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絵を仕事にしたい人へ(2023)

はじめに

この記事は、2010年6月〜7月にX(旧Twitter)TINAMI公式アカウントにて、つぶやいた一連のツイートの再録・修正版です。初出から実に13年(!)の時が流れましたが、現在でも我々TINAMIの根幹にある普遍的な考えです。
よって、ここに再録をすることにしました。再録にあたり、時代にそぐわない箇所の修正や、加筆しています。当時のオリジナルを参照したい方は下記のTogetterまとめや、Twilog(2010年6月2010年7月)をご参照ください。

(ツイートの経緯)

2010年6月に、TINAMIにプロダクション機能(現在のTINAMIプロダクション)が実装されました。これにより、プロダクションへの応募が多数あり、我々TINAMIスタッフが審査のために多くの作家の作品を見ている…という話の流れから始まっています。

絵を仕事にしたい人へ

今回、多くの方の作品を見させて頂いているわけですけど…とりあえずこれだけ言わせてください。仕事で絵を描きたい方は、ふだんからちゃんと絵を「仕上げて」ください。そして仕上げた絵を見せてくださいね。正直、ラフ線ぽいものを見せられても、僕らも困ってしまいます。
さらにそのことを突っ込むと「俺はまだ本気出してない(意訳)」「本気出せばもっと描ける(意訳)」みたいなことを言う方も、ごくまれにいらっしゃいますが…いやいやいや、我々は「あなたの本気が見たい」のです!

もちろん、ラフでもセンスや、デッサン力(空間把握能力)などは推し量ることができるのですけれども、全力で仕上げた作品を見せて頂けないと、(商業の仕事をお願いできるかどうかの)最終的な判断はまず無理です。あわてなくていいんです。まずはじっくり仕上げましょう。じっくりですよ。

振り返ってみると、イラストレーターの方への指摘は、だいたい以下の課題に集約されてきます。

A.仕上げる意識を持つ
B.似たポーズ/表情に偏らない
C.デッサン力
D.背景も描く
E.絵のテーマ性

絵を描き続けている人は、当然のことながら「絵を描くことが好き」だから、続けているわけですよね。でもそれって「好きなテーマしか描かない」ということになりがちです。趣味であれば、それはそれで問題ないと思います。楽しく描くのが目的であって、(もしかしたら楽しくないかも知れない)苦手なテーマをわざわざ描く必要なんて、どこにもないのですから。

しかし、趣味の枠にとどまらず、絵を仕事にしていきたい…という人は、そこから意識を少し上げて欲しいのです。

「好きな絵を描くことが好き」から「絵を描くことが好き」になって欲しいのです。

よくあるのが「自分が好きなキャラクターしか描かない」というパターンです。好きなキャラの好きなポーズ、好きな表情だけ描く(課題B)ことだけ楽しんで、そこで満足してしまう。好きなポーズだけ描いていると、デッサン力(課題C)も身につかない。キャラクターだけが描きたいので、背景は描かない(課題D)し、最終的な仕上げまで絵を描きあげることがない(課題A)。
…と、こんなふうになりがちではないでしょうか。

ただ、漠然と「描きたいものだけを描く」のではなく、いろいろなものを描くこと自体を楽しみにすることができたなら…ふだん描かないものでも「描けば楽しくなる!」という状態に自分を引き上げることができたらなら、どうでしょうか?

もし、それができれば、上記の課題A,B,C,Dはクリアできる可能性がぐっと上がります。裏を返せば、意識を変えなければこれらはクリアすることが難しいでしょう。なぜならば絵の仕事というのは「好きなものだけを描き続けられる仕事」ではないからです。
厳密に言うならば、絵の仕事で「好きなものを描き続けられる」ようにすることは、できます。でもそれを達成できるのは、絵の仕事を長く継続するうちにさまざまなハードルを乗り越えることができた、ほんのひと握りの人たちだけです。

課題Eについては難しいのですが…絵を「誰かに何かを伝えたい手段」として使ってもらう意識…とでもいいましょうか。「うまい絵はなんとなく描けているのだけれども、この絵で『何を伝えたいのか』がよくわからない」…みたいな場合ですね。これはたぶん、技術ではなく意識改革に近いかも知れません。

課題Cの「デッサン力」は、あるに越したことはありません。スポーツ選手の能力にたとえるなら、デッサン力=基礎体力(フィジカル)です。基礎体力が高い、筋肉量の多いヤツのほうが、競技への順応性は高い。たとえばベンチプレス60kgと120kg上げるヤツとどちらかと殴り合わないといけないとしたら、絶対に120kgの奴はイヤでしょう。

