禍話リライト「黒い女の山」

 A君の話なんですけどね。学生で一人暮らしをしていまして。
 木曜日の夜、寝てまして、明け方に、金曜日の朝方ですね、足が痛くて目が覚めたんだそうです。両足の変なところ。
 くるぶしとか、足の甲のところとかが、こすったような変な痛み方をして目が覚めたんだそうです。
 夢かと思ったら目が覚めても痛い、本当の痛さで、いったいなんだろうと。
 起きて足を見てみても、別に赤くなったりはしていません、なのに痛いのです。
 布団に寝転んだまま足をさすって(なんだよー)と思っていたら、
「靴擦れだよ。山の中を長いこと歩いたからさ」。
 A君は一人暮らしです、なのに玄関の方から声がします。
 びっくりして声のする方を見たら、玄関に誰かがいて、こっちに歩いてきます。
 うわー!うわー!と驚いていたら、そいつが中扉の上枠に頭の上が隠れるんです。
 そいつが玄関からこっちに向かって歩き始めたときは、A君寝起きでまだ頭が働かず事態が認識出来なかったんですが、そいつの背がそれだけ高い女だと解ると、気を失ってしまいました。
 昼頃にまた目が覚め、改めて驚くのですが、誰もいません、中扉や玄関を確かめに行っても何もありません、玄関には鍵だけでなくチェーンも掛かっています。
「夢か?夢にしちゃ最悪だったけど、疲れてんのか?」と声に出しまして、 最悪な一日の始まり方だなと。

 次の日、土曜日、夜、先輩に誘われました。
「ドライブに行こう」
 ドライブか、気分転換にはなるなと車に乗りますと、他にも三人乗ってます。
 A君が乗って走り始めると
「肝試しに行くぞ」
 をい。
「肝試し?」
 やだなー。
「なんかなあ、黒い女が出る家があるらしいんだよ」
「嫌ですねー」
「なんすか、黒いって」
「真っ黒なんですか?影みたいのが歩いてるんですか?」
 みんなが口々に聞くと
「いや、黒い服を着た女が歩いているらしいんだけど、やばいらしいよ」
「へー」
「それ、誰かに聞いたんですか?」
「いや、ネットで教えてもらって」
「あぁ、そうなんですか」
「なんでも最近教えてくれますねえ」
 車はどんどん進むんですが、山に入ります。
(あれ、山道だ)
 A君、なんとはなしに、住宅地に行くんだと思っていたんですよ、
「先輩、山にあるんですか?その家って」
「山ん中にある、なんかねぇ、ボロボロのねぇ、なんかねぇ、壁もボロボロでさあ、柱くらいしか残ってない廃墟らしいんだけどさあ、そこを黒い女がぐるぐるうろつくんだって」
(あれあれあれ?夢の中で俺、山とか言われなかったっけ?)
 山は結構本格的で、道はぐるぐる廻ります、A君後ろの席で(うわぁ、嫌だな、確か山道を歩いてって言ってたよな)と考えていまして、
(やだよな~)と思っていたら、助手席に乗っていた奴が、車に酔っちゃったんですね。もともと弱いから助手席に乗っていたんですが、彼も「ドライブに行くぞ」とだけ言われて肝試しに連れて行かれるとは思ってなかったし、こんな山道をぐるぐる廻ると思ってなかったんですよ、それで酔っちゃった。
「ずびばぜん、吐きそうです」
 さすがに先輩も車を停めて「あっちで吐いてこい」とガードレールを指します。
「ずびばぜん」
 他に車は一台も通ってないしすれ違ってもなかったしで適当に止めて適当に降りて大丈夫だろうと、みんなしてそいつ、B君を
「いってらー」と見送ります。
「なんだよあいつ」と先輩が無情に言いますが、体質は仕方がないし、あんたが強引に連れてきたんだろうと。
「なんだよって、あいつはすごい弱いから、こういうところに来るんだったら、きちんと言って用意させないと駄目でしょう、山に来るんだったら」残ったみんなで言います。
 しかしB君、なかなか帰ってこない。
「あれ?」「え?」
「まだ吐いてるよ」
 向こうで「あぁ、すいませ~ん」とか言ってる。
(すいません?)
