41. さんま de アレルギー・じゃねーの?
現在、妻 (関西人)は専業主婦、子供は休みなので、平日はずっと家にいる。夕方に帰宅すると、最近はWii『どうぶつの森』が立ち上がっていることが多いが、50%以上の確率で、誰が見るでもなくテレビがついている。そういう日常が、ここ3年続いている。
ある日、上着を脱いで荷物を片しながらテレビを見ていて、なんだかえも言えぬ不快感を感じたので、チャンネルを変えた。離れていても安全なIHで放っとき調理をしていた妻が言う。
「え? なんで変えたん?見てたのに」
「あかん、なんかつまらんあれ」
「ふーん」
別段固執しているわけでもなさそうなので、その程度の興味だったのだろう。そのときにやっていた番組は、明石家さんまがひな壇にタレントを並べて、何かのエピソードを聞くというような番組であった。
*
一週間後。
帰宅すると、また同じ番組をやっており、MCの明石家さんまが「ホーホーそれで…ハッハッハッッッヒー」「じゃあ次、後ろのお前」などと喋っているのを見て、また不快感。というか、心臓を締め付けられるような、変な感覚にに襲われた。見続けていたら、冷や汗が出てきたかもしれない。
妻に言う。
「あかん、さんまの番組は、アカンわ。無理」
「なんで?」
「見てて、なんか不安になる」
「うるさいからか?」
「…かなあ」
自分でもよくわからないのだ。とにかく、見ていられないのだ。
以前は、と言っても、どれくらいか忘れたが、まだ『恋のから騒ぎ』『明石家電視台』をやっていた頃はよく見ていたし、正月の "ビッグ3" と称した番組を実家でダラダラと、両親に「この、さんま言うのは、面白くもないし、しょーもないなあ」と言われつつ眺めていたものである。それが、タレントをひな壇に並べ始めた頃から、全く見なくなった。『さんまのまんま』と『あっぱれさんま大先生』は、放送時間がよく解らなかったのでほとんど見たことがない。カケフくんてどこ行ったんやろ。
*
さらに一週間後。
帰宅。また同じ番組である。明石家さんまがアイドルに絡んでいるが、そこに若手芸人がちょっかいを出して、さんまが真顔でツッコむ「…チッ、ぉ前ちょっと黙ってて」会場からのSEで笑い声。冷や汗。アカン。無理。チャンネルを変える。
「ちょ、なんで変えんのよお?」
妻にたしなめる。
「あかんねんやわ、さんまの番組は無理。生理的に受け付けられん」
「なんでーや、前はよく見てたやん」
「いや、そやねんけどな、見てたら不安になってくんねんわ」
「あーそー」
妻はちょっと不満げである。
「わたしもきらーい。うるさいから」
DSに夢中な娘も相乗り。とりあえず、多数決で、我が家ではさんまは無し。
「いやほんま、ここ最近やけど、あの番組はアカンねんわ」
「なんで?うるさいのやったら、さまぁ〜ずかてうるさいやん?」
「ちゃうねんな、うるさいんや無くて、しゃべってるのを見ると不安になるんやわ」
「うーん、声か?」
「声やない」
「わからへん」
自分でも、よくわからない。
妻が言う。
「タモリはどうなん。毎週見てるけど」
「タモリはいい。おもろい」
「タレントがいっぱいでてくるからか?ああいう番組嫌いやん」
「それはあるかもしれん」
脳内で分析する。タレントがたくさん座らされている。司会である明石家さんまが次々と仕切って、しゃべる順番を回される。「話が面白くない」としゃべれず切られたタレントは不満げに黙る……あるぞあるぞ、この状況は、あれだ。
「あ、わかった」
「何やな」
「さんまの番組、進捗報告のプレゼンと同じなんやわ。番組が報告会なんやわ」
「はあ?」
そう、明石家さんまがたくさんのタレントの前で「次お前」と仕切ってしゃべらせるのは、進捗報告なのである。まわりがツッコむと「ちょっとオレしゃべってるから、黙って」と言われ、アドバイスを潰され、「お前の話おもんないねん、やり直し」と一蹴される。たいして実力もないのに、仕切っているオッサンが成果を全部持っていく。これは、職場の進捗報告の会議そのものだ。
「…というわけ。多分それで不安になってくる」
「ふーん、タモリかてそうちゃうのん?」
「タモリは、自分で仕切りつつ、自分で全部やるやん。おもろい大学の教授みたいな感じや」
「博学やしな」
「自分で勉強して、自分の手で物作るやん」
*
よく考えてみれば、『恋のから騒ぎ』『明石家電視台』の頃だってそうだった。素人が暴走するのをうまく抑えていたように見えるが、単に「つまらんから次の人報告して」と仕切っていただけだ。ノリツッコミが巧みだから、傍目には上手な司会者のように見えていたものの、やっていたことは今と変わっていない。当時は私が学生だったから、話をぶった切られるのも気にならなかっただけなのだ。
その昔、『(上岡・鶴瓶)パペポTV』という番組が有った。ほぼ毎週見ていたし、かなりの数の録画も、ビデオテープを処分した際に残されていた。あれもある意味、上岡龍太郎に鶴瓶が「報告」するだけの番組なのだが、1対1なので、時々鶴瓶が「いちいちうるさいなー!あんたがやってみたらエエんや!」と逆襲できる素地が有ったからこそ楽しめていたのである。それが1対多数になると、反論は切られしまう。
「そうかー、さんまの番組って、仕事の会議のシミュレーションやったんや…」
「そんなこと思ってんの、アンタだけやで」
と妻に言われるが、
「でも、最近、さんまがおもろい思って見てるか?」
「いや、別に面白くはない」
「そやろ。面白くない上に仕事の延長。きついわー」
「でも、みんな見てるんちゃうん」
そうなのだ。
上司である所長は、大のテレビっ子である。月曜に顔を合わせた途端、
「昨日のイモト見たー?」
などと聞いてくるが、何の番組すら知らんなんていうことが度々ある。そういう、家でも居場所のないような、管理職以上の上司が、さんまの番組を見て「お、これの司会、いいね、いただき」とか言ってるのかと思うと、本当に目も当てられない。さんまの司会を真似て、軽い言葉で部下の発言や意見を抑え込み、司会上手と勘違いしているパワハラオヤジが、あの番組で再生産されていくのだ。
あーいやだいやだ。