禍話リライト「マネキンと夜中に踊ってはいけない話(後半)」忌魅恐NEO

 話を持ってきたのはG君で、大学生のときの話だっていうんです。

 大学時代の話なんですけどね、先輩の言うことには従わないといけないって時代なんですよ。
 女の子に対してはそこまで厳しくはないんですけど、男だけになると変に体育会系になるサークルで、そんな時代でも後輩はみんな(やだなぁ)って思うんですよ。
 とはいっても無茶をいうのは一部の先輩だけだし、ときどきしか言わないからみんな我慢してたんですけどね。
 その中でも悪ふざけはよくないよなぁとつくづく思った出来事があったんです。
 女の子がいるとそんな無茶もなかったんですけど、今から考えたら下ネタくらい言ってたかもしれないし、僕たちもそこは自覚してないから覚えてないだけかもしれないんですけどね、それでも女の子がいないと確実に、今から考えてもどうかなぁってことを言い出されるんですよ。
 パワハラと言えるか微妙なことを要求されるんです。
 あ、一気飲みとか一芸要求とかは基本だったな。
 でも一部の四年生だけだから、その先輩がいなくなったらいいかぁと思ってサークルを続けていたんです。
 その四年の先輩の一人が肝試しに行こうと言い出しましてね。
 あぁ肝試しか…そういえば先輩、ここら辺の育ちの人だっけと思い出して「この辺って心霊スポットあるんですか?」
「あるんだよ、すげぇ怖いところがあるんだよ」
 無茶をいう先輩の中でも比較的上の方で、就職ももう決まっている、そういう先輩が肝試しレベルのことを言ってきて、まぁ断ることもないかなと数人連れて行かれまして、その先輩の運転する車でヘンな山に連れて行かれました。
 とはいえ規模でいえば大した山ではありません、高さや勾配は子どもでも登れる山です、しかし「行くぞ」と言われて教えられた名前で検索してみても、特に話はヒットしなかったんですよ。
 掲示板でも怪談語りのサイトでもその山の話は全然見つからない。
(知る人ぞ知るってことなのかなぁ)
 何を思ったらいいかも解らない一同が車に揺られてしばらくして
「ここだここだ」と到着したのはボロボロの住宅群で突然現れたんです。
「…これ、なんですか?」
「いやなぁ、ここなぁ、すげぇ怖いところらしいんだ」
「(なんだお前も知らんのかい)え?あぁ、そうですか」
 この先輩、ここで(なんだお前も知らんのかい)と突っ込めない人なんですよ。無茶振りしてくる先輩の中では比較的マシな人だけど、それでも無茶振りしてくる時点で後輩一同からこう見られている人で。
 言えないからG君も「あ、そうですか」程度しか言えない。
 夜中に山の中を歩くのかと持ってきた懐中電灯の頼りない光で住宅群の中を歩き始めたんですが、先輩には目的の家が決まっていたようで、ずんずん歩くんですよ。
(あれ?初めて来るんじゃないのか)と思って後に続くんですが、どこかからギー、ギィ、ギーと音が聞こえるんですよ、それなりに風がある晩で、一軒ののドアが開いているんですよ。
(え?)と思っているとそのドアに向かって
「ここ、ここ」と先輩が立ち止まります。
 その家の中に、先に後輩を行かせようとするんですよ。
 それが何かを仕込んで驚かせるためなのか、素で先に行かせるのかが解らなくてみんな戸惑うんですが、ムードメーカーの一人が気を利かせて
「おーし!」と入るんですよ。入ってすぐ
「え!なんだよこれ!」と大声を上げまして
「すんごいボロボロのマネキン人形がありますよ!」と言うんです。
 驚いてみんな入ったら、ボロボロで顔がぐちゃぐちゃになって、結構打ち捨てられてずいぶん時間が経ってるマネキン人形があるんですよ。手足が無くて首が付いている。汚れも酷い。
「え~、なにこれ」「酷いな」「あ、先輩これ知ってて俺たちを来させたのか」と、みんな怖いというより呆れるんですよ、怖いといえば怖いけど、悲鳴をあげるような怖さじゃありませんわな、見ていて気持ちの悪い怖さだし、マネキン人形の胴体と首なのでそれ以上のものでもない。
 これを見せたかったのか。
 なのでじっくり見ると、顔は汚れているんじゃなく壊されていて、それも意図的じゃないかと思えるんです。他の汚損は経年劣化かなと思えるくらいなんですが、顔はそれらとは違っていて。
 ドアが開いているんだから雨風の影響もありそうですが、顔はそういうレベルではない。鼻を中心に鋭利な物で破壊されたんだろうなって感じです。
「怖いなぁ」「まぁ怖いな」と、そこらは全員一致です。
 これで肝試しは終わったようなもんだな、帰ろうと。
 帰りにファミレスででも打ち上げして、さっさと帰ろうとみんな思ってそこで気がついた。
 先輩、家の中に入ってこない。
 外にいて「どうだ?」なんて言っている。
「どうだって、こういうのがありますよ」と説明して、先輩が入り口で中を窺っている、入りゃぁいいのに入らない。
 懐中電灯の光を一瞬あててすぐ逸らして、またちょっとあててすぐ逸らすことを繰り返している。
(先輩、そんなに怖かったのかな)
 これを知ってて自分たちを連れてきたっぽいですからね。
(意外と怖がりだな)
(あ、誰かにマネキンがあるよくらいを言われて、家の場所は教えられたけど、マネキンがこうだとは知らなかったのかな、的な?)
(なんだ、しょーもねーなー)とかいろいろなことを考えて、ちょっと笑ってしまったんです、懐中電灯を持っての先輩の反応が滑稽で。
