32. スタンプラリー必勝法。

 2月はじめの休日、いつもどおり混雑しているO駅の2階コンコースを家族で歩いていると、鉄道警察の横に、スタンプ台が置いてあることに気づいた。O駅のスタンプは、駅外だとここ、駅内だと南口の角と決まっているようだ。

なぜそのスタンプに注目したかというと、いつもならアニメキャラの関連であるのに、今回は鉄道のヘッドマークである。電車のヘッドマークや電車自体には、関西育ちということもあって、寝台列車などを見ることは少なかったため、興味はない。しかしただでさえレトロな、寝台車のヘッドマークが、スタンプでかすれることによって、更にレトロ感が増すのである。これは見逃せない。幸い、スタンプ台紙もふんだんに置かれているので、大人用1枚、子供用1枚を取り、押す。

しかし、O駅のスタンプは、残念ながらヘッドマークではなく、駅の案内板のモチーフであった。奥さんも「違うの?」と残念そうである。マニアにはたまらないのかもしれないが、あいにく家族全員そうでもない。子供はスタンプを押すことがたのしいので、デザインと関係なく押す。スタンプを持っていかれないように付けられた鎖に、スタンプの色素が付いているので、毎回子供が押す際には、鎖が袖に付かないよう気を使う。関係ないが、O駅の駅ナカにある常設のスタンプは、キップのモチーフである。なかなかあれはセンスがあると思う。

一応スタンプは押せたので、K駅まで散歩に出かける。K駅って人の多さの割に、隣のABN駅に快速を止めるためにスルーされていて、結構不遇なイメージである。線路の脇に道路火歩道を付けたら、みんな電車に乗らずに歩くのではないだろうか。まもなく駅前のデパートも閉店の噂があるし、その先にある商店街の半分は、マンション建設のために更地化されている。今更マンションなんか売れないんだから、大仏でも作ったほうが良いのではないか。

駅からほど近いモールに行くと、長蛇の列。誰か来るのかな?と覗きに行ったところ、折の新型肺炎パニックで、マスク販売の列であった。

これというものもなく、駅前ビルの楽器店でキーボードなどをいじった後、そうそうそとスタンプラリーのスタンプを探す。みどりの窓口の列の横を割って入るような微妙な位置で、スタンプの列ができていた。どうやら、一番前は身障者の夫婦のようだ。旦那は車椅子で動けない。奥さんに押させているのだが、そもそも台紙が5~6枚。奥さんも何らかの障害があるらしく、手が震えてなかなか狙ったところに押せないようだ。

奥さんが震えながら、1枚押すと、旦那が
「そうじゃない!何度言えばわかるんだ!」
と怒鳴る。
5~6枚もあるもんだから、みどりの窓口に怒鳴り声が響き渡る。そもそも、台紙を一人でたくさん取るのがルール違反じゃないのか?

奥さんは最後の1枚で安心したのか、それとも気合を入れたのか、スタンプを付いた瞬間

バキッ!

凄まじい音。
「おい!なにやってるんだ!」
怒鳴り声。

スタンプラリーも、ときに地獄である。

彼らが去り、順番が回ってきて確認したところ、スタンプの軸が折れたようである。怪力。K駅のスタンプは、レトロな寝台列車らしきものであったので、台紙の他に、手帳にも押した。記念品まであと6駅。まあ、行かない。

翌日、職場でこんな事がありましてね、と同僚に話したところ、
「鉄道のスタンプラリーって、普通、車で回るでしょー?」
「えっ?」
「だってー、改札の外にあるから、あんなの大人2人で子供2人と一緒に電車で回ったら、電車賃がめちゃくちゃ掛かるじゃないですかー」
「あっ、そうか」
「ポケモンスタンプは、結構遠くまで行きましたよー。シンカリオンは途中で挫折したけど。ポケモンの時はちょうど車の慣らし運転もあったんでー」
「なるほどねー」

今、関東私鉄6社の鬼畜スタンプラリーが行われているらしい。すべての路線の、都心から一番遠い駅にしかスタンプはなく、半分の6個のスタンプを押してクリアファイルをもらうだけでも、1日では回れなさそうである。車で回ることも難しそうであるが、そもそも、誰に向けてのスタンプラリーなのだろうか。

一方で子供は、O駅でJRのスタンプラリー台紙に、関係のない東武線のスタンプラリーのスタンプを押し、ご満悦なのであった。