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【読書】のマガジン

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2020年6月の記事一覧

「一場の夢は一巻の書物なのだ、そして書物の多くは夢にほかならない」

■ウンベルト・エーコ『薔薇の名前〈下〉』 「書物というのは、信じるためではなく、検討されるべき対象として、つねに書かれるのだ。一巻の書物を前にして、それが何を言っているのかではなく、何を言わんとしているのかを、わたしたちは問題にしなければならない」(P.100) うーん……。あまりに圧倒されてしまったし、たくさんの主題があって、まったく気持ちが整理できないというか何を書いていいかがわからない。「異形の建物」の迷路のように、この物語自体が迷宮と化しているようだ。私が無学で背

神・善悪・欲望

■ウンベルト・エーコ『薔薇の名前〈上〉』 濃厚!濃密!こんなに濃いフィクションを読んだのはいつぶりだろうか。 枝葉末節の拡げ方が大きい……という点ではチャンドラーも同じ性質だけど、全く違う。枝葉末節が比べ物にならないほどリアルで、実態を帯びている。それが必ずしも素晴らしいというわけではないけれど、このリアリティこの濃厚さゆえに超フィクションな世界観が築かれていく。その過程を体感できてとても楽しい。 ボルヘス『伝奇集』の感想に「この人なら『ロング・グッドバイ』を10ページ

庭園という魅惑

■アガサ・クリスティー『ハロウィーン・パーティー』 飛び飛びで読んでしまったので、なかなか人物も覚えられず、正当に評価できているか怪しい。内容については深くコメントしません。ポアロシリーズ晩年の作品ということで、成熟していて、教訓めいた話は多めかな。 あまり関係ないのですが、庭園が舞台として出てくるので、そこに思いを巡らせていました。 ポーの短編「庭園」(のちの「アルンハイムの地所」)や、少し違うけれどアガサ・クリスティでいえば『ポアロのクリスマス』に出てきた箱庭。のよ