70. お一人様、年末リサイクルショップ巡りの旅。0泊1日。

 12月も3週目。完全に年末である。しかし、今年の年末は年末感が薄い。年始からの新型肺炎の蔓延が、案の定、冬になるに従って患者数が増え、常識ある人達は忘年会や帰省を行わないからである。夕方の駅前の繁華街には、明らかに忘年会に向かう団体がいるのではあるが。スーパーなどは繁盛しているものの、クリスマスをすっ飛ばして、正月モードになっているのは、今年だからなのか、それとも田舎だからなのか。

日曜。さすがに寒くて5時半に目が覚めてから、7時位までは布団の中でもぞもぞとする。かれこれ10年ほど使っているが、実にスマートフォンというやつは、時間泥棒、いや、便利なものである。いわゆる値落ちをしても、布団で放熱が妨げられて本体がひん曲がったりすることなく、静かにスリープになるのだ。

7時。スマートフォンのバッテリー残量も心もとなくなってきたので、1階の和室でまだ寝ている妻と子供を置いて、2階の楽器部屋兼いろいろ兼PC部屋に向かう。当然、寒い。しかし今年は、リサイクルショップで500円(税抜)で購入したパナソニックのファンヒーターという、強い味方があるのだ。部屋のドアを閉め、ファンヒーターを「弱」でかけると、ものの5分程度で室温は2度ほど上がる。その分、電気代は怖い。小部屋は、マイクローゼットでもあるので、今日着る服を選び、ファンヒーターで温めて着替え、ブログの草稿をオンラインメモアプリに書き飛ばしていく。気分転換にギターを触りたいが、気温10度では指が動かない。

8時半。プリキュアの放送とともに、妻と子供が起き出してくるのでリビングに戻る。そうだ、今日の午前中は、仕事の仕込みに職場に行かなければいけないのだった。12月なのに紅葉と味覚の秋というプリキュアを尻目に、速攻で朝食を済ませ、気になっていた年賀状の差出人の印刷を終わらせて、支度をする。年に1度しか使わないプリンタが、50枚の印刷で10回ほど紙送り不良になったのは気にはかかる。もう13年も前のプリンタだが、あと何年使えるのだろうか。手持ちの黒のインクは使い切りたい。

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晴れた午前中のK駅前は好きだ。人通りが少なく、斜めに差し込む陽の光が開店前の薬局のシェードにかかり、ホコリと霧の粒子がブラウン運動をしている。土産物屋があるわけでもないのに、K市の特産品が駅前のガラスケースに飾られ、地方観光都市風の佇まいである。金曜夜から土曜の変な時間に左遷されてしまった、人気アニメ・漫画のキャラクターがいても、誰も観光には来ないけれども。

狭いホームから乗り込んだO駅に向かう電車は、当然ガラガラで、1両あたり2つ開けられた窓からの風が冷たい。あまりに寒いので、今週は電車用の手袋を購入してしまった。スマホや電子書籍に対応できる、タッチパネル手袋だ。いやあ便利便利。でも寒い。

休日ともなれば誰もいない職場で1時間程度の用を済ませ、ガラケーの携帯電話から妻にメールする。「今日はどこか行く?」返信がない。スマホに切り替え、最近始めたLINEで「今日の予定がなにもないなら、Sモール行ってくる」。速攻で返信「ない」。そろそろガラケーで連絡すんのやめよかな。

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Sモールとは書いたが、Sモールに行く途中には2軒の別の寄りたいリサイクル店がある。まずはじめに、電化製品の不良品ばかり掴まされるTSというショップである。100円で売られていても、不良の際には快く返金に応じてくれるのだけは助かるが、bluetoothの使えないbluetoothキーボードだの、コンピューターに接続しても反応のないウェブカメラだの、電池を入れても全く動かないギターチューナーが、保証付きで売られている。ギターチューナーははんだ付けで直した。

TSの店内は、年末の大掃除で出た服や棚などがレジ前に山と積まれており、電子ドラムなんかも置かれている。まだ値段が付けられていないが、1万円くらいなら今のちゃちなものから買い替えたい。おもちゃコーナーには、親にほっとかれて暇をもてあそぶ子供らが群れているが、どうもこういう店は男の子用のおもちゃと大人向けフィギュアしか置かないらしく、娘に買えるめぼしい物は見られない。楽器コーナーには、普段の1.5倍ほどの本数、台数のギター、ベース、キーボードが並べられている。年末かー。しかし、値段はいまふたつといったところだ。家電や楽器のジャンクものも、ろくなものがない。他人が使った形跡のある、定価1000円程度のカナル式イヤホンを、1800円で買う客はいるのであろうか?

