55. ポケモンと私。

 相変わらず、子供と妻は、毎日ニンテンドーDSで『どうぶつの森』をプレイしている。『どうぶつの森』はWii版も有り、いまだに猛威を振るい感染の拡大が止まらないウイルスの影響で、土日ともなれば子供も妻も家に引きこもって、半日以上プレイし続ける始末である。相乗りしている私としては、勝手に村が栄えて勝手に花などの世話をしてもらえるので、完全におまかせモードであり、特に問題はない。問題が有るとすれば、二階の雑用部屋で作業しようにも、暑くてやってられないというくらいである。

土日、『どうぶつの森』だけで暇をつぶせてしまう2人を横目に、昼ごはんを食べると炎天下の中、散歩に出かけるのである。散歩と言っても、自転車でハードオフに行くか、電車に乗って数駅先のブックオフ、ハードオフに行くくらいなのだが。

今、家にはWiiとニンテンドーDSの2種類のゲーム機が有る。これはたまたま、新型肺炎の流行拡大前の2月あたりに譲ってもらったり、中古で買ったりしたもので、いずれも入手してからまだ1年も経っていない。外出自粛を呼びかけられている間、子供と妻は渡りに船とばかりにのめり込んだのだった。一方で私はと言うと、全く休みにも自宅勤務にもならなかったのであるが。

ゲーム機を入手してから、やるべきことは何か。
ソフトを手に入れることである。

そこで、2月から3月にかけて、100~300円のWiiとニンテンドーDSのソフトを片っ端から購入したのだ。ニンテンドーDSに至っては、本体購入から2週間程度で、ほぼ今持っている30本近くを購入した。なにせ、ハードオフにいくらでも売っている。

その中で、手を出していないジャンルがいくつか有る。子供の怖がるであろう『モンスターハンター』や、やれば長くなりそうな『ドラゴンクエスト』。そして『ポケモン』こと『ポケットモンスター』シリーズである。

『ポケモン』が、ニンテンドーDSよりも前、ゲームボーイ時代から、ゲームで出ていたのは知っていた。というか、ニンテンドーのキャラクターだもんな。アニメもずっと前からやっていたのは知っている。

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大学時代、つまり20年と少し前の冬のある日、研究室に配属されて間もなかった頃、例の事件は起きた。

まだ授業に出た後に研究室に行って、上級生について実験の見習いをする程度の頃だったと思うが、その日はなぜか研究室が騒々しかった。

「おい、昨日、ポケモン見たか?」
「おお、見てなかったけど、すごかったらしいやん」

ちなみに会話をしている修士2年。学年的に、私達よりもすっごく上の人達なのだが、この会話は研究室に来てすぐの会話である。つまり、昼過ぎに研究室に来て、夜中まで実験をして帰るのである。

「おい、3回のみんな、ポケモン見てたー?」
「…いや。なんかあったんですか?」
「おお、知らんのか。かえってニュース見てみ、大騒ぎやで。あ、桐生さん、韓国版の『エヴァンゲリオン』持ってきたで。お土産っ!」

修士の藤岡さんは、年末前にすでに卒業旅行で韓国に遊びに行っていたのだ。

論文を書いていた博士課程の山片さんも事情がよくわかっておらず、他の先輩らと首を傾げている。
「どういうことや?とりあえず調べてみるか」

山片さんは論文を書いていたパワーマックとは名ばかりの、非力なピザボックスMacで検索を始めた。しかし世は1997年。ニュースと言えば、自己啓発の本の紹介や、なぞのPC周辺商品の新製品しか出ていない。今では考えられないかもしれないが、インターネットのニュースがニュースとして機能するようになったのは、2001年の新宿歌舞伎町のビル火災の時からで、新聞社などもニュースの触りを半日遅れくらいで流していたのである。その半日遅れのニュースで、ジャイアント馬場の死去を知ったりしたのであるが。

そこへ、事情を知っている藤岡さんや桐生さんが、ニヤニヤしながら、含みを持ったヒントを言ってくるのだ。

「子供が、ものすごい数倒れたらしいわ」
「救急車も出たらしい」
「今日、学校は大変やろな」
「来てない子いっぱいやろ」

全く答えを教えてくれない。主人公っぽいピカチューが死んで、岡田有希子の自殺ショックのように子供が落ち込んだのだろうか?等と同級生同士で勝手に噂をする。
結局、当時のレベルのネット事情もあり、家につくまで意味がわからなかったのだ。