「車、誰も降りてないよね?」
(え?)と思って後ろを向いたら誰かが介抱してるんです。
 B君の背中を誰かがさすっている。女だ。おんなだ…。
 夜ですし離れてますしはっきりとは見えません、ぱっと見て「女の人が背中をさすっている」と察する程度です。その瞬間車が急発進しました。
 先輩がB君を見捨てて車を発進させたんです。
 A君が「ちょっと!ちょっと!ちょっと!やばいやばいやばい!」
 確かに、外灯もないところで、男が吐いているときに介抱してくれる、通りすがりの女なんているか?とありえない状況で、先輩が「駄目だ駄目だ駄目だ!」と絶叫しながら車を出すのも解らなくはないんですが、
「ちょっと待て!」とA君。敬語なんてすっ飛んで。「ちょっと待ってくれ!」
「先輩待てよ!止めろ!普通はこれ助けにいくところでしょ!こっちの方が数が多いんだし!何逃げてんですか!」
 カーブ二個曲がってようやく先輩も車を止めさせます。しかしいつ発進してもおかしくない気の高ぶりようです。
 先輩も他の奴も状況のおかしさ恐ろしさを言ってA君を黙らせようとしますがA君も怖いけどB君がいい奴だったこともあって義侠心が高まって
「じゃぁ!じゃぁ!じゃぁ!もういいですよ!行けよ!行けばいいだろう!俺を降ろして行っちまえよ!」と怒鳴って降りちゃいました。
 車はそれで動き出し、行ってしまったときに気がついた、
(やべぇ!そうだ、俺、サンダル履いてるんだ!)
 山に連れてこられると思ってなかったんでちゃんとした靴を履いてこなかったんですよ、
(これで山道歩いたら靴擦れ起きちゃうじゃん!)
 うわー!と思っても車はもう行ってしまいました、仕方がない、もう、ぅえーい!と覚悟を決めてB君のところに歩き出しました。
 まぁここで一人きりになるのも嫌ですし、B君と一緒にいればなんかいいだろ、と思ったのもありますし。
 来た方向に歩き出しまして……しかしB君が思ってたところ、確かここにいたはずなんだけど?ってところにいません。あれ?と思いつつ辺りを見回してみると、B君が向こうに歩いていました。
「おーい!B!」と声を掛けるとこちらを振り向いて
「あ!A君!なんだ、君は来てくれたのか!」こっちに戻ってくる。
「いやいやいや、みんな行っちゃったけど、来たよ」
「なんでみんな逃げたの?」B君事態を解ってないようです。「ドッキリにしちゃひどい」
「ドッキリ…いや、うん、今言うことじゃないんだけど、お前の背中をさすっている女性みたいのが見えたのよ」
 言われたらB君気がついたようで
「言われてみたら、なんか、俺誰かに無意識で「ありがとうございます」言ったな」
 人間あんまりに苦しいときには周囲の事なんて解りません、苦しさから逃れることに精一杯です、だから他人がそばにいたことを意識しなかったようです。
「うわー、怖い」
(いや今怖がられてもな。二人しかいないし)
「で、どうするよ。帰る?この先歩いて行って、みんなに追いつけるか?問題の家だってどこにあるか解らないし」
「戻るかあ」
 ケータイのライトで夜道を照らして歩くのですが、暗いし山道のガードレールって歩行者を守るものではなく車と一緒に歩行者を磨り潰すものですので、トラックが来たら危ないなと思いながら歩くのですが来た道を戻ります。
 山道は都会の道と違って、車での数分でも歩きでは数十分はかかるんですね、歩いて歩いて三十分以上経つんですが、行ってしまった連中から何の連絡も来ないんですよ、「どうした」とかも「大丈夫か」とかも。
先輩はともかくとしてあとの二人からは来たっていいだろうと「なんだあいつら」「ふざけんな」と二人して愚痴りながら歩きます。「ひどいね」「なんか言ってきたっていいだろう」
 歩いて歩いてようやくコンビニをみつけたので飲み物食べ物を買って、たまたま店に来ていたタクシーが休憩していたんで町まで乗せてもらうことにしました。
 二人も安心できますし運転手もちょっとした距離なので嬉しくて契約が成立し、ようやく帰れることになりました。
 結構な額になり、二人で出し合ってちゃんと領収証をもらいます。
「これはあいつらに請求してかまわないだろう」
 道中話を聞かされた運転手も「友達、ひどいねー」と笑っています。
 その運転手が領収証を渡すとき
「でもこの山、マジでやばいよ」
「え?そうなんですか?」
「うん、地元の人も来ないよ。トラックがこの山避けて遠回りしてるんだから」
 そういえばトラックは一台も見なかった。
 土曜日なんだから一台残らず休みってことはないだろうに。
「わざわざ遠回りしてるんだから」
「なんでなんですか?」
「黒い女が出るんだよ」
 怖いな言い方が。
 話を聞かされていた運転手、
「ま、絶対酷い目に遭うかは解らないんだけど。あ、ひょっとしたら、あんた黒い女に介抱してもらったんじゃないの?可哀想だからって。いいとこあるかもしんないよー」はははは。
(なにがおもろいねん)と思いつつ運転手とは別れ、怖いのでA君がB君の家に泊まったんですが、先輩たちから本当に一度も連絡が来ないんですよ。
