鳥かごのある家:トイレには行かない方がいいんじゃないかなぁ、というお話

 みなさんこんばんは。
 えー、「トイレには行かない方がいいんじゃないかなぁ」って話をまた私の所に持ってくる人が来ましてですね、なんで私の所に持ってくるのかってのも気になるんですけれど
 かぁなっきさんのところは競争率が激しいっていうのもあるんでしょうが、私以外に「トイレには行かない方がいいんじゃないかなぁ」って話を聞いてくれる人もいなさそうだからっていうのも、あるんじゃないかなっていう気がしてきました。
 どなたか「トイレには行かない方がいいんじゃないかなぁ」って話を面と向かって聞きたいですか?
 私としては(なんだかなぁ)状態なんですけどね、かぁなっきさんと禍話を聞くまではこんなことありませんでしたから、巡り合わせなんでしょうかね。

 話を持って来たのはAくん男性で、中学生の時の経験だそうです。もう十何年も前の話なんですって。
 二年生になって六月になったらクラスメートBくんが来なくなっちゃった。二、三日来なくて誰も特に何も思わなくて、先生にも長期欠席の連絡も入っておらず、みんなして「どうしたのかな」とは思うのですが、特に親しい者もいないのでそれ以上になることもありません。一週間経たないくらいでAくんが先生からプリントを持ってってやれと言われまして。
 別に嫌いな奴でもないし遠くでもないのでいいですよとその日の放課後にBくんの家に行くことになったんです。
 先生から住所聞いててくてく歩いて行きまして、住所でマンション住まいだとは解っていたんですがいざマンションに着いたら、結構高級マンションなんだそうです。
 正面玄関でインターホンを鳴らして(間違ってないかな)とどきどきしてたら、女性の声がしまして、Bくんのお母さんなんですけど、「どなたですか」と。
「○○中学のクラスメートのAです」と言ったら玄関開けてくれましてね。
 入ってエレベーターまでに、応接ルームとか観葉植物とかデン!とありまして、初めてだから(すごいなー!)と 建物に圧倒されながらエレベーター昇りまして、Bくんの部屋の前まで行ってもう一度インターホン鳴らしまして、Bくんのお母さんなんでしょう、女性がドアを開けてくれたんですが、この人がまた若くて綺麗で、(お金持ちなんだなー)と思ったんですって。
 で「Aと申します、プリント持って来ました」って言いましたら、お母さんが「○○-」って部屋の中に声をかけて、奥から「はーい」って聞こえるんですけど、まずそこで「ん?」と思ったんですって。
 初対面の人だから違和感くらいにしか思えないんですけど、表情がちょっと暗くないかと。
 でお母さんが奥に戻っていきまして、Bくんがやって来るんですけど、まぁBくんは休んでるくらいだから表情が暗い。でも(あ、別に寝たきりになってるわけじゃないのか)って思って、
「プリント持って来た-」とのんびり言いましたら
「おお、ありがとー」って口調はまぁまぁ。
 でBくん
「あがってけよ」と誘ってくれまして、断る理由もありませんし、お金持ちのマンションの中も気になりますんで入ったんですけど、そこでまた「ん?」てのがありまして、
 部屋に入ってすぐのところに靴箱があるんですけれど、そこに鳥かごが置かれてるんですよ。鳥は入ってんです、玄関のところって別に日当たりがいいところでもないので、外に持っていくためにここに置いたのかな?と思ったんですが、まぁ別に聞くほどのことでもない。スルーして中に入って行きましてね。
 大きなリビングがあって、日当たりも良くて、お洒落だなーと部屋の中を見回していますと、お母さんが「いらっしゃい」って飲み物を出してくれて。
「ありがとうございます」って座って、Bくんに「どうしたの?」と聞きますと、Bくんも「うんまぁちょっとね」って、流すんですよ。
 別に親しくもないからそれ以上聞けず、テレビの前に置かれたゲーム見て(おぉ)と思ってたら、「やる?」って聞かれて、そのままゲームをする流れになりました。
 やってるうちに熱中しましてね、Bくんがゲーム仲間に思えてくるわけですよ、そんなに深い個人情報は聞かないし触れないけれど、ゲーム上のテクニックとか情報とか話していて二人の距離が縮まったと言えば縮まった関係になりまして。
 二人でゲームやってるうちに時間が経ちましてね、もう窓の外は陽が落ちて夕方になってまして、お母さんが「ご飯食べてって」って言ってくるんですよ。
 さすがにプライベートを知らないクラスメートの家でご飯はなーと心の抵抗はあるんですけど、そこでちょうど、窓から見える風景が夕方綺麗な光景で、心を奪われましてね、もっと見たい!って思いましたんで、お呼ばれされようと。
 家に電話しまして、友達の家で晩ご飯食べるからーって連絡して、お母さん手作りのお洒落な料理の前に座るんですよ、やっぱりお金持ちは違うなーって別世界に来たことを実感するのですが、お母さんにしてみたら、自分の子の友達が来たって嬉しいんでしょう、いろいろ聞いてくるんですって、小学生の頃とか、Aくんは小学生の時は学区が違うからその話をしたり、家のこととか広く浅く聞かれて、一生懸命答えたんですって。