店内を売り物の子供乗用車やキックバイクで走り回る子供らに辟易させられながら、早々に店を出る。

つづいて、そこから約1kmほど離れたハードオフへ向かう。12月半ばの肌寒さはあるものの、快晴に風もないので、日向を歩いていると汗ばんでくる。かばんをかけている左肩あたりに汗をかいて、風が吹くと不穏な寒気が襲ってくる。大丈夫なはず、まだ風邪はひけない。イヤホンからは、John Mellencampのベスト盤が流れる。土臭いロックも、たまに聴くとものすごく良い時がある。しかし、忙しいときに聞き流すと、メロディが入ってこなくてイライラするものである。

県道沿いの角にあった定食屋が潰れている。一度も入ったことはないのだけど、メニューが唐揚げからアイスクリームまで幅が広く、居酒屋なのか定食屋なのかわからないままであった。近くにぎょうざの満洲や唐揚げの店もあるから、わざわざ危険を犯して入るような店ではなかった。ところで、ぎょうざの満州の餃子は、「カリカリに焼いて」というと焼いてくれるのだろうか?いつも白くてソフトな餃子を食べると感じる疑問だ。

左手の歩道をしばらく進むと、左手に工事現場が現れた。元は普通の住宅だったような気がするが、建物を取り除いて塀だけにしてみると、随分広い土地である。そういえば、子供の頃からこの近所に住んでいる技術員の人は「古い家を1軒壊すと、10軒新しい家が建つんですよ」と言ってたっけ?10軒分の土地に、余裕を持った家を作ったとしても、庭の整備だけで1年間が終わってしまいそうだ。地主様はすごい。地主様という言い方は、この近所で建売住宅を売っていたPという大手企業の社員の口癖であった。

さて、歩いていると進行方向の信号が赤であった、右手の歩道に渡ることにする。横断歩道に1歩踏み出相当した瞬間、減速もせずに右折で横断歩道に侵入してきた白の軽自動車が急ブレーキをかけた。立ち止まっていると、中のおばさんがしかめっ面で手を振りながら、なにか言いながらジェスチャーをしている。口元を見ると、」
「ムリムリ」
はあ?
お前が無理じゃボケ。どこかで自損事故でもしてしまえ、と思っている間に、歩行者信号の青が点滅、赤に変わってしまった。後続の右折待ちのワゴン車の運転手はポカンとした顔をして、私の渡るのを待っていた。

*

ハードオフには、先程のTS店とは違い、駐車場に車がほとんどない。空いていることを期待して入ってみると、あにはからんや、客が多いじゃないか。買ったのか売るのかわからないが、でかい棚を手押し車で運ぶ親子、店内のかごに食器などを山盛り詰め込んでいる女性、そしてなぜか、ギターを持っている客が数人。

通電チェックのブースには、自前のらしい美品のギブソン・レスポールを抱え、どこまでが売り物なのか、大量のコンパクトエフェクターを並べて音チェックをしているオジサン。壁面に吊ってあるギターの、なぜか裏側を熱心に見て回っているエレアコかアコギのケースを持ったオジサン、ギターケースのヘッド部を棚にゴンゴン当てながら、青箱を漁るオジサン。こちらは年末の補充はほとんどないようで、当然のことながら、ジャンクで手頃な値段のギターやベースは無い。以前にこの店で、水色のベースをビニール袋に突っ込み、抱えて原付で帰っていったお兄さんがいたが、ああいうのが出てくる季節はいつなのだろう。

なにか変なものがないか、青箱を漁る。外で使っているイヤホンが断線しかけなので、カナル型イヤホンとか無いだろうか。イヤーパッドを100円ショップで買って、本体はよく拭けば、中古のイヤホンでも良いんじゃないかな。ちょっと気持ち悪いか。そんな事を考えてたら、湯沸かしポットや炊飯器は売れないか。