「なんだこいつら」
「はぁ(威圧)」とか二人で言って。
 とうとうこちらから電話をしてみると、「電源が切れているか電波の届かない地域に~」というアナウンスが流れるだけで、夜が明けて日曜日になっても連絡が来ないんです。
 二人で、打ち上げではないんですが、二人で飲んで、怒りで怖さを紛れさせるのもあって延々と先輩たちへの文句を言い合います。
「タクシー代、絶対請求しよう!」
「請求だ!請求だ!」
 言ってるうちに日曜日のお昼、三時くらいになったころ、先輩の家族から電話が掛かってきました。
「帰ってこないんですけど、何か知りませんか?家の車だから無くて困ってるんです。どこかに泊まるんなら泊まるで知りたいんですよ」
「え?あー、うん、ぼくら、ま、なんていうか、途中で別れちゃったんで、解らないんですよ。ぼくらもちょっと話したいことがあるんで、あの、戻ったら教えてください、あ、連絡するように言ってください」
 電話を切って
「おいおいおい」
 先輩が部屋に手帖を置いていて、そこに何人かの連絡先が書いてあって、先輩の家族はそれをみて電話を掛けているらしいとB君に説明しました。
「帰ってないらしい」
「え?」
「帰ってきたら連絡してくださいとは頼んだけど」

 月曜日になり、お昼になって、また先輩の家族から電話が来ました。
「帰ってきました」
 月曜の早朝に帰ってきたようです。
 えぇ?と思って、言われた喫茶店に行ってお兄さんと会って、家族でのやりとりを教えてもらいました。

 お兄さんが先輩に
「お前、土曜日に出かけて日曜日に帰ってこなくて、なんだよ、連絡もせずこんな未明に帰ってきて」
「いやいや、言ったじゃん、肝試しに行くって」
会話が成り立たないそうです。
「肝試しって二日もかかるのか?おかしいだろうが!母さんだってすごい心配してたんだぞ!」
「肝試しに行くって言ったじゃんか」
 お兄さんも(あれ?なんかおかしい?)と気がついて
(あれ?こいつ、いつもとなんか違う)

「というやりとりがありまして、帰ってきたんですけどなんか変なんで」
「あぁ、そうですか」
「で、あなたに連絡しろって言ったんですけど、その、なんか、いつもケータイをいじっている奴なのに、ケータイ今日いじってないんですよ、帰ってからずっと。普段居間でケータイばっかり見てる奴だったのに。それもおかしいなと思って」
「そうですか」
 お兄さんと別れて、それからまた何日か経ちまして。
 気持ち悪いので先輩に連絡取らなかったんですよ、本当はタクシー代請求したかったんですけど。
 またお兄さんから連絡が来て「会ってやってくれませんか」と。
「大学も全然行ってないんですよ。あいつに会ってくれませんかね」
 お兄さんに肝試しに行ったことは言うんですって、写真撮ったとか廃屋を調べて面白かったとか言うんですけど、大学に行かないんですって。
 それで夜になると怯えだして、暗いのが駄目だと明かりをすごく点けるんです、もうおかしいと。
 そのうち「Cのせいで助からない」と言いだした。
「C君って誰?」とお兄さんが聞きます。
「お前が肝試しに行くって言ったメンバーに入ってないだろう」
「後輩にまた別にいるんだよ、Cってのが。そいつに写真を預けたんだ、写真を預けたのにあいつは捨てやがった。だから俺は助からない」
 お兄さん、こいつは何を言ってるんだとよくよく聞いて、弟は行ってないC君の家に写真を置いてきて、C君は説明も何もないんだから捨てた、
「そりゃC君捨てるよ、で、それでなんで助からないの?」
「いやぁ、もう、ちょっと、隧道のおじさんが、そうしないともう助かる方法はないって言ったんだ。たすからない……」
 なに言ってんだこいつ。それで「ちょっと会ってくれませんか」とA君に連絡が来たと。
「途中で別れたにしてもあなたなら何か解るかもしれませんので」
「えぇぇぇ………」
 仕方ない、A君行きましたよ、また先輩の家に。
 お母さんが出てきて「すいませんね」とか言って気を遣われてしまって。
「交通費出します」って言われて「いえいえいえいえ」と断るのですが本音では欲しかったりして。まぁ本当は先輩からタクシー代金払ってもらいたいんですけどね、親御さんからはもらえない。そんな雰囲気ではない。
 先輩の部屋に行ったら力なく「よぉ~」って挨拶されるんです、けれど山で置いていったことは何も言わないし謝りもしない。なんか無かったことになっている。
(まぁそこはもういいや)
「あの、あのあとなんか大変だったらしいですね、なんか、ねぇ」
「う~ん」
「なんか、ぜんぜん行ってないC君に、写真を預けたんですって?」
「う~ん、なんか、一旦、まぁ形に、デジカメん中だけだと良くないからって、ちゃんと写真って形に、写し出せ、げんしゅつしろって言うから」
「はぁ?げんしゅつ?」
「うん、現出しろって言うから」
「誰がですか?」
「隧道のおじさん」
 隧道?隧道…ずいどう?