 そうしたらそれが先輩の気に障ったようで
「おぅ!なんだお前!」と怒ったようで変な空気になった。
 先輩の車で来たのですから怒らせると困るんですよ。
(面倒な人だなぁ!)
 すると先輩、最初にこの家に入ったムードメーカーの後輩に
「お前、そのマネキン、入り口近くに置いておくと良くないから、奥の部屋に持ってけ。ちゃんと置く場所があるだろうから」
 みんな(滅茶苦茶なこと言うなあ)と思うのですが、そもそも山に行くと言わていたことで、全員汚れてもいい服は着ていたんですよ、そのムードメーカーの奴も準備よく軍手を持ってきていて
「はいはい」とすぐ動き出します。
 みんなこいつ相手なら空気を和らげようと
「準備しとるんかい!」と突っ込んで「ハハハ」とお約束を踏むのですが先輩は笑わず(笑えよそんくらい)と。
 そいつが仕方ないとマネキンの胴体をおっかなびっくり持ち上げて
「気持ち悪いな-」なんて言っていて、一人で行かせるのも駄目だろと。
 そりゃ怖いですし嫌ですけど、他の皆がその部屋に留まるけど一緒着いて行ったんですよ。
 そいつ、マネキンを両腕で抱えないといけないから懐中電灯持てないんですよ、だからGくんが明かりを照らして、そいつも「ごめんな、ごめんな」と感謝するんですけど、さらに
「これ、結構重いな。水でも吸ってるのかな?俺マネキンのこと全然知らないけど、この大きさでこんなに重いもんなの?」
 かなり重いようです。
「へー、そうなの?」
「ちょっと持ってみ?」
 受け取ると、重いなんてもんじゃない、グッとくる。
 見た感じ以上の重さがプラスアルファがあって、さらに感触が、親戚の小さな子どもを抱きしめたときを連想させるものだった。
 マネキンの材質と人間の感じは違うのだからそんなはずはないんですけど、思っちゃったものは仕方がない。
(えぇぇ!なんかやだなぁ…)
 そいつは軍手で触ってますけど自分は素手ですから、その違いもありそうなんです。
(気持ち悪ぃ…)
 材質はマネキンだからプラスチックだか合成樹脂だかなんでしょうけど、重さと、あと中の芯が得体の知れない物、解っちゃいけないものという気までして、そいつに返して「やだなぁ」と手を拭いたら
「あ、ウェットティッシュあるよ」と取り出されて
「お前、どこまで物持ちがいいんだよ!」と突っ込ませてくれる頼もしさ。
「いや、なんか汚いことがある可能性もあるじゃん。犬の糞とか触っちゃっうかもしれないから一応持ってきたんだよ」
「すげーなお前は。ドラえもんかよ!」
「体型的にはドラえもんだよな!」明るく明るく。
 ようやく奥の部屋に到着し、ソファあったので、先輩に少し怒ってるのもあって、
「じゃここでいっすか?いっすね?ごめんなさいね!ここでね!」
「ここでいいだろ」と二人でマネキンの胴体をソファに寝かせました。
 その部屋には先輩だけでなく他の連中も来ないから、ちゃんと置いたと証拠の写真もケータイで撮りまして、戻ったらみんながまだあの部屋にいます。
「お、おおう、ごくろうさま」とねぎらってくれるんですが、先輩がいない。
「先輩は?」
「車に戻っているよ」
「えぇ!まさか、置いてかれてないだろうな?」
 半分冗談、半分本気で聞いてみんな急いで車のあったところに行くと、車はありました。
 先輩はその後ろでゲェゲェ吐いている。
(あらまぁ)と思って、先輩が落ち着くまでちょっと待って、少し時間をみてから先輩が吐いていたことを知らないふりをして
「戻りましたー」と声をかけます。
 いつもならそのままファミレスに行って打ち上げをするのですが良くも悪くも先輩をさっさと帰した方がいいだろうと誰もそれを言わず、先輩も各自の家のそばで降ろしていって、最後に降りるのがG君です。
 二人きりになって不機嫌そうな先輩にうんざりしながら、信号待ちの時に
「あ、写真撮ったんですけど、見ます?」
「なんの?(不機嫌)」
「(なんの?じゃねーだろ)いや、二人で奥まで持ってったって写真です」
「おぅ」
 表示して先輩に向けたけど一瞬しか見ない。
「(せっかく撮ったのにな)あぁ、そうっすか(なんだったんだ)」
 信号が青になり、交差点を進んですぐGくんが降りる場所です。
「ありがとうございました」と降りるんですけど、狭い道なのにスピード出して出発するんですよ、危ねぇなぁと思いつつ自分のアパートに向かおうと背を向けたら、その瞬間キッ!と大きなブレーキ音がしたんですよ。
 人が飛び出してきて急ブレーキ踏んだのかと振り返ったんですが、どうもそんな非常事態ではない、特に何もないのに止まっている、ケータイでも鳴ったのか?と見ていると、やっぱりそんな感じっぽい、何か話をしている感じだ。運転中なんだから無視すればいいのにと思っていると、何か変だ。
……助手席に誰か座ってないか?
 見える車の側面は運転手側で、先輩が首を向こうに向けて何かと話しているっぽいのは見えるんですが、何と話しているのかは解らない、携帯電話で話しているのかその向こう側、助手席に向かって話しているのか確かなところは解らないのですが、……なんか助手席に顔を向けてないか?
 仮にも心霊スポットに行って、気味の悪いマネキン人形に素手で触って、何か憑いてきてしまったのか?なんにも解りません。
(え?なに?…なに?)
 三分くらい車を見ていたら、ようやく車は走り出して行ってしまいました。
 なんだったんだろう。

 それからしばらくしてサークルで一人が
「おい、やっちまったぞ、先輩」ってきます。
 とうとうセクハラパワハラなんかで怒られたのか。ゼミでもイキってたと聞くし。
「先輩、単位が一個足りなかったんだって」。
「え?!」
 こういうとき、サークルに入っていると、サークルを監督している教職員から注意が入ることがあるんですよ、こいつ危ないから注意しろって。勉強とサークル活動の両立ができないと、外聞が悪いですからね。
 もちろん教えてもらえないケース、サークルもあるんですけど、それは大学やサークルのカラーに拠ります。また新入生の時に名簿を作る人が学籍番号を間違えて、名簿上では訂正されても大学のサークルを管理している学生課に訂正を持っていくのを忘れる人もいて、そういうときには注意喚起が起きません、いろいろなケースがあるんですけど、その大学のそのサークルではあるはずの注意が、その先輩には無かったんですね。
「え?!嘘でしょう」
「先輩、数え間違えたみたい」
「え~…そうなんだ…」
 で、本来なら足りない単位は一つなので、半年だか半期真面目に講義を受ければ履修できて、それで終わりになるものだったのですが、何が理由か解りませんが取れなくて、決まっていた就職も駄目になって、そこからずるずる凋落が始まり留年し、髪も髭も服も酷くなっていき、卒業ができなくなり、サークルも現役は引退となりOBの立場になります、
 酒の臭いもするようになって生活態度が目に見えて荒れ出し、それも安い酒みたいで、みんなからあからさまに迷惑がられるようになった、それでも先輩はサークルの部屋に通って、夜に女の子がヘンな絡まれ方をされたとか話が伝わってくる。
 代が変わっての部長たちが「来ないでくれ」と言いたいのだけど、どんなに酷い先輩でもあからさまに苦情を言えない時代で「来る回数を減らしていただけると助かるんですが」と遠回しに言って、それでも来られてそれ以上言えない。
 そんな大勢にストレスがかかったサークルになったんですが、それでも時間が経ってG君も卒業し、何年か経ってG君ががたまたまサークルに遊びに行きましてね、文化祭とかに顔を出しているので現役生G君を知っているし、G君もサークルと距離を取っているから「いい先輩」なんです、たまたま遊びに言ったとき現役生から
「あのすいません、○○さんって知ってますか?」
「え?先輩?そりゃ知ってるけど?」
 先輩、留年と休学を繰り返して、とっくの昔に卒業しているG君の想像を超える今現在も大学にいることを知らされて、驚くわけですよ。
「え!一個の単位でまだいるの!」
「この間Mちゃんて子が残っていたらやってきて、訳の解らないことを言ってきたっていうんですよ」とあらましを聞かされて
「えー!」となりまして。
 やばいということは、現役生が思っている以上に解ります。
「それで、あのぉ、Mちゃんもなんか、気持ち悪いって言ってまして、なんというか、あのぉ、俺たちもあの人から年齢もずいぶん離れていますから、すいませんけどGさんから、なの、あ、住んでるところは変わってないって聞いているんで、一回ちょっと、Gさんから、話していただけたらなぁと?それ以外の人って地元に帰ったり全然違うところに行っていたりで、滅多に来ないですし連絡も取りづらくて、たまたま来てくださってときどきお会いしているで、よろしければなんですけれど、」
 たまに来る先輩にこんな気持ちの悪いお願いを言うのは本当に心苦しいという言い回しをされて、断れませんわな。
(しょーがねーなー…同じとこ住んでんのか!まぁ安いところっちゃぁ安いところだろうけどさ)
 話を聞いて、夕方になっていたんで、行くのは後日としてもちゃんと場所を覚えているかの確認で、その足で行くだけは行ってみました。
(二階建てだっけ?三階建てだっけ?角部屋だったよな?)と行ってみたら案外記憶は正確で、アパートに辿り着きまして、二階建てかと上下の記憶違いの心配はなく、こっちの方の角部屋だったと見た部屋に明かりが付いています、(いるのか)と思い、近づいて下から見上げたら、カーテンのない窓に人が立っています。
(あ、いるのか)と思ったら違った、人ではなくマネキンの背だ。
 マネキン人形の後ろ姿なので顔がどうなのかは解らない。
 思い出してしまう、あの部屋のマネキンの潰れた顔なのか。
 下半身は解らないけど両腕がなく胴体に頭が付いているマネキン人形が背を向けて窓からすぐ見えるところに立っている。窓に寄りかからせているのかもしれない。
 これが知らない人のやっていることだったらオブジェとか洋裁やっている人が道具として置いているんだろうなと思えるのだけど、あの先輩です。
 部屋に灯りは点いているのだけど煌々と点いているのではなくて眠りから目が覚めた人が手元の明かりを付ける、その程度の明るさなんです。
 マネキンの白さが映える、嫌な映え方をさせる明かりです。
(嘘だろ…)
 外の人に見せる置き方だとしか思えません。
(まさか、あの家から持ってきたんじゃないだろうな?)
 そして何故か
 あのままだとドアが開け放しになっているから、奥には置いたけど外気が入って汚れちゃうから持ってきた?
 という思いが浮かびまして
(いやそんなことはないだろう!…でも…)
 と考えが溢れてまとまらなくなったとき、ずっと窓を見上げていたG君に、そのアパートの住人だと思われる人、コンビニの袋を下げた人が通りがかり、しげしげとG君を見ているのに気がつきました、G君も不審人物と思われたことを自覚し
「あ、すいません」と謝りますと、
 その人、女性なんですが、そのまま一緒に窓を見上げ、
「あの…、この部屋の人のお知り合いですか?」
「え!あー、いや、はい!」
 すると女性は
「聞こえちゃうかも知れないから」とちょっと離れた駐車場までG君を引っ張って、
「私、反対側の角部屋に住んでるんですけどね」
(そんな離れてる人なら交流ないんじゃね?うるさくしても声も音も届かないだろ)
 女性はずっとその部屋に住んでいる人には見えず、大学生だったら在学中だけこのアパートに住んでるだけっぽい人に見えるので、何年も住んでいる先輩の昔は知ってなさそうだ、昔からずっと住んでる人だったら先輩がどんどんおかしくなっていく過程を見ているかもしれないけど、この女性はそんな長いこと住んでないだろう。
 「あの、あの部屋の人、夜にというか、もう少ししたら、徘徊を始めるんですよ」
「…はい、かい…ですか。この辺歩き回るんですか?」
 暗くなったらこの界隈をブツブツ呟きながら歩き回って迷惑をかけているのか?
「いえ、外廊下を歩くんです。あっちからこっちまで、何度も往復して」
「そとろうか、おうふく、なんども」
 防音設備がきちんと為されているようには見えないから足音がするのかな?
「スリッパなんかだとペタペタ程度だから聞こえないんですよ。革靴を履かれて歩き回られるから足音がしまして。気になってしまうんですよ、で、その、リズムがあるんです」
「りずむがある」
「リズムがあるなーと思ってドアののぞき穴から見たら、何かを胸に抱いて、ワルツのリズムって解りますか?つっつつ、つっつつ、つって、踊ってるふうに見えるんです」
「」
「普通じゃないですよね?喋ってはいないんです。歌ったりとか。足音だけだから気にしない人は本当に気にならないかもしれませんけど、私見ちゃいましたから、ずっと何かを抱いて、何を抱き寄せているのかは見えませんでしたけど、何かを抱いてテンポ良く行ったり来たりしてるんですよ」