楽器コーナー、PC周辺機器コーナーにはめぼしいものはなかった。反対側のオーディオコーナーを、ギターを背負ったオジサンと並んで探す。いつも思うが、ハードオフのジャンクヘッドホンコーナーの箱は、ヘッドホンのイヤーパッドが劣化して真っ黒になっているのはどうにかならんのか。さらに、どういうドライバー(※ヘッドホン内のスピーカー)が入っているのか調べようとする不届き者がいるのか、無事だったヘッドホンが、数週間後に売り場で解体されていたりする。しかし、ここにイヤホンがあっても買いたくないな…。

電源コードの箱で、9V 150mA センターマイナスのACアダプタを発見。300円と安くはないが、楽器で使える仕様なので、中古500円、新品1200円くらいはするものだ。出力が小さいが、ギターのコンパクトエフェクターなら使えるだろう。残念ながら、うちにはマルチエフェクターしか無いので、300mAはないと足りないのだ、とリリース。右隣で相変わらず棚にギターをぶつけながら漁っているギターのオジサンをパスし、棚の反対側に動くと、「その他」という万歩計だの腕時計だのが突っ込まれた箱から、YAMAHAと誇らしげに主張する何かが見つかった。形状はギターのクリップチューナーと推測。傷が多くて100円。電池が入っているので、ジャンクギターコーナーで確認すると、ものすごく性能が良さそうである。これは買い。

しかし、今年はクリップチューナーをたくさん買ったよな。現状5個あるぞ、いやいや初期に買ったものが性能が悪かったのがいかんのや、と自問自答しながら、青箱コーナーに戻る。オーディオケーブルの箱にマルチエフェクターでお世話になっている「Zoom」と書かれた超小型ACアダプター 9V 500mA センターマイナスが見つかった。300円。これは買う。

ふと横を見ると、ギターオジサンがポケットから何かを取り出しては、ACアダプタに刺さるかどうかをチェックしている。あのオレンジ色にミッキースタイルのノブは、多分、BOSSのDS-1。そういえば、今年エディ・ヴァンヘイレンが亡くなったよなあ。エディが確かDS-1を使っていたはず。私は、サミー・ヘイガー時代のヴァン・ヘイレンが好きだ。

ギターオジサンは9Vと書かれたアダプターを買おうかどうか逡巡している。そう、それたしか9Vで差込口が同じなんだけど、センタープラスなのだよ。線をプラスマイナス反対に付け替えたら、600mAくらいの高出力のアダプターになるんだけどね。同じことを2年ほど前にやったなあ。DS-1といえば、それほど消費電力もないだろうから、さっきの150mAで足りんじゃないの?

もう一度、最初の箱に戻り、9V 150mAアダプターを取り出し、恐る恐るギターオジサンに声をかける。
「…あ、あの、こういうのを探しておられます?」
「…!」
沈黙。そりゃそうだ。ハードオフで知らない客に声をかけられたら、こちらだって困る。
しばらくACアダプタの表示を眺めたオジサン。
「あ、そ、そうです、ありがとう」
礼を言うがいなや、レジの方に歩いていった。おーい、一旦通電するか確認してから買ったほうがいいぞー。いらんことしたかもなー?なお、左手には先程確保したZoomの500mAアダプタを隠し持っている。

こちらもレジで会計を済ませ、Sモールへ移動。道が細く歩道がないうえ、車の交通量が多いので、先程のムリムリオバハンのような、マナーの悪い運転手にクラクションを鳴らしまくられる。一応、この辺も家を買うときの候補にしていたけど、不動産屋に「この辺は便利ですけど、うるさいですから、お子さんの成長にもイマイチかと…」と止められた理由がわかってきた。そういえばこの近所、1年前の年末にマンションで火災も有ったよな。

*

Sモールには、巨大ダイソーとともに巨大ブックオフが存在する。本の品揃えは可もなく不可もなく浅く広い程度であるが、おもちゃや楽器が多いのが特徴だ。数年前に比べると掘り出し物も見つからなくなったのではあるが。着いたらもちろん、楽器ジャンクコーナーに直行である。オーディオや高級腕時計や車のマニアだと、見るコーナーが多くて時間とお金がいくら有っても足りないだろうが、幸いそちらには興味がない。