「隧道って、あの、山にあったんですか?トンネルですよね?」
「いや、今はそんな話をしてるんじゃなくて、その隧道のおじさんが言うには、その、助かるにはそうするしかないと、その」
「誰から?〝誰から〟、助かるんですか?」
「お、お、女だよ」
「お、お、女ですか」
「女なんだよ、黒い女なんだよ」
「黒い女ですか」
「うん。写真撮ったんだ、みんなで。ばしゃばしゃばしゃばしゃ。みんなはケータイで撮ってて、俺はデジカメで撮ったんだよ。途中からいるなーって思ったんだけど、もう言い出せなかったんだ、そのときは。結構近くにいたから。山ん中でそんなことになったらパニックになるだろ。真っ暗な中で言ったら」
「そりゃそうですけど」
「俺にしか見えてないのかなぁと思ったら、後で聞いたらあいつらも全員見てたっていうんだよなぁ。言やぁいいんだけどなぁ、最初に見かけたときになぁ。でももう、いないことにしてばんばんばんばん写真撮りまくったんだよ、それから。何枚撮ったか覚えてないんだよ。でどうしようかなぁって思ったら、帰りに、なんか行きにあったかどうだか覚えてないけど隧道があって、おじさんが「停めなさい、止めなさい、車から降りなさい」って言うから、降りたらおじさんが、なんか野球帽被ったおじさんが来て、これこれこうしなさいと。こうしたら助かるからと。これ以外では助からないからみたいなこと言ったから、俺はその通りにしたんだ」
 やべぇ話してると。
(俺やべぇ話聞いてるな)
 めちゃくちゃじゃん、話が。
 行きに無かったトンネルがあるわけないじゃん。同じ道通ったのに。
 隧道かなんかしらないけど。古い言い方か。
 で、まぁ、
「まぁ、そうっすか」。
 後で調べたら、やっぱりその山にはトンネルも、昔に隧道も無くて、先輩はその隧道の名前まで言ったんだけどやっぱり無くて、無いところの無い人に言われても、それ助からないんじゃないか?嘘じゃないか?先輩がじゃなくおじさんが言ったことって。
「ええと、他の連中もしてるんですかね」
「他の連中はそれぞれ違うこと言われて、それをやってる」
 どうやらそいつらも他のめちゃくちゃなことを言われて実行しているらしい。妹にどうこうとか、二戸向こうの家の人にどうこうとか言われて、言われたとおりにやってるらしい。
「そうすれば助かるんだからさあ。別にそんな、犯罪行為じゃないんだからさあ」
「いやいやいやいやいや…でもまぁ、その、話を戻すと、まぁ、C君は捨てちゃったと。じゃあどうなるですか?」
「助からないのかなぁ……」
「じゃぁ、まぁ、その、ず、隧道に、ねぇ、まぁ、解んないけど、い、い、行って、ちょっと、おじさんに聞いてみるしかないんじゃないですか」
「お前、そんな怖いことできるか。お前」
 え?なんで?助けてくれるのに?そもそも信じられない話だけど、それでもあんたの話に乗ってるんじゃん。助けてくれる人がいるんならって乗って言ってるのに、
「お前、んなもん、もう、二度と助けてくれないよ。そんときだって気まぐれで助けてくれたんだよ。だって、そのおじさんだって、結局、お前、その女の家族なわけよ?」
 うぉぉ、こぇえこと言ってるな!
