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自宅学習の『ほったらかし』で開成合格を可能にした、親子の真の挑戦とは

多くの中学受験塾では、小学3年生の2月から新年度のカリキュラムがスタートする。そこに合わせて通塾を開始した場合、入試までの通塾期間は約3年間と長期戦になる。それほどまでに、中学入試で問われる内容は、広範囲にわたり難易度が高い。

そんな中学受験界で最難関の1つである開成中学校に、ほぼ塾に通わず合格を果たしたのが、ブログ「オトクサの『ほったらかし受験』」が人気のブロガー・オトクサさんの長男、やまとくん(仮名)だ。

中学受験のスタートは、たまたま手に入った問題集

きっかけは、思いもよらないところから舞い込んだ。2019年の春、やまとくんが小3になる直前に、処分される予定の中学受験の問題集が大量に手に入ったのだ。内容を見て「一緒にやればできそう」と感じたオトクサさんは、やまとくん、そして2学年上の長女とともに、自宅学習で中学受験の勉強を開始した。

しばらくして長女は「やりたくない」というので受験をすることはなかったが、その一方、やまとくんは負けず嫌いの性格が良い方向に働き、本気で中学受験への挑戦を決意した。目指したのは、私立中高一貫校の開成中学。東京大学合格者数の高校別ランキングで43年連続1位を誇る、全国屈指の進学校だ。ただし当初は、自宅から自転車で通える距離にあるからというのが理由だった。

「目標は絶対決める必要があると思います。でも、やってみてだめなら変えればいい。無謀だとは思っていましたが、たまたま自宅から近かったという理由だけで開成を目指すと、僕が最初に決めました」

決めたのは父・オトクサさんだったが、やまとくんの中でも、開成中学への想いは着実に根を張っていった。「4年生の書き初めで『開成』って書いていましたね。授業参観で教室に貼られているのを観たときは、恥ずかしいからやめてくれって思いましたけど(笑)自宅で口にすることはありませんでしたが、その気になっているのかなとは感じました」と振り返る。

自由時間を確保するため、自宅でできる自己流の受験スタイルを選択

2023年度に中学受験生の保護者300名を対象に行われた調査結果(*)では、中学受験を目指す小学生の通塾率は約9割とも言われている。しかし、オトクサさんは当初から塾に通うことは一切考えていなかった。自身に中学受験の経験があり勉強の内容が理解できたことに加え、なによりも子供が遊びやゲームをする自由時間を大切にしたいと考えたからだ。

市販されている教材やYouTube、メルカリで購入した各塾の模試などを活用し、オトクサさんは通塾以外の自己流の取り組み方に徹した。その具体的な内容は、オトクサさんのブログ「オトクサの『ほったらかし受験』」に公開されている。自宅学習にも関わらず、『ほったらかし』と称していることに、疑問を持つ読者もいるだろう。『ほったらかし』の意味をオトクサさんはこう話す。

「全体的なスケジュールや取り組む問題集の選定など、判断が必要な部分は親がします。日々の勉強のオンオフと、丸付けをして間違えた箇所や分からなかった箇所を調べるのは、子供がします。これを、親視点で『ほったらかし』と呼び、ブログのタイトルにしています。子供視点だと『自走』になりますね」

絶妙なバランスのメリハリで『ほったらかし』の土台を作る

やまとくんも、初めから『ほったらかし』の環境で自走できていたわけではない。中学受験の内容は小学校で習う内容からかけ離れているため、小3と小4の2年間は、算数を中心に基礎固めにあてると決めて、一緒に勉強する時間を多くとった。

それと同時に、小5以降に『ほったらかし』できるように、「自主的に日々の勉強に取り組む習慣」と「分からないことをすぐに人に聞かずに、自分で調べて考えるスキル」の定着を意識した。たとえば、朝は決めた時間に起床し勉強することを徹底する。この勉強の習慣化が生み出す効果について、オトクサさんはこう語る。

