12. 年越しはアイスで。
2年ほど前、実家に帰った際に母親が言ってきた。
「誰かが言ってたけど、年越しそばと一緒に、アイスを食べると縁起がいいらしいねえ」
そんなわけあるか。
というのも、年越しにアイス。言い始めた誰かとは、何を隠そう、この私だ。
話は中学の頃、1990年頃に遡る。
年越しと言えば、年越しそば。その年越しそば、いつ食べるのが正しいかご存知か?実は、年が明ける前であればいつでも良いのである。普通の食生活をしている人であれば、12月の押し迫った28日以降の昼に食べるのが、夕食に響かずに良いと言える。
で、我が家の場合はというと、12/31の北島三郎なり小林幸子なり、最近だと嵐が歌い始める前、つまり23時30分頃に、母親がソソと台所に立って、そばを茹で始める。時間のかかる乾麺ではなく、3玉100円の、時々うどんが混じっているやわい生のそばだ。具はネギとせいぜい三つ葉。たまに買い置きの身欠きにしんや、秋刀魚の蒲焼ということも有る。まあ、無くても無いで良い具である。実家にはゆずが売るほど有るので、ゆずの皮を刻んで載せる。
23時過ぎに食べるということは、逆算すると夕飯は17時頃だ。すると昼は朝食と兼ねる朝の10時過ぎ。生活のリズムも何もガタガタである。
私が中学2年のとき、このガタガタが許せなかった私は、高らかに宣言したのだった。
「年越しにはアイスを食べることにする。そばは少しで」
背景には、前週に食べたんだかどうだかわからないクリスマスケーキが有る。中学にもなり、クリスマス自体が形骸化しているところに、かぼちゃの煮つけのあとに出てくるケーキなど、ほぼ記憶に残らないのだ。あと、無理矢理の鳥のもも肉焼きも、庭に埋める際に茶トラのネコが喜ぶくらいで、さほどおいしいというものもでない。
そして1年目、冬だからバニラベースのアイスで、特別なものと言えば、テレビのCMで、美しい銀のスプーンでくるくると巻き上げられていた「レディボーデン」であろう。今で言うところのハーゲンダッツの立ち位置の高級アイスだが、約500mlで300円台であった。もちろん、そのために冷凍室は空けておく。ゆく年くる年を見ながら、スプーンで2口3口というところだが、実際には固くてみんなでつつくしかない。当然のように余り、翌日も正月からアイスが食べられる贅沢。
翌年からも、同じく高級アイス「リーベンデール」や、弁当箱のような入れ物に入ったファミリーサイズのアイスを食べるようになった。その習慣は、私が大学に入って家を離れるまで続いた。
大学以降は、あまり家で年越しをしなかったというのも有る。一人暮らしの時も、2年に1度位はアイスは食べていたが、紅白も見ずに友人と飲んでいたり、ネットで年を越すということも増えていったのだった。社会人になり、実家で年越しをするようになったが、年越しにアイスなどという話は遠い昔に忘れ去られ、お互いに言い出すこともなかった。
それが急に、である。
おそらくではあるが、私の娘、つまりは彼らの孫のために急に思いついたのであろう。別にいいんだけど。
娘はと言うと、2歳から偏食がひどく、果物を食べない。一方で両親はと言うと、年越しの深まった時間にアイスなど食べたくなくて、みかんで十分なのではないかと思う。
というわけで、昨年の大晦日にはアイスが来た。娘は22時頃に寝るかと思いきや、ゆく年くる年が終わるまで起きて、ちゃっかりアイスも食べてから寝た。これはどういうことだ?あの紅白が子供でも楽しめてしまったということか?
私が5歳位だった頃、大晦日に『宇宙戦艦ヤマト』を複数作、連続放映したことが有る。
あの時は寝れたね。
20時くらいからすでに意識がなくて、気がついたら元旦だった。
あれを希望したい。