(こええストーリーだ!)頭がおかしい奴が作ったにしては。
「あう、あぁ、そうですか、気まぐれでそういうことを言ってくれたんですね、あぁ、じゃぁ、おつかれさまです!」
 って部屋を出ました。
 助けようがない。
 お母さんとお兄さんが待ってるところに行って
「心療内科とかに行った方がいいですよ。うん、あの、めちゃくちゃなことを言ってるから。で、なんか、食べ物とか食べてます?ちょっと痩せてるけど」
「食べ物は投げつけるんですよ。暗闇に向かって。なんでそんなことするんだって聞くと、黄泉戸喫(よもつへぐい)だって言うんです。やべぇモノを出されて食ったら死ぬから食わないんだって。いや、家族が出したものなんですけどね、駄目だって言うんです」
「いやいや、もう、本当、無理矢理連れて行ったら、先生が看てやばいって解ってすぐ措置入院とかになると思うので、点滴とかでも打たせたほうがいいですよ」
「うん…で、なんか、隧道の事って何か言ってました?訳わかんないこと」
「ええ、これこれこういうことを言ってまして」と聞いたとおり言って
「結局、その隧道の人も、今助けてくれって行ったって、まぁ、存在しない隧道なんですけどね、会えたとしても、もう、黒い女の身内だから、あのときは気まぐれで言ってくれたけど、もう教えてくれないって言ってますよ。ねぇ」
 すると
「へぇ~~」って、お兄さんとお母さんが
「そういう解釈をしてるのかぁ。へぇ~~」って言うんです。
……おかしくないか?この反応。
 普通は「なんであの子はそんなことを言ってんだ!」でしょう。
「へぇ~~、そういう解釈してるのかぁ。へぇ~~」
 お兄さんも「ふぅ~~ん、なるほどね~~。はぁ~~、そういう解釈になっちゃうんだなぁ~~」
 すごくこわい。
 家族だからリアクション違うでしょう。こわい。
「じゃ、じゃぁ、ねぇ、そろそろ失礼しますね」
靴を履こうとしたら、靴が上手く履けないんです。今回はきちんとした人の家に来るので、ちゃんとした革靴を履いてきていて、動揺している事もあって、革が硬くて上手く靴が履けないんです。
「すいません、靴べらありません?」と聞きながら玄関のあちこちを探してみると、下駄箱の上に写真立てが目に入りました。百円ショップで買ったような写真立てです。入れる写真に思い入れがあるんだか無いんだか解らない写真立てです。見つけた靴べらを使って苦労して靴を履いている間に、入っている写真を凝視してしまいました。
「うわぁ!」大声をあげてしまいました。
 ぼろぼろの廃屋の写真なんです。
 壁がなく、柱だけで、おそらくさっき聞いた廃屋の写真です。
 お母さんとお兄さん、二人が何かをぶつぶつ言って笑いながら台所に戻っていくのが見えます。
 その言葉がちょっと聞こえまして
「自分の持ってる土地でさぁ、そんな目に遭う奴なんかいないよねぇ」
笑いながら台所に入っていきました。
 え!持ってる土地なの?!
 先輩か家族か知らないけど、その廃屋はあるのは。
 もう嫌だこの家!
 靴べらを戻して外に出て、しばらく走って振り返ると、先輩が窓を開けてこっちを見ています。えらい大げさな身振りで手を振ってきます。「またねー」みたいに。
 テンションは上がっていません、ダウナーモードで、大きな身振りで、「またねー」という感じです。
(はぁぁぁ?)
 視線を下に降ろすと、一階の居間の方でも何かがバタバタバッタバッタしているのが見えます。家族の人たちが何かをドッタンバッタンやっているようです。
 なんとも言いようのない妙な動きをしています。
(えぇ?えぇ?えぇ?ん?)
 一階は本当に表現不能な動きなのでまた二階の先輩の方を見ると、手を振っているのではない気がしてきました。両手を挙げて揺れている、踊りを踊っているんじゃないかと気がつきました。
「うわぁ!気持ち悪い!この家族!」
 で、A君、帰りました。
 それっきり先輩がどうなったか知りませんし、C君も「どうしよう」と相談してきたんで
「か か わ る な !」と言ったそうです。

シン・禍話 第二十二夜2021/08/07
twitcast版
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/695682919 41:48ごろから

YouTube単話版
https://www.youtube.com/watch?v=i1UjrEkKPHs

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