「『勉強は日々の習慣であり、することが当たり前。わざわざ中学受験を目指した感覚はない』と本人も言っていました。この状態が、私のいう自走。つまりほったらかし状態なんです」

多くの親が、子供の主体的取り組みと勉強の習慣化を目指す。そしてそのほとんどが挫折する。オトクサさんが『ほったらかし』の土台となる、この2つを実現できた理由はどこにあったのか。そのヒントを明かしてくれた。

「勉強での親子の衝突はありませんでした。時には涙を流しながらも、私の言うことを素直に聞いてくれました。こちらの本気度を理解していたのだと思います。勉強が終わった瞬間に『さっきの怒り方、むかつくわ』と、言っていましたからね(笑)

その代わり、私は勉強以外ではほとんど口を出しません。"ここぞ"というポイントはしっかり決めて厳しく対応しますが、それ以外は受け入れる。勉強と遊び、親子の関係、どんな場面でもメリハリをつけた対応を実践していました」

緩めるところがあるからこそ、締めたいところがぐっとしまる。オトクサさんの手綱さばきは絶妙だ。徐々に緩めたり締めたりしながら、いい塩梅を探っていく。

たとえば、1日に取り組む問題集の量を、最初は10ページから始めて、後で8ページに減らす。あえて厳しく始めることで、その後を楽に感じさせる心理的効果を意識した戦略だ。子供に得した気分を味わわせながら、決めたことを守らせるのは、オトクサさんの得意技だ。

とことんお互いを信じきれるか?親子が挑んだ壮大な挑戦

締めたいところを締めるために、必要不可欠な要素がある。オトクサさんとやまとくんの間に築かれた信頼関係だ。その信頼関係がよく分かるエピソードを紹介しよう。

オトクサさんいわく「受験生のなかで一番受けていると思う」ほど、やまとくんは多くの模試を受けた。結果はどれも厳しかったが、これは当然とも言えた。なぜなら、各塾の模試は、その塾のカリキュラムと進度に合わせた内容になっているため、自宅学習で進めているやまとくんでは対応が難しいからだ。

努力しても結果が伴わない苦しさは、大人でも耐え難い。しかし、やまとくんはあきらめることなく挑戦を続けた。それを支えたのは、オトクサさんの言葉だった。

「『最後には追いつけるから大丈夫。いけるいける』って、ずっと言い続けていましたね。点数こそ良くはなかったですが、私は手ごたえを感じていました。」

その言葉どおり、やまとくんは最後に追いつくどころか、多くの受験生を追い越した。2月の入試本番を目前にした1月末の最後の模試、開成中学を目指す受験生に特化した「開成そっくりテスト」で3位という結果を出したのだ。解く問題集がなくなったやまとくんは、塾の特別講座を受講していた。結果発表が行われた塾の会場で、成績優秀者として壇上に立ち、かつては背中を追いかけていたライバルたちと肩を並べるやまとくんの姿は、同じ会場にいたオトクサさんの目に今でも焼き付いている。

「息子は、1月の模試で結果が出ることを楽しみにしていました。そして、それが現実になった。逃げずによく頑張ったと思います」

怒られても結果が出なくても、オトクサさんの言葉を信じ、自ら勉強と向き合い続けたやまとくんと、そんなやまとくんを励まし続けたオトクサさんの中学受験は、開成中学校の繰り上げ合格で幕を閉じた。

「中学受験は親も子も大変じゃないですか。できるだけ楽したいと思うんですよね。だから、ほったらかしです」

オトクサさんはそう語る。しかし、その『ほったらかし』を可能にしたのは、とことんお互いを信じきるという、決して楽ではない親子の挑戦の末だった。

*出典:《2023年》中学受験実態調査

▼▼お話を伺ったのは…▼▼

オトクサさん
8人の子供の父親。2023年、長男がほぼ塾なしで開成中学に合格。塾なし自宅勉強法、成績、子沢山あるあるなどをブログにて発信中。


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