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王子の権現

王子の権現  木花郷土史
 一ツ瀬川河口の海辺に王子という地名がある。神武天皇が幼少の頃に遊行したことから王子と呼ばれるようになった。
 いつの頃からか、権現様を鎮守の神様として祭るようになった。
 
 ところでこの王子というところは、土地が低く、つねに潮水害に悩まされていた。
 ある日のこと、大しけになり、大波が押し寄せた。しかし、逃げる場所もなく、人々は権現様で祈っていた。
 波音は高まり、風は吹きつける。もはや、終わりと思ったときも人々は祈り続けた。
 不意に波音はひき、静寂が訪れた。人々が外に出ると海は静まり返っていた。

 逃げ遅れた人たちが海を見つめて立っていた。
 その人たちの話によると、もうおしまいだと思ったとき、どこからともなく一羽の白い鶴が現れ、浜辺に飛んできた。それに従うように、大しけはおさまり、荒れ狂った海は静かになったという。
 それから王子の地は洪水があっても害がでることはなくなったという。
 今は下富田神社となったが、人々はいまでも王子の権現さまと呼ぶという。
 
 天之尾羽張大神として祀られている。この神は剣の神霊とされ、国土平定のための武神である。しかし、ここでのイメージはモーゼのように巨大な自然現象を納める神のように思える。


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