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料理系動画「FoodTok」から、Z世代が得る学びとは

世界で月間10億人以上のユーザーに楽しまれているTikTok。幅広い世代から多様なコンテンツが集まるTikTokでは、アプリを超えて社会に大きな影響を与えるトレンドが日々生まれています。今回は、アメリカ在住のライター竹田ダニエルさんから、TikTokでレシピを共有したり、食事の様子を投稿するなど食べ物を扱うジャンル「FoodTok」について、アメリカ現地での体験とともに紹介いただきます。

筆者:竹田ダニエル

TikTok上では、特にZ世代を中心に、常に「食文化」の革命が起きている。現在、「#FoodTok」のハッシュタグがついた動画は711億再生(2023年10月21日時点)を超え、プラットフォーム上でも定番のコンテンツとなっている。TikTokには様々なサブジャンル(本を紹介する「BookTok」、金融関係の情報をシェアする「FinTok」など)が存在するが、レシピを共有したり、食事をする様子を紹介するサブジャンルは題して「FoodTok」と呼ばれる。

特に、ロックダウンによって外食やクラブでの夜遊びなどが減った中、自宅で「食」を楽しみながらTikTokを経由して世界とつながれるツールとして、FoodTok関連のコンテンツは人気が爆発した。食べ物を扱うTikTokのジャンル、いわゆるFoodTokは、完璧に美しくキュレーションされた「映え」ではなく、いかにリアルでありながら楽しく、意外性を持ちながら美味しそうかが大事なのだ。

「映え」より「面白くて新しい」もの

プロのシェフでなくても、もともと料理が得意でなくても、綺麗に盛り付けをしたり、美味しそうな動画撮影スキルがなくても、誰でも動画を投稿して、バズを得るチャンスがあるのがTikTok。自己流に編み出した「料理ハック」を紹介する人もいれば、先祖代々受け継がれてきたレシピをシェアする移民二世の人たