63. モテたい学生(後編 /全2回)。

(前編 https://note.com/tikuo/n/ncf16e4cb0bca )

 大学は、適当に選んだ。進学校の仲間が、現役でT大やK大に入っていく中、予想通りに浪人し、浪人時もセンター対策くらいしかろくに勉強をしなかったので、センター試験の点数から、入れそうなところを後期日程で選んで合格したのが、O大の理系学部だった。

元々は滑り止めのO大であったが、さすがに県名大だけあって、県外からも人が集まる。男女比は2:1ほどで男子が多い。学力はピンキリで、医学部の仮面浪人を自称するやつから、英語全くわかりませんというのまでいた。仮面浪人の彼は、結局4年間そのまま学部にいた。

大学に入ってすぐ、大学内で発行されているフリーペーパーを手に入れた。そこにはこんな事が書かれていたのだ

「1回生のうちに彼女ができなかった者は、4年間彼女なしという言い伝えがある。そこで、A君は考えた。『単位を落とせば、もう1度1回生ができる』と…」

私はと言うと、中高を女っ気がない状態で過ごした結果、女の子と喋るときにどこを見てよいかわからず、赤面してしまうという症状があった。特に一浪の結果、周りが年下というのも喋りにくくしていたのであろう。そのくせ、先輩なら平気と、勝手にいろんな研究室の飲み会に紛れ込んだりしていたのだった。そこで、先輩女子や古本屋のおばちゃんと世間話をすることで、女子に対する引っ込み思案を克服しようと努力はした。結果は…。

同級生の女子と関わり合いになるのは、2回生の後期の学生実験からである。理論系や機械系と別れ、実験系に進んでみれば、男女比はほぼ1:1。実験で4人グループの2人は女子である。ありがたや…いやいや。

班の中では、小学校の頃の反省を踏まえ、あまり出しゃばら無いことに徹した。まだ回帰計算などを電卓でやっていた宿題については、家でこっそりPC-98で計算したものを班内に配るということで、貢献を果たした。3回生以降の有機化学実験では、班も変わり、実験時間も長くなったが、親密になるということは、なかった。知らずしらずの内に、私は「4年彼女なし」の言い伝えにはまってしまったのだ。とはいえ、先輩や、街のおばちゃんたちとの喋りで鍛えた、のらりくらりと、ポジションを主張しないというトーク技術で、嫌われはせずに学生実習を終えた。学生実習の全6班の中で付き合い、結婚したのが2組もいたんだから、言い伝えは、一部は正しくはなかったのだが。

女の子の部屋に英語と数学を教えに行き、夕飯をごちそうになったりもしたが、そういう時は、ちゃんと別の女の子が監視に滞在してたりしたのだな。

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その後、研究室に入る。同級生6人で入室し、6人とも清らかに終えた、というのはウソだ。1人、修士の先輩と付き合っていたのがいた。日曜日にドアを開けたら、修士の学生の膝の上に座って、ネットを見ていたのを見かけ、慌ててドアを閉めたことがある。また、別の同級生の女子は、隣の研究室の同級生と付き合って、結婚した。私はというと、相変わらず同級生よりも先輩と仲良くなり、修士の先輩である渋川さんとも、当たり障りのない関係を築いた。(46話参照)

で、いるんだよね。卒業時、みんなへの寄せ書きを書いていると「実は武井くんのことが気になっていたという友達がいたよ」と書く人。いるときに言おうよ、な。

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大学院。結果論ではあるが、大学院修士課程で付き合った人と結婚するケースが非常に多い気がする。大学よりも共に滞在する時間が長くなり、グチを言い合う仲になりやすいのであろう。かくいう私もそのクチである。妻とは修士課程の際に知り合ったし、同級生も1組、先輩後輩ともに同様の関係で結婚した。20台も半ばから後半くらいの年齢になると、モテるモテないではなく、普通に顔を合わせ、しゃべっていると、付き合いに発展する。妻との出会いも、記載するほどに面白くはないので割愛する。

結局、モテ期らしいモテ期は、保育園からずっと経験しないまま学生時代を過ごし、上京して就職したのだ。モテたかったわけじゃないというと嘘になるっていうか、学生時代の間にモテたかったものだ。昔から言うように、時間はハエである。飛んでいって誰かに叩かれたら戻ってはこない。

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さて、結婚する前の妻と遠距離の付き合いではあるが、名目上の独身単身であった3年目のある日、ネットで知り合った東京に住む友人の結婚式に呼ばれた。もちろん、そこで同席者と特に何かあったわけではない。その日は、二次会という形ののメインパーティーが20時半スタートと遅かったこともあり、S県、C県の出席者の一部は、すでに、オールナイトロングでパーティーいかなアカンねん状態であることを悟っていた。つまり、帰れない。二次会のパーティー会場から出て、居酒屋で三次会。「今日は、帰らんでもいいんやろ?」と、これまたS県在住の友人男性に聞かれる。とはいえ、一晩で何かが発展してしまうわけでもないのが、大人の関係というものだ。「このあと、行きたいところがあるから、着いてきて。Nさんも行くよね、例のところ」。

男性3人、女性2人。地下鉄で4駅。新宿駅で下車し、サブナードから出てきた先は、歌舞伎町だ。客引きを振り払って、とあるビルの5階に向かう。

「何なん?」
「大丈夫、朝まで飲むだけだから」
「今の大丈夫、って何?」
「うん、すごく潔癖で、お金もそんなにかからないから」
「?」

ビルの一室のドアを開けたら、そこは、オカマバーだった。
「こんばんわー」
「あ、MちゃんとNちゃん、久しぶりー」
「こっちは初めての武井さん」
「じゃ、たけちゃんでいいかー、はじめましてー。エミでーす」
どこからどう見ても、服装も髪型も、普通のおっさんである。

もうすでに2軒で飲んでいるため、記憶は曖昧であるが、エミさんが私とMさんの間に座り、女性2人とKさんが向かいに座って、飲みながら、いかにしてオカマになったのかというような身の上話を聞かせてくれた。しばらく話をしていると、オカマのエミさんが言った。

「たけちゃん、オカマにモテるでしょ?」
「え?オカマにモテたことはないなー」
「絶対にモテるって、ねえ、姉さーん。この3人でどの子がモテると思うー?」
カウンターの中で、1人客としゃべっている、どう見ても女性にしか見えないオカマの人に聞く。

「この子」
ビシッと指さされる私。
「ほら。Mちゃんはなんか、オタクっぽいし、Kちゃんは、ちょっと違うなー。ゲイとかにモテそう」
「ちょっと立ってみてー」
お尻を撫でられ。腰のあたりを触られる。
「ほらー、こんな感じが、すっごいオカマ好きする感じなのよね。ねえ、Nちゃん、わかる?」
「さあー?」
女性2人は笑っている。
「私、お客さんじゃなかったら、絶対にイッてるもん」

言われてみれば、男子校だったときにも、ゲイ疑惑の有った同級生の2人が「武井の尻がいい」と言っていたらしいということを、言い伝えで聞いたことがある。

「たけちゃんさー、他のオカマに取られるの嫌だから、あなた、オカマになんなさい」
「えー?」
「だってー、オカマの才能あるよ。話ししてて、すごく気分いいし、聞き上手なのよねー。絶対オカマしか無いよ。天職だよー」

朝6時で閉店、解散となった。
5000円だった。

(おわり)