とはいえ、売りに来ている人の多さに反比例して、楽器も楽器ジャンクも品揃えが今ひとつなのはなぜなのか?年始になると出てくるのであろうか。以前に100円で買ったのと同型のクリップチューナーが500円で売られている。性能悪かったなーこれ。トニースミスのギターアンプが、相変わらず500円で売れ残っている。「ノイズひどい」って、多分直せるんだろうけどね。そのとなりに、こちらもノイズがひどいというマーシャルのアンプが2500円。いつか憧れのマーシャルを買う日が来るのだろうか?楽器部屋には、音量的にも物理的にも大きすぎるのだ。

隣でキーボードを物色する、赤ちゃんを抱えた男性。おーいそれはMIDIキーボードだから、単体では音が出ないぞー。よくある光景なので、声はかけない。子供がアコースティックギターの弦をジャラーンと鳴らして走って帰っていく。これもよく見る。

ふと背後のオーディオの棚を見ると、黒いコンパクトなbluetoothスピーカー500円。Amazonでよく見る中華系メーカーだ。たしか誰かが「低音がリッチで、大画面の映画を見ても行ける」とレビューされていたものではなかったか?慌ててスマホで型番を検索するが、日本語のレビューがほとんど無い。持ち上げてみると、結構重いので、音質的には期待できそうだ。スピーカーは重いほど良いはず。その場でスマホでテストで音を出してやろうと思ったが、電源がオンのまま放置されていて、放電しきっている。仕方ない、ジャンクのアダプターを拝借して、テストコーナーで充電して…と思ったが、試奏・テストコーナー自体がなくなってるやん!?ここにも新型肺炎の影響かー。

ブックオフなので、故障の場合は返金保証してくれるのを良いことに、とりあえず購入することにする。そして、長年かばんの中で放置されていたモバイルバッテリーにつないで充電だ。モバイルバッテリーを入手してから、1回しかスマホ自体の充電には使っていない。でも、ジャンク品の通電確認に便利なんだよね。

自分のものばかり購入するのは気がひけるので、中古のおもちゃコーナーへ。娘用の女児向けバラ売りおもちゃを見るのは、ほんの少しだけ恥ずかしいが、最近は「オタクでござい」と開き直ればそれほど苦でもないことを覚えた。そしていきなり見つかるプリコーデドール。プリキュアシリーズの人形で、構造はちゃちな割に、おもちゃ屋レベルで売られるほぼ唯一の人形型おもちゃであり、中古でも通常1000円程度するものである。誰だっけ?キュアマーチ?100円だし、娘へのお土産はこれでよし、早くも終了。

会計を済ませた後、スーパーマーケットへ移動して、パンを購入。はちみつ入り紅茶パン3つで250円が、ここ数ヶ月のお気に入りだ。子供はなぜか食べないし、妻も「またこれ?」という反応である。流石にそれはどうかと思うので、娘の好きな蒸しパンと、便利そうなフォカッチャを買っておく。これで問題ないだろう。

さて、bluetoothスピーカーも少しは充電が出来ただろう。屋内で爆音が流れても困るので、屋外にあるテラステーブルに移動する。日が傾き、風も強くなってきた。数ヶ月前には閉鎖されていた、滑り台の複合遊具が今は開放されており、子供らが走り回っている。親は遠巻きで見守る、人間版のドッグランという様相だ。

bluetoothスピーカーから充電に使っていたUSBケーブルを外し、スイッチを入れる。♪ピローポロンと大音量が響いて、起動には成功。そうか、起動音が大きいタイプだったか…。bluetoothスピーカーには、起動音が気になるタイプと気にならないタイプが有るのだ。どうして設計する人は起動音が必要だと思っているのか、長年の謎である。スマホでbluetoothデバイスを探すと、SM-SPというプロファイルが見つかった。接続し、適当に音楽を再生する。めぞん一刻のCM入りと明けのBGMが繰り返し流れる。そうそう、着信音にするために、大昔にスマホに入れたんだよな。使ってないけど。左右のスピーカーとも音が出ているし、これは正常だ。EDMのウェブラジオを再生すると、低音もそこそこ出ているような気がする。このあたりは家に帰ってから、他の機種と比較が必要だ。

これで、bluetoothスピーカーが5個になってしまった。

いつ使うんだ?
いつ使うんだろう。
多分使うんじゃないかな。