 えええぇぇぇー!
 これ、俺がなんとかできることじゃねぇだろう!

 女性にお礼を言って別れ、大人の力を借りました。
 連絡の取れるOBに知らせ、大学の教務課に通報し、学生にそのアパート方面に行くときは注意喚起をし、構内の警備員さんに事情を説明し見回りに今以上に気を遣ってもらい、現役生からすごく感謝をされたそうです。
 二十歳を超えたばかりの学生には、年の離れた現役OB?にはそこまでできませんでしょうから。

 Gくん吐き出しまして
「違うんです、怖かったんです、その部屋に行きたくなかったんです、その部屋に行ってドアを開けて、マネキンはこっち、ドアの方を向いているわけじゃないですか、どんな顔かも見たくないから、ありとあらゆるやり方を調べて他人に頼ったんです。後輩達から感謝される筋合いではないんです」

 結局その先輩は大学生活が駄目になって、退学なのか放校なのかは解りません、そしてまだそこに住んでいるんだそうです。
 九州のどこかの大学の安いマンション、そんなにボロくはないらしいんですよ、増改築をしたらしくて。
 パッと見綺麗な感じらしいんですけど、そこの角部屋にずっと住んでる人がいて、夜に変な足音がするんだそうです。

終わり

禍話インフィニティ 第三十一夜 57:10ごろから


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