4. 井之頭五郎とプリキュア。

 不良技術者の朝は早い。普段も6時20分には布団を去っているのだが、土日ともなれば、目が覚めたら即行動である。トイレ、洗顔、そして二階にある楽器部屋、書斎、物置、ガラクタ部屋にこもる。ギター、キーボード、電子ドラムとともに、本に漫画、CD、コンピューター、コンポにテレビまでなんでもある自分の部屋だ。とはいえ、娘はキーボードを弾きたがるし、ドラムを叩きたがるし、Youtubeを見たがる。妻はといえば、乾ききらなかった洗濯を干したがる部屋である。

普段ひと気がないこともあり、夏は朝から熱く、冬は昼でも寒いが、土日の早朝から朝食までは、はんだ付けやミシンなどの針仕事など、危ない作業が、娘に邪魔されずにできる唯一の時間なのだ。

その日曜日も、朝一でYoutubeを見ながらズボンのポケットの穴を縫って塞ぎ、意味もなくギターのシールドコードのプラグをL字に交換した。8時30分を過ぎ、階下からゴソゴソと音がし始めるのに気がついたので、片付けてリビングに降りると、日曜朝恒例の、リビングに行き倒れ、半分寝ながらプリキュアを見る娘。彼女はプリキュアは3歳途中から見始め、もうすぐ5歳となる今は、2作目である。

誕生日が1月と、プリキュアの放送改変期に当たっているため、誕生日はプリキュアグッズを買ってもらえない。それでも、4歳現在の一番好きなものはプリキュアである。変身グッズや衣装の購入を避けていたところ、過去の作品の絵本をきっかけに、過去作の人形を集めるようになった。中古のジャンク品を中心に集めたキーホルダーやフィギュアは、すでに50体を超えている。初作から変身後のプリキュアは60人。「フォーム(ホーム)チェンジ」なるものがあって、それらも加えると70人強になるが、そのすべての名前を覚えている。恐ろしい幼児の記憶力。「キュアビューティー」って誰やねん。

ところで、女の子のプリキュア、男の子の仮面ライダーは、1年周期で完全に入れ替わるため、過去作のグッズは、中古品では100円程度からとかなり安値で取引されている。一方で、1年しか作られないし、食玩においては1ヶ月程度しか販売されないなど、シリーズによっては放送当時から品薄のものも有る。実際に食玩は売られ始めるとSNSで情報が拡散され、あっという間に店頭から消えるそうだ。幼児に世間の厳しさをそこまで教えなくてもよいのではないか。

テレビはCMに突入。「お世話してフワ」「アップデートアップデート」、からの後半突入。個人的に、昔からアニメ番組のCM入りと終わりの「キャッチ」と呼ばれる番組案内のコーナーが好きだ。

CMがあけたところで、娘が急にソワソワし始める。
「トイレ?」
「ううん」
ソファの影に隠れたかと思うと、プリキュア人形コレクションの箱を持ってきて、なにやら自作の寸劇を始めている。
「見ないの?」
「みてるー」
「消すよ?」
「だーめー」

そうこうしているうちに、テレビの方は戦いが佳境になってきて、一番見るところじゃないのかなーと思うが、相変わらず娘はテレビを見るでもなく見ないでもなくだ。

戦いが終わり、変身が解けたプリキュアたちが「エレナさん大会頑張って」なんていう締めのところで、また娘は急に食いつき始めた。もう終わるで。

歌が終わり、予告も終わったところで聞いてみた。
「なんで途中見ないの?」
「こわいから」

そうか。

敵が人々を恐怖に陥れ、プリキュアに戦いを挑むシーンが怖い。その発想、大人にはなかったわー。言われてみれば、プリキュアの敵は大体、デザインが雑で怖くない。公衆電話や電柱に怖い目を描いていて、手足はグレーの曖昧なもの。ウルトラマンや仮面ライダーなら、敵の造形が凝っていれば凝っているほどのめり込むもんだが、あえて逆を行くのか女の子向けアニメ。

番組の構成も、そのように作られているのだ。男の子向けの番組なら、敵はCMに入る前の前半ですでに戦いを挑んでくるのに対し、プリキュアは後半のCM明けになるまで変身すらしない。プリキュアの主体は、変身しての戦いではなく、日常のゴタゴタなのか。井之頭五郎なら、CM前にご飯食べ始めちゃうのになー。『孤独のグルメ』は、そっちがメインだからなー。「『孤独のグルメ』は、最初のドラマ部分飛ばすでしょ?」「AVを脱がすところまで早送りするタイプ?」という会話が有ったが、プリキュアの場合は戦いは主食ではなかったのだ。余ったとんかつにソースを付け直し、店の人に頼むご飯のおかわりは、別のところに有ったのだった。

「じゃあさ、プリキュアの何が好きなの?」
「ぜんぶ!」
「いや、ぜんぶじゃなくて、どこが一番好き?」
「うたとへんしんするとこ」

さいですか。