確認は必要か不必要か:トイレには行かない方がいいんじゃないかなぁ、というお話

 トイレには行かない方がいいんじゃないかって話なんですけどね、他人が怖がったトイレには行かない方がいいんじゃないかと思うんですよ。

 話を持ってきたのはA君会社員なんですが、深夜に家で仕事をやっていて、付けっぱなしにしていたテレビで、怖いことがあるという噂のトイレにタレントが行く企画が始まったんですよ。
 A君、番組をまともに見てなかったので、何て言う番組で、レポーターの女の子とその助手の男の子の名前も知りません、そもそも仕事をやっていて体が固まったので、ノビをしてふと見たテレビ画面に若い子二人が映っていて、
「ここが怖いことがあるという噂のトイレです」、
 そのトイレを見て(え?)と見始めたんですよ。
 そのロケでは撮影スタッフも何人もいるんでしょう、画面がしっかり固定されて、女の子も男の子も番組の企画的にノっています、怖いよーって表情もしながら突撃しますという勢いがあって(芸能人だなぁ)って姿勢なんですが、その後ろにあるトイレを見た記憶がある。
 A君、学生時代に心霊スポットにたくさん行ったんですけど、公衆トイレって高速道路の休憩所以外は、同じトイレって意外と見た記憶がないんですよ、その中でこのトイレは見た記憶があるぞと集中し始めたんです。
 女の子がこのコーナーの主役のようで、ハンディカメラ渡されて、どんな状態かを説明しながらトイレに入ります、男の子は助手みたいで感情のコメントを担当して後からトイレに入ります。
 トイレは男性用女性用になっておらず、兼用というか男の人しか使わなそうな感じなんです、二人が入って、明かりを付けないんです、暗闇でも撮せるカメラのようで、暗いまま、それなりに中が解る映像が上下左右を映し、個室も全て中を映し、女の子が
「何もありませんね-」と言いながら外に出て、
 外の撮影班が二人を映す画面に切り替わって、女の子が
「今晩この瞬間は何も起こりませんでした!」と元気溌剌にまとめてスタジオに戻ったんですけど、
 女の子がコーナーのまとめをしたとき、男の子のテンションが異様に低くて、何も言わずにどよーんとしてたんですよ、女の子もスタジオもそれには気がつかなかったのか時間が迫っていたのか何も言わず、撮影班も男の子のことをただのオマケにしか思ってなかったのか女の子の端にしか映さなかったから、A君にはどういうことなのか、さっぱり解らなかったのですね。
 さらにA君はA君で、心霊スポットに行っていた学生時代だったらやったはずのことをやらなかったんですよ、それまで頭の中は仕事のこと一色でしたし、そのコーナーも突然始まりましたし、トイレを見たことがあることに気がついて思考が止まってしまったしといろいろあって。
 録画するのを忘れてしまったんです。
 さらにオカルト脳がなまってしまったようで、その番組の名前を調べることもしなかったんですって。
 番組が次の企画を始めて、混乱した頭で昔のことを思い出そうとして頑張るのですが、(あ、仕事を続けなきゃ)と混乱したまま仕事を再開して、いろいろ記録しないといけないことを全部やらなかった。
 まあ〝大人になった〟ということなんでしょう。

 さてA君、日にちが経って仕事が済んで、あのトイレのことをきちんと思い出しました。
 学生時代に三人の友達と某心霊スポットに行ってその帰り路、夜中に車を走らせていたんですよ、初めての道なのでスピードを出さず余裕を持って運転していたら、道ばたに小さな建物が見えましてね、みんな興味もなかったんですが、そこから男の人が数人走って出てきまして、停めていたバイクに大急ぎで乗って、びゅーんと走って行っちゃったんです。
 左側の二人と運転手の三人が
「なんだ?」と驚いて、右後部座席にいた四人目も
「え?どうした?なにかあった?」と聞いて、
 通り過ぎて少しして、何か事件があったのかもしれないから見に行こうとUターンしたんですね、
 戻って、バイクが置かれていたところに車を停めて四人が降りて、建物に近づいたら、トイレだよなと。
 中に入るまでもありません、近づいたら、中に何か立っているんです、電気が点いてなくて暗いんですが、見えるんですよ。駐車スペースに電柱があって、その電灯で見えたんですって。
 A君、(なんだぁ?)とそこで立ち止まったんですが、それは全く動かないんですね、服を着たマネキンだったんですよ。
 他の三人も立ち止まって、怖がっているというかドン引きしている表情でトイレの中を見ている、中に入るまでもない、もう行こうと。
 四人とも沈黙の中、A君は状況を想像します。
 さっきの男達、我慢できなくなって個室で用を足していて、出たらいきなりマネキンが立っていて怖くて飛び出したのかな、と。
 ただの想像です。あの中の誰かが、誰かにイタズラするつもりで置いたのか、それとも本当に怪異があってマネキンが立っていたのか解りません、でも暗い中さっきまでいなかったマネキンが突然いたら、そりゃ怖いだろうなと想像はできます。

 そのトイレじゃないかと。

 大学を卒業してもう何年も経っています、そのときの三人とは、一人を除いて連絡も取れなくなっていまして、連絡を取れる一人をB君としますが、番組が終わってまた日数が経ったんですけどね、連絡を取ったんですって。
「よぉ、久しぶりだな」
「おぉ、どうした」
 最初は無難な世間話をしましてね、それからA君、
「俺ももう頭がなまっちゃったようでさ、昔はパッとやったことが、もう出来なくなっちゃったよ」
「ふーん?どうした?」
 番組のことを説明しまして、リポーターの二人も番組の司会者の名前も解らない、番組の名前も調べるのを忘れたことを言って、
「あのトイレ、なんだったんだろうな」と言いましたらね、
「え?お前、あのときマネキン見たの?」とB君妙なことを言います。
「え?お前は見てないのかよ」
「ああ、俺はマネキンは見てないんだけどさ…そうか、お前はマネキンを見てたのか…」
「おい、お前は何を見たんだよ」
「いや、俺はな、ほら、みんな中に入らず、ちょっと離れたところかしか見なかっただろ、だから正確には言えないんだけどさ」
「うん」
「あの位置からさ、風船が見えたんだよ」
「風船?」
「あぁ、天井に浮いている風船がたくさん。たぶん天井一杯に。暗かったのに何故か赤い風船だと思ってさ」
「…ふうせん…ねぇ…たくさんか…」
「まぁ風船はいいんだよ、なんで赤い風船だと思ったのか、それもいいんだよ。それよりもさ」
「うん」
「その風船全部に、長い紐が付いていて、床まで垂れ下がっていたんだよ。全部。長い紐。それが怖くて近づけなかったんだ」
「なにそれこわい」
「お前にはマネキンが見えていたのか。俺にはそれは見えなかったし、CとDにはまた違うものが見えていたのかな。みんな見えたもの言わなかったしな、怖くて口にしちゃダメだと思って言わなかったけど、言えばよかったんだな」

……私だったら、声に出して確認したら怪異が付いてきちゃうように思えて確認しないと思いますが、みなさんはどうですか?同行した人と見たものの摺り合わせをしますか?

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