22. それでも自動販売はつづく。

 ビッ、ゴトン…ガッコン…カショッ。知らないおっさんが、駅前に設置された自動販売機で缶コーヒーを買い、その場で開けた。オッサンは熱いはずのコーヒーを、冷たいビールでも流し込むように一気に喉に流し込み、うまそうにため息を一つ付いて、缶をゴミ箱に投げ込んだ。

そういえば、自動販売機で飲み物を買わなくなって、どれくらいになるだろうか。大学院以降、都市部に出てきたということもあり、自動販売機で買わなくても、少し足を伸ばせばコンビニがある。飲み物が欲しい時は大概暑いときなので、飲み物を買う前にまず、コンビニやスーパーのクーラーで涼むというステップを考える。

中学や高校の頃は、自動販売機は楽しい物だった。お金を入れるときの背徳感、ボタンが光ったとき、押してわずかのタイムラグのあと「ゴトリ」と商品が出てくるときの高揚感。当時は110円に値上がりしたばかりであったので、よくお釣りのところに90円が残されており、常時金欠の中房だった我々は、それに20円を足して買ったりもした。自動販売機の中身のリニューアルは、通学途中のエンターテインメントの一つだ。「つめた~い」だけに統一される春先、「あたたか~い」が現れる秋口で季節を感じる。もちろんそれだけではなく、コーラが突然500mlのラージ缶になったり、見たことのない色のファンタが売られると、仲間うちで誰が最初にそれを買うのかという話が出る。一方で、いつまでたっても変わらない、カロリーメイトや維力(ウイリー)の売っている自販機となれば、一顧もされない。

ところで、崩壊中のプルトニウムが如く、常時熱を発している中高生において、「あたたか~い」に属する飲料はほぼ視野に入らない。多くの場合、単純に量的なコストパフォーマンスの悪い、小さな缶の缶コーヒーだからだ。1月から2月にかけて、300ml程度のミルクココアを買ってみるものの、熱くてしばらく飲めず、飲んでも薄くて、思ってたんと違う。しかし、2週間もすると、その記憶はすっぽり抜け去るのである。

ある日の高校の帰宅途中、同級生でクイズ研究会で高校生クイズ大会3位までいった男が、いつもの自販機で妙なところを押しているのを見かけた。あれは、誰も買わないおしるこ?と見に行くと、コーンスープではないか。「あつ、あつあつ、あつっ」と言いながら、彼はコーンスープを開け、飲み始める。
「変わってんな」
「そうか?普通飲むやろ?」
「普通買わんやろ、コーンスープ」
と話したものの、よく考えてみれば、文化祭の準備の暑いさなか、彼はカロリーメイトの山吹色の缶を開けて飲んでいたではないか。あれには同級生皆、度肝を抜かれた。当時の中高生は、カロリーメイトは罰ゲームで飲むものだと信じていたのだ。

いつからか、自動販売機に興味を抱くことはなくなった。社会人になってから、自動販売機で飲み物を購入したのは、せいぜい5回もいかないだろう。コンビニの500mlペットボトルのお茶は、気がついてみれば100円を割っており、スーパーで買うのと変わらなくなった。

お茶を自動販売機で買ったのは、高校の修学旅行の夜行列車から降りた札幌駅だった。夏でも思いの外気温が低いことに戸惑いながら、当時発売されたばかりの緑茶を買った。「お茶なんか、金だして買うものか?」と皆に揶揄されながら飲んだ250mlの緑茶は、びっくりするくらい苦かった。

自動販売機には、たまにはびっくりさせて欲しい。