とはいえ、絵は「デッサン力がすべて」ではありません。デッサンの確かさに固執するあまり、「絵にもうひとつ魅力が足りない」と評価を受けている作家を少なからず知っています。でも、その作家は確かなデッサン力を持っているおかげで、仕事が尽きることはありません。

最後に、今後TINAMIプロダクションに応募する方にひとつお願いです。登録時に必ず「ご自身のやりたい絵仕事の方向性」を書いてください。それが夢物語であっても構いません。自身の強い意志を持つことは、とても大切なことです。
逆にそれがはっきりせず「なんでも描きます。なんでもやります!」という姿勢が実は一番判断に困るのです。そういう人に限って「じゃあ**を描いてください」とお願いすると「それは自分の描きたいものじゃない」とか「方向性と違う」と、後出しをしがちです。

絵に関わる仕事といっても、いろいろなものがあります。そして、たくさんの人がそれに関わりたいと思っている。その中で、いったい自分がどうしていきたいのか。それをしっかり決めてもらわないと、進む方向もはっきりしないし、我々もアドバイスや仕事の斡旋がしにくいです。

商業案件の需要と供給

すでにTINAMIプロダクションに登録し、オファー(※プロダクション内での公募案件)を眺めている作家さんにはご存じかと思いますが、公募をかけているのは原作小説のコミカライズなどのメディアミックス案件が多いです。しかも基本はマンガが多くなります。これは何故でしょうか。

まずイラストの単体案件がオファーとして出にくいのは「描き手が十分いる」からです。加えて、我々のほうでプロダクションに登録している作家さんの絵柄や得意分野による分類ができているので、クライアントの要望(絵柄や作風・また描くテーマ)に合わせ、ピックアップして提案をしています。そこからクライアントがいいと思った作家さんに直接声をかけているため、幅広く募集するオファーは出にくくなります。

ちなみにイラストの仕事で我々に相談が来るケースは大きく2つ。「短い納期で大量の作家を必要とするもの」「タイトル(ゲームなどの)の顔となる実力のある作家」です。前述のように、基本は公募でなく直接声をかけますが、選考のポイントで重要なことは、実はどちらの場合でも同じです。

クライアントは作家のどこを見ているのか?

話は単純です。カワイイ女の子・カッコいい男の子以外に…おっさんが描けるか、動物が描けるか、人型ロボットが描けるか…などなど。ゲームやノベルにはいわゆる美男美女以外にも、あらゆるキャラが登場しますが、キャラデザインをしてもらう段階で「それは描けません」というのはまずいわけです。

もちろん人によってテーマの得意・不得意はあるでしょう。でも、最低限のレベルでは描けるようではないと、イラストで仕事をしていくのは難しいです。なにより選ぶ立場として(クライアントも含めて)、「この人、どのくらい描けるの?」っていう疑問を(描いた絵を見せることで)納得させてあげなければなりません。

よっぽど素質がある人を除いて「一度も描いたことのないモノは描けない」と考えてください。「資料を見れば描ける」と思い込んでる人も多そうですが、断言します、それもよっぽど素質がある人「のみ」です。もしくはデッサン等の基礎がしっかりとできている人。

でも逆に考えてください。「どんなに素質が乏しくても、何度も描いて練習すれば描けるようになる」ってことです。もちろん100%はありませんが、テーマを出されたときに、描ける可能性はぐんとあがります。だからふだん描かないテーマにも、どんどんチャレンジして欲しいのです。

このへんは、絵の練習もスポーツの鍛錬と同じ考え方です。たとえば柔道の選手が、毎日腕立て伏せをする。腕立て伏せ自体は、直接的な柔道の技の動きにはありません。でも腕立て伏せをすることで胸の筋力がついて、相手の袖や襟を引っ張る力が強くなり、相手をコントロールできる確率があがり、ひいては試合にも勝てる確率があがっていきます。

絵も同じです。ふだん女の子をメインに描いていても、背景などもきちんと描けるようになれたなら、自分の絵の幅がどんどん拡がっていくでしょう。「背景が描けることで女の子をもっとかわいく見せるシチュエーションが描けるようになるかもしれない!」 …そういう想像力が必要です。一見、関係ない練習でも、最後は自分のレベルアップに繋がっていくという想像力です。

絵を仕事にしたい人は「描きたいテーマが描ける」楽しさのみを目指すのではなく、まずは「描けないテーマが描けるようになる」楽しさを目指してみるといいのではないでしょうか。そうすれば、おのずと結果はついてくるでしょう!

(おわり)


商業でイラスト・マンガに関わる仕事をしたい!という方、まずは是非ともこのTINAMIプロダクションにアクセスをしてみてください!

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