家について、11時のテレホタイムに行きつけの掲示板に行くと、顛末はちゃーんと先に書かれていた。
「画面が点滅して、点滅性てんかんで何人か倒れたらしい」

それから、テレビアニメの最初には、新作だろうが再放送だろうが「テレビを見る時は部屋を明るくして、はなれて見ましょう」と言う注意書きがつくようになったのだ。

これが、最初に『ポケモン』を意識した事件である。

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次にポケモンを意識したのは、約20年後の2016年。『ポケモンGO』だ。ネイティブで動くNexus5からAPKを抽出し、PC上でちょっとした改造を施すことで、バッテリーの持ちが比較的良いAndroid 4.1の機種に移植するということをして動かしていた。問題はAndroid 6に比べて、位置情報を取るのが苦手なので、都会で起動すると熱暴走してしまうことくらいであった。

起動し、カメやヘビ、ネコのようなポケモンを捕まえる。
なぜこういう記載になるかと言うと、ポケモンの名前を全く知らないのである。知っているのはピカチュー、ピチューと、オリンパスの小型カメラと同じ名前のミューツーくらいだ。映画のタイトルになっていたから名前だけ知っている。

6月くらいに初代が公開され、毎月1回はアップデート。そのたびにAPKの改造を強いられながら、ハロウィーンくらい、黒っぽいゴースト系のポケモンが大量に出るイベントくらいまではやった。このあたりになってくると、ほぼ惰性である。家の周辺も、職場の周辺も、特にランドマークはなく、K駅の周辺だってイベント時以外はアイテムが2箇所しか取れない。

そんなよわよわプレイヤーだったので、『ポケモンGO』の楽しみの半分くらいであるだろう、ジムでの対戦など敵わない。そのへんで飽きた。

で、年末に起動したところ「アプリが不正です」というエラーとともに、ユーザーごと消去されてしまった。まあ、たしかに不正ではあったんだけど。

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そして、2020年。また忘れた頃にポケモンである。ニンテンドーDSのポケモンのソフト。基本的には高いのだが、たまに100円コーナーに紛れ込んでいたりするのだ。

しかし、今だに新作をテレビで放送しているも、子供は『プリキュア』『アイカツ』『赤毛のアン』以外に食いつかず、ポケモングッズも、貰い物のぬいぐるみが2つほどしか無い。

冷静に考えると、25年は放送をしているのだから、当時5歳位で見ていた世代が、すでに人の親になって5年位。親子で同じ番組を見ているのは感慨深い。道理で、トイプラネットに行くと「ポケモン」というソフビ人形コーナーが、「アンパンマン」以上に多く取ってあるわけだよ。

さて、ニンテンドーDSの『ポケモン』は買いか?
職場でリサーチしてみる。

まずは、25歳位の学生。きっとど真ん中だろう。
「DSの『ポケモン』って持ってた?」
「あー、持ってましたよ。DS。金とか銀とか持ってました」
「あれって、ロールプレイングゲームなん?」
「いや、ポケモンを集めるんですよ」
「集めるだけ?」
「集めるだけ」
「面白いのそれ?」
「友達と交換したりして、コンプリートしたら終わりっすね」

それなら、スマホの『ポケモンGO』の方が、実際に歩いて移動して探したりして面白いんじゃないか?
また、調べてみたら、金とか銀は、ニンテンドーDSではなくゲームボーイっぽいのだな。

中学生の親に聞いてみよう。
「DSの『ポケモン』ってやってました?」
「あーあれねー。子供が欲しがって、いっぱい買ったんだけど、すごく無駄」
「無駄?」
「モンスターを集めちゃったら終わりだし、気がついたら次のが出てて買わなきゃいけないし」
「買うんですか?」
「もう処分したけど、何本有ったかなー、10本くらい」

やっぱり「集めるだけ」らしい。

集めてコンプリートする快感は、子供のうちに経験しておくべきだとは思うが、まあ、『どうぶつの森』もあるし、おもちゃもあるし、といまだに手を出せずにいる。

特に背中を押してほしいとも思っていない。