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幽霊の声

幽霊の声 了凡四訓

 明の時代、應大猷という書生は山に籠って勉強していた。
 夜になると鬼(幽霊)が庭に集まって騒いだが、気にすることもなかった。

 ある夜、彼の耳に悪鬼の話が聞こえてきた。
「あの家の女がほかの男と結婚させられるのは、夫が長い間留守にして帰ってこないからな。そのことを悲観して、明日の夜、あの女は首を吊り、私はその身代わりになることができるだろう」

 悪鬼にとりつかれ、溺死したり、死んだものは生まれ変われず、殺した鬼の代わりにその場所にとどまる。そうして鬼となってしまった人もまた人を殺すとそのかわりに転生できるという話があり、これはそのためと思われた。

 應大猷は畑を売って銀子(大金)を作った。そうして話に聞いた家のことを調べ、夫の帳簿を偽造してお金を家に送った。
 その帳簿を見て、字が違うと怪しんだものの、大金であったので、だれかに頼んで書いてもらったということになった。

 結果として女はどこに再嫁することなく、夫が戻ってきたので平和に暮らした。
 しかし、應大猷はそれをいわなかったので真実が明らかにされることはなかった。

 暫くして應大猷は庭で鬼たちが集まって話しているのを聞いた。
 應大猷に復讐してやろうと息巻いていた鬼がいた。その声は女を身代わりにしようと考えていた鬼であった。
「あの書生殺してやる」
 しかし、中の一匹がそれを止めた。
「既に、天帝の判がでている。あの書生、いずれ尚書にのぼる。我々で害することはできない」

 数年後、應大猷は科挙に受かり、善事に励み、最後は刑部尚書を務めた。
 後に知られた陰徳を施した話の一つがこれである。

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