28. 不思議なシンクロ。

 定期券は、パスモである。スイカやイコカや、マナカやカナカなどと同じ、非接触タイプのICカードである。定期入れから出さずに、読み取り部にポンとタッチするだけで良い。2020年よりずっと前から、全国でも使えるようになったので、実に便利である。

大学の頃、O県に住んでいたが、O県に自動改札はなかった。それに気づいたのは、4回生の夏。K大を受験しに来た同級生と電車に乗ろうとして、キップを自動改札に通したところ、同級生が「なにこれ?」となったところで気がついた。そう言えば、県庁所在地のターミナル駅だったのに、ハサミで切符を切っていたな。

高校の頃は、いわゆる磁気定期というやつだったので、自動改札では定期入れから1枚出して、キップと同じインベーダーの口に突っ込んで、出てきたのをキャッチして定期入れに戻すということをしていた。あの頃、冬場は改札前で手袋を落とす人が非常に多かった。また、磁気がダメになって取り替えている人もよく見た。その点、ICカードは一切出さなくて良いので、IC定期は容易に取り出せない、IKEAで売っている荷物タグに入れて、かばんに紐で繋いでいる。妻や両親からは「子供用だ」とバカにされるが、なくさないことが重要だ。

ある朝、K駅の自動改札を通ろうとすると、前の人の表示が引っかかった。「利用残高 382円」。

あれっ?と自分の定期をタッチすると、やはり「利用残高 382円」。1年以上通勤をしていると、直前の人と同じ残金であるのを見ることが、2ヶ月に1回位ある。端数のある数字だし、ものすごい確率であるはずなのだが、不思議といるのである。

こういう人を見ると、なぜその金額になったのかを想像する。まず、チャージしたときは、キリの良い2000円や5000円だったはずだ。そこから定期外の駅まで足を伸ばす。例えば162円の往復。その定期でコンビニでパンと飲み物を購入。キャッシュレスで7円戻ってきて、346円。コンビニは毎日行くだろうから1週間位でチャージだ。2189円…。

ICカードの使用履歴は個人情報なのだろうが、使用履歴を用いたゲームというものがあってもいいと思う。同じ店舗や駅に50回以上行っていたらアイテムや装備が貰える。距離の離れた店舗を利用すると陣地が広がる、などなど。それを会員制のネットサイトで行って、どんどん強くなるなり、女の子向けでドレスが華やかになる、なんていうのもいいだろう。多様性を持たせるために、その時の残高と組み合わせるというのはどうか。

そこで、なぜか出張先でゲットしたアイテムと同じものを持っている人を見つけたりする。220円しか残っていなかったのを2000円チャージして、チューハイ143円を購入したときのものだ。実はもうひとりも、1ヶ月違いで、ほぼ同じ残高で2000円チャージしてチューハイを購入したのだ、なんていうのが見えるのはそれはそれで面白いのではないか。

そこで、「残高382円」の人たちが、全国にたくさんいて、実は不思議なところで同じルートを利用していたりすることが解ってくる。さらに残高382円のオフ会が開かれ、ご飯を食べる。もちろん帰りには382円ではなくなって、みんな他人になるのだ。

そんなバカなことを考えつつ、朝のO駅改札を通る。ふと斜め前の人のカバンが気になった。何か見おぼえがある。

あ、IKEAの荷物タグか。
普通は、かばんに付けるよなあ。定期入れではなく。