37. 出勤坊主。

 出勤である。緊急事態宣言が出ても出なくても出勤なのである。というのも、使っているのが生物材料、一言でいうとマウスなので、週に最低2回は世話をしなくてはならないということもあるが、それ以上に、「産官学」の連携講座なので、「官」と「学」が動いている以上、出勤しなければならない。S県知事とMK省のアホー。

さておき、電車が空いている。朝7時過ぎの電車、採用され出勤し始めた当初よりも2本も遅い電車である。2本早くても3本遅くても、結局職場に着くのは同じ時間なので、ついEテレ『シャキーン!』を見続けてしまって遅くなるのだ。小学生向け番組だが、絶対に年寄りのボケ防止を意識して作っていると思われる内容に加え、打首獄門同好会だのナンバーガールだの人間椅子だのマキシマム・ザ・ホルモンだのジャガーさんだの楳図かずおだの、錚々たるゲストに、我々世代も釘付けである。ウクレレとノコギリのサキタハジメ氏が音楽の大半を手掛けているというのも大きい。『見参!アルチュン』は、ほぼ全部見ていた。

いや、それは関係ない。

『シャキーン!ミュージック』の途中で、ゴミを片手に出かけ、軽く走らないと電車に乗り遅れてしまうため、走る。開かずの踏切は毎日開かず、横目に走り抜けて改札を通る。乗るのは、いつも階段を降りてすぐのドアだ。少しずらしたほうが空くのだろうが、車椅子・ベビーカースペースに当たるので、席が無い分、周りとの隙間ができるのである。

緊急事態宣言が出されたあと、約1週間。さすがに電車は空いている。なにせ、平時なら押し合いになるはずなのに、座れてしまう。しかし、座ると隣の人が接触してくるので、座らない。これは平時からのこだわりでもある。平時との違いは、できるだけ連結部に近いところに立ち、スマホを眺める。3駅ほどはほとんど乗ってこない。その後3駅は乗ってくるが、その後も誰とも接触せずに立っていられるのだから、ガラガラと言っても良いレベルである。皆さん、在宅勤務を許してもらえるとは、良い会社にお勤めですね。

突然、前の車両から突風が吹いてくる。誰かが窓を開けたのだ。周囲から「チッ」と舌打ちが聞こえ、皆風と反対方向に顔を背ける。ドアのところには、富士通のSIMフリースマホを使うOLさん。同じのを持ってるけど、容量が8GBでいつまで使えるかわからないのが怖いよねそれ。反対側には、スウェットにスニーカーの、40代なかばのメチャクチャおしゃれなミドル。カバンもA5のノートが1冊入るか入らないかという小さいもので、何の仕事をしてるんだろう。でも、こういうときにも出勤しないといけないんだから、結構重要なポストなのかも。Gジャンで通っていいんだ。こっちもGUのライトダウンにGUのメッセンジャーバッグだから、まあまともな人には見られないであろう。

4月にもなるというのに、まだライトダウンを着ている。さすがに先週、もっと分厚い上着類は洗濯したが、なんとなくまだ寒い気がして、3枚あるライトダウンをローテーションで着ている。無理に薄着をするとすぐに喉が痛くなる体質なのもあるが、今年はなんとなく、4月でも冬が続いているように感じるのだ。周りを見回してみても、未だにダウンジャケット等の厚着の人の率が高い。そういえば、我が家の裏の古い家は、まだ毎朝古いエアコンをつける音がする。今年の桜は開花が1週間早かったうえ、世が世なのでそれを愛でる時間もなく終わってしまった。あまり意識していなかったが、桜を眺めるあの瞬間でもって「冬は終了したのだ」と、皆、自分に言い聞かせていたのではないだろうか。

O駅に到着。下車しようとしたところ、座席に座っていた女性のカバンに「おなかに赤ちゃんがいます」のキーホルダー。このご時世に妊婦まで働かせてる職場って何やねん。あ、ウチもそうか。そういえば去年、出産後に転職したパートの人がいたが、どうしてるんだろう。やっぱり休職かな。

O駅の乗り換え、JRの改札前の前の人混みは、目視で50%というところか。4/7の夜までは、夜の飲み会待ち合わせもいたが、最近はほとんどいないようだ。防弾チョッキのようなものを着た鉄道警察が所々に立っている。見た感じトラブルはないようなのだけど、ああいう人も感染するリスクがあるんだし、わざわざ立たせなくても良いんじゃないのかな。

下り電車のホーム。空いているが風が強い。先々週、緊急事態宣言の直前に、意を決して髪を切りに行った。田舎な近所の1000円カットの店。顔そりなどされると、肌荒れをするので、カットオンリーの店が増えたのは非常にありがたい。休みの午前中に行ったら、予想通りのお年寄りばかりだった。3つのカット席の真ん中で「2cmくらい短く、すいて」と簡単にオーダーし、黙って来られるに任せていたのだが、左の席ではバアさんが理容師に「あそこの団地で出たってねえー、外人が多いからねー、買い物がねー困っちゃうよねー」と休まずに喋り続け、右の席ではジイさんが「いや、前はこうじゃなかっただろ。前みたいにやってくれないと困るよ」と文句をつけ続けている。こういうカット専門店が、前回なんか分かるわけないやろ。と言うか、どっちも黙れ。

そんな状態で切ってもらった髪の毛であるが、元が伸びていたのもあり、思ったより短くならなかった。さらに少し伸ばしていたのが影響し、癖毛が主張するようになってしまったため、風が吹くと髪の毛があちこちピョンピョンと立ち始めるのである。まるでベートーベンである。もう、いっそのこと、坊主にしたろかな。

Amazonでは今、偽マスクと偽体温計が幅を利かせているらしい。どう偽なのかと言うと、マスクや体温計を発注したはずなのに、配達の途中でタオルなどに化けるのだそうな。これからは、セルフ散髪のために、バリカンが売れるのかもしれない。男の子はスポーツ刈りが増えるのであろう。懐かしい光景だ。ひょっとしたら、大人も男も女も坊主が主流になるかもしれない。みんなシンニード・オコナーだ。女性の坊主と言うと、『戦場のピアニスト』もだが、手塚治虫を思い出すのだ。手塚治虫の戦争などでひどい目に有った女性は、みんな髪の毛が坊主にされるのである。あれは手塚先生の性癖だったのかもしれない。Amazonではバリカンが飛ぶように売れ、偽バリカンが幅を利かすようになるのだ。バリカンだと思ったら、でっかいスティックのりが届いたりするのだろう。

むしろ、Amazonの変なものばかり集めてみるのはどうだろうか。ウチにも買ったはいいがほぼ使われていないAmazonで購入したものがいくつかある。壁の下地探しであるとか、SDとMemory stick Duoの同時に読めるカードリーダーだとかだ。

Amazonで、体温計を買おうとしたらタオルが来てしまった人は、このご時世、体温を測らないと出勤できなかったりするが、「体温計が届かなかったので休みます」と仕事を休んでいたりするんだろうか。「何度計っても34度になります」「体温がランダムで表示されるので、計るたびに数値が変わります」なんていう体温計のレビューもたくさんある。みんな適当に申告してるけど、大丈夫なんだろうか。

実は今、家の体温計を妻がなくしてしまい、発注中である。
某所で日本のメーカー製の在庫が見つかったので助かったものの、あと数日、熱が出ませんように。
本気で。