36. 縄跳び100回、跳べる?

「ねー、ちょっと縄跳び借りていい?」
一回りほど上の職員の人が、部屋に入ってくるなり言った。縄跳びが人気である。

ことの始まりは、5ヶ月ほど前。子供が幼稚園で縄跳びをはじめたものの、全然コツがわからないようで、前にバチンと落とした縄をまたぐくらいしかできなかった。それを教えるために、100円ショップのビニール縄跳びを購入してみたことに始まる。

小学校以来、久しぶりに跳んでみると、メチャクチャしんどい。30回も跳べばハアハアいう。これはきつい。足も辛ければ腕も辛い。多少肉がついたとは言え、腹がボヨンボヨンする。内臓がゆれているのか?なんでじゃ?とよくよく見てみると、縄が長すぎるのである。そこで、両足で縄を踏んで、引っ張ってハンドルが腰骨の上のあたりになる程度に短くする…のだが、ハンドル内に余った縄を収納するタイプは、そう簡単に長さが変えられないということにも気づく。切るしか無いのか。

苦労してハンドルに余った縄を押し込み、改めて跳んでみると、かなり楽にはなったものの、やはり50回くらいでゼイゼイいってしまう。小学校の時って、何回飛んでたんだっけな。後ろ跳びや、あや跳びはできたが、二重跳びは1回しかできなかった。

試しに二重跳びにチャレンジ。とにかく2回まわすために大きくジャンプして縄を回す。足が引っかからないように無意識に曲げてしまうので、1回跳んだら終わりである。小学校の頃から変わっていない。

そんな折、モデルだったか俳優だったか、それとも腕立て伏せの人だったかわからなくなっている、武田真治がテレビで「40歳になったら、縄跳びを100回連続でできる心肺能力を付けなければいけない」と言ったとか言わなかったとかいう話を耳にした。100回、跳べるか?

そこから毎日、約5分のチャレンジである。50回が70回になり、100回。そこまで約1週間。不思議なことに、50回飛んでも、息が上がらなくなってくる。調子に乗って200回に挑戦するが、終わり近くで集中力が切れるのか、引っかかってしまう。それ以上に、200回は数えにくいんだな。武田真治の「100回」は、なかなかいい線だったのだ。

また、近所のダイソーで「カウンター付き縄跳び」を見つけた。跳んだ数をカウントしてくれるスグレモノであるだけでなく、縄の長さも2つの穴で引っ掛けるだけなので、簡単に調節が可能である。約30cm長さの違う子供とも共有できるのだ。なぜ共有しなきゃいかんかと言うと、出先に持っていって、子供に「とんでみて」と言われたときに、子供の縄の長さだと跳べないからである。2本持って歩くのも億劫だ。

仕事の昼休み、約3分ほどあれば、1回休憩を入れて合計200回跳べる。年末まで、雨以外の日はほぼ毎日行った。カウンターが付いているので、跳んだ数も数えなくてよい。年末には300回飛んでも平気になる。筋肉はつかないが、持久力は付いてきたように感じる。

年が明け、噂を聞きつけた職員や技術員から、「ちょっとやらせて」と声をかけられることが増えた。自前を購入してくる人も出てきた。しかし、2月は寒かったので、自分はあまりやっていない。子供の縄跳びは大体5回位。ちゃんと連続で跳べるようになってきたので、かなりの上達である。

3月。学校は緊急で休みなのに幼稚園は普段どおりに第2週まで行われた。その間に、子供がかなり跳べるようになっていたらしい。仕事に行っている間に、連続で70回ほど跳べるようになったとのこと。「100回跳べる?」と聞くと「100回はむり。45回ならとべる」と、なんでそんな中途半端な数字や。

3月の終盤、昼休みに入る12時になると、技術員や事務の女性が、マイ縄を持って誘いに来るようになった。やはり人気は、ダイソーのカウンター付きである。知らぬ間に「縄跳び部部長」と呼ばれているようだ。

チューリップ等の水をやりつつ、建物と倉庫の間の搬入路で黙々と跳ぶ。どんどん慣れてきて、最初であれば300回連続くらいは飛べるようになった。不思議と、疲れてくると引っかかるようになるのだ。10分で500回強ほど跳ぶ。

事務員や技術員は、最大200回を1回の目標にしているらしく、結構ゼエゼエいいながらやっている。年齢が私よりも上だからね。少し上の職員は、あまり他人に見られたくないようで、一人で仕事の合間に10分ほどやっている。昔のタバコ休憩のようなものである。ついでにコーラを買ってきて帰りに飲んでいたりするので、あんまり効果はないんじゃないですかね。

500回強跳んだ時、何故か今日じゃもっと行けるような気がした。少し高めにジャンプして二重跳び。
1、2、3、4 !
あれ?、まだいけるかも。

なんか吹っ切れたな。
縄跳びはいいぞ。