 そうしたらBくんはBくんで、実は遠くから引っ越してここに来て、あまり友達がいなくてここら辺のことをよく知らないとか、お父さんは単身赴任で普段はいないとか、結構寂しい毎日を送っていたみたいで、お母さんも「うちの子のこと、よろしくね」って気配が結構あったそうなんですって。しかしAくん、リビングに入ってから視界には入ってたんですけど、聞いちゃいけないのかなと思って気にしないように気にしないようにしてたものがあって、Bくんもお母さんもフレンドリーになったから聞いてもいいかなと思って、
「ところで、あの鳥かごは何なんですか?」と聞いてみたんですって。
 広いリビングで、大きな長方形で、部屋の四隅と長い辺二つの真ん中当たりに鳥かごが計六個あって、そういえば玄関からリビングに入るまでの廊下にも一個置いてあったな、でリビングに入ってから気がついたんですが、どの鳥かごにも殺虫剤が一つ、一緒に置かれていたんですって。
 鳥を飼っているわけでもなく、殺虫剤があるけど虫かごでもなく、一体なんなんだろう?って不思議に思って聞いてみましたら、
「ああ、あれ?捕まえるためだよ」って言うんですって。
 何を捕まえるんだろうって思ったんですけど、鳥かごだから鳥を捕まえるのかな?と思って、それ以上は聞かなかったんですって。まだ鳥を入れてない鳥かごはインテリアに使うのかな、にしてはシンプルで、味も素っ気もない鳥かごだなって気にはなったんですが、それ以上は説明してくれないので聞いちゃダメなのかなと思って。
 で食べ終わりました。そしたらBくんが
「今日泊まっていけよ」って誘ってくるんです。
 さすがに泊まるのはずうずうしいだろと思うんですけど、ふと見ると、やっぱり夜景が綺麗で自分が住んでる町ってこんなに綺麗だったのか!って、もっと見たくなって、了承しちゃいましてね、また家に電話して「泊めてもらうよー」と言いましたら、「そちらの親御さんに代わりなさい」って言われて、親同士の会話になって無事一泊が決まりまして。
 Bくんの部屋に行きましてね、やっぱり鳥かごと殺虫剤があるんですよ。
 じっと見てると、Bくんも
「いつどこに出るか解らないからねー」とだけは言うんですって。
 Bくんの部屋から夜景が見えて、すごいなーと見とれるんですけど、ゲーム抜きでBくんともいろいろ話して、引っ越してくる前の土地のこととかゲーム以外の好きなこととか話しているうちに、夜も遅くなって、じゃぁ寝ようかと。
 で寝まして、夜中にトイレに行きたくなって目が覚めましてね、別にBくんを起こす必要もありませんから部屋を出てトイレに行きまして、トイレに入りましてね、高級マンションで、お風呂と一緒じゃないタイプのやつです。
 Aくんの家のトイレよりも広いんですけど、まぁトイレですから、すごいなってほど広くはない。だからトイレの中には鳥かごも殺虫剤も置かれてなくて、(あ、無いんだぁ…)って思ってしまうんですって。
 座って用を足して、ほっと一息吐いて、何故か、なんでか、上を見たんですって。
 別に視線を感じたとか、声がしたとか、何にもないんですよ、本当に自分でも解らないんですが、上を見ましたら、〝それ〟がいたんですって。天井の角のところに。
(ん?)と思ったそうです。
 それが何なのか、目では解るんですって。でも言葉では何とも言い表せなくて、〝それ〟としか言えなかったんですけど、あぁなるほど、〝あれ〟を捕まえるための鳥かごと殺虫剤なのかって、それは解ったんですって。
〝それ〟に目は付いてなかったんですが、Aくんを見てるんだろうなぁってのは解って、別に脅してくるわけでも攻撃してくるわけでもない。〝それ〟もじっとAくんのことを見ていたんですけど、ズズ、ズズっと天井を這って動いて、換気扇の中にスルって入って行っちゃったそうなんです。
 見てたAくん、換気扇の穴ってあんなに小さいのに、〝あれ〟は入っちゃうんだーってところに感心しちゃって、怖くはなかったというより、解らなくて、驚くこともなく騒ぐこともなく、見えない膜越しといいますか、大ケガをしたのに麻酔が効いていて痛くはないけど違和感はありまくりって感じを抱えて、Bくんの部屋に戻って眠りましてね、
 夜が明けて、いつもよりちょっと早く起きて、お母さんが作ってくれた、これまたお洒落な朝食を食べまして、〝それ〟を見たことは言わずに一度家に帰って今日の授業の教科書を持ってまた学校に行きまして、やっぱりBくんは学校に来ないのかと。
 でBくん、翌週も来ず、来ないなーと思っていたけどだんだん来ないなーと思うこともなくなって、しばらくしたら先生が、Bは学校を辞めたって言うんです。
 転校したとは言わずに、辞めたって言うんです。
 中学校って義務教育のはずで、辞めるなんてできるのか解らないんでど、とにかくもうBくんは学校に来ることはないと。それでもう一度あのマンションに行ってみたんですけど、郵便ポストにB家の名前がなくて、あぁ前来たときにあったか、見なかったなって思って、インターホン鳴らしてみたんですけど返事がなくて。管理人室には誰もいないから聞くこともできなくて、それで帰りまして、なんかもうマンションに行くこともなくて、それっきりになっちゃったそうです。
 Bくんからも別に連絡はなくて、その後Aくんは大学就職で家を出ましたが、ずっと親はそこに住んでいるので、当時は緊急連絡網とかありましたからね、Bくんがその気になったらAくんに連絡してくることはできるはずなんですが、そういうこともなく、Bくんとは会ってないそうなんです。

 で、聞いてくれているみなさん、Aくんがトイレで何を見たか、気になりますよね、私も気になります。なので「Bくんとは会ってないんです」と言って話を終わらせたAくんに、聞いたんですよ、何を見たんだって。
 すると
「私もつい最近まで、何を見たのか解らなかったんですよ、誰にだって一つや二つあるでしょ、見た物の名前が解らないとか、説明出来ない形容出来ないってこと。それだったんですが、最近になってようやく解ったんです。
「新耳袋」って怖い話を集めた本を知ってますか?その中に、たしか「牛女」にまつわる話がいくつかあって、その中の一つだと思ったんですが、道を歩いていたら着物を着た女性が電信柱のところでうずくまっているのを見て、大丈夫ですかと声をかけたらこっちを向いて「大丈夫です」と言ったその顔が、のっぺらぼうだって話があったんですが、私が見たのってのっぺらぼうの顔だったんです。解りますか?のっぺらぼうの頭があったんじゃないんです。のっぺらぼうの顔、顔面が天井の角にいたんです。解りますか?目も鼻も口もない顔が、顔面だけあったら、それがのっぺらぼうの顔だって解りませんよね?私は解りませんでした。だから「新耳袋」のその話を読むまで、自分が見たのは何だったのか、解らなかったし言えなかったんですよ。
 ええ、のっぺらぼう自体は話を聞きますし、映画とかドラマでも見たことはありますが、スタッフさんの工夫なのか、目鼻口がないだけで、皺というかでこぼこで顔を表現しているのばかり見てましたんで、ペロンとしていたあれがのっぺらぼうの顔だとは気がつかなかったんですよ。
 でも「新耳袋」のその話を読んだとき、驚いて声を上げて、本を放り投げてしまいましたよ。心が拒否して見ないようにしていたことなのか記憶が上書きされたのか解りませんが、自分が見た〝それ〟が、毛穴がぼつぼつあって離れているのにそれがはっきり見えて、とても気持ちが悪い物だと頭に焼き付いちゃったんです。〝あれ〟をはっきりと、自分の家で何度も見ちゃったBは、やっぱりキツかったんだと思います」
 私も言われて頭に思い浮べてみたんですが、よく解らなくて虫のお腹のような物しかイメージ出来ませんでした。
 Aくん続けて、
「その「新耳袋」を読んだのは最近で、怖くなったのも最近なんで、大学や就職したときは怖くもなんともなかったんですけど、もう他人の家のトイレに入るときは、びくびくして入っています。もしその家に鳥が入ってない鳥かごがあったら、仕事だったら仕方がない、家には入りますけど、トイレには絶対に入りません。換気扇からスルっと入ってくるかもしれませんからね。もう見たくないですよ」

 鳥かごのある家、という話でした。

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