドルに覚えた共感

BEYOOOOONDSというグループ名を目にして、一体なんと呼べばいいのか、いさささささか戸惑いを覚えるや否や、グループの下にさらに3つのユニットが、それぞれ「CHIKA#TETSU」、「雨ノ森 川海」、「SeasoningS」と、トンチキかつ統一感のない名前のもとに存在していることを知り、どんなグループなのだろうと、Youtubeで楽曲のビデオクリップをクリックすると、底抜けに明るい曲の途中で、まるでストップモーションがかかったかのように一瞬音が鳴りやみ、ボブカットの可愛らしい女の子がカットインしてきて、言うのである。

――すすす、寸劇ッ！？　

こっちの台詞である。

こうして、目に見えない糸に手を引かれるかのようにして、「ビヨーンズ」に興味を持ったわけである。

BEYOOOOONDSとの邂逅

少し前の話になる。はじめは、youtubeのアルゴリズムのちょっとした悪戯だと思って動画を眺めていた。アイドルに疎く、なぜyoutubeの「あなたへのおすすめ」に出てきたのか謎だったのだ。しかし、「こんなハズジャナカッター」の全部がフックのようなメロディ、他所のアイドルについて言及しているかのようにも聞こえるメタ的な歌詞、間奏の早口言葉、小芝居、アウトロのシャウト、私には全てが新鮮だった。へー、こんなアイドルもいるのか。そう思って、ビヨーンズと検索をかけたのが始まりだった。

ビヨーンズはそのころ、youtubeにサブチャンネルを開設したばかりで、サブチャンネル「ビヨーンズの伸びしろ」には、メンバー12人の自己紹介動画がアップされていた。一連の自己紹介シリーズは、新参者である私にとってメンバーの顔と名前を覚えるのに役立った。自己紹介と共通の10個の質問に答えるという形式は、同じことをするがゆえに一人一人の違いがはっきりと分かったのである。自己紹介も「私の好きな〇〇は××です」というフォーマットで統一されており、フォーマットの中で如何に個性を出すかという点で工夫が凝らされていて、興味深く聴くことができた。

しかし、彼女たちのことを何となく知っていくにつれて、不思議とビヨーンズに惹かれる気持ちが少しずつ弱まっていくのを感じていた。彼女たちのことを知れば知るほど、彼女たちと私の間にどんな共通点もないことを感じざるを得なかったからであろう。彼女たちがステージの上で歌っている姿を見ても、何か感じることはあっても、どこか他人事のようで深く没入することができなかったのである。

共感と謎

ビヨーンズに対する興味が弱まっていたたころ、「ビヨーンズの伸びしろ」にアップされていた、とある動画が私の心を再びビヨーンズへと強く引っ張っていった。それは、なんてことはない動画で、ビヨーンズと各ユニットの名前の由来を三人のリーダーが説明をするという趣旨のものだった。

自分の所属するユニットの説明で段取りを一つ飛ばしてしまった一岡伶奈さんは、高瀬くるみさんの説明の終わり際、そのことに気づいて言ったのである。

「あっ！思い出した！」

厳密にいえば、彼女は説明を「忘れていた」のである。しかし、彼女は「思い出した！」と言った。そのことで、私は一岡伶奈さんにとっても共感した。もっといえば、その瞬間だけは彼女がまるで隣にいるかのように身近に感じられたのだ。この感情を説明するのが難しいことはわかっている。ただ一つ言えることがあるとするならば、もし彼女と同じ立場になったとしたら、私は「思い出した！」とは言わずに、「忘れてた！」と言っただろう。だから、彼女と私には何の共通点もなければ、考え方も違っているのだ。しかし、彼女が「忘れてた！」とは言わず、「思い出した！」という言葉を選んだことに私は共感したのだ。私と違う言語感覚を持っていることに共感したのだ。それでいて、彼女がなぜそう言ったのかは、判らないのである。共感と同時に感じた謎が一岡さんをもっと知りたいと思わせた。

いくつかの説明をすることはできる。段取りを忘れていたことには少し前から気付いていたが、言い出すタイミングを見計らっていたため、言葉を準備する時間があったのだ、とか。動画の冒頭で、ビヨーンズの名前の由来をうまく説明できなかったことが伏線となっており、ミスを重ねるといった印象を与えたくなかった、とか。どんなときでもネガティブな表現を使いたくなかった、とか。彼女の意外な気の強さの表れである、とか。あるいは、そこにはどんなミステリーも存在せず、ただ単に、その時たまたま出てきた言葉だったのかもしれない。

けれども、私はそんなことは気にならない。なぜなら、この謎は私だけに隠された一岡さんの秘密であり、一岡さんを知りたいという私だけの気持ちだからだ。私は一岡伶奈さんの言語感覚の謎を解き明かしたいと思っている。この謎こそが、人が人を知りたいと思う関心の正体ではないだろうか？　そして、私は、この謎は永遠に謎であってくれても構わないと思っているのだ。

この動画を見てから、私は一岡さんのことが気になって仕方がない。私は、生まれて初めてアイドルに興味を持った。BEYOOOOONDSと一岡伶奈さんが導てくれたこの感情を私は大切に思う。自分とは何の共通点もないアイドルに共感するということの尊さを私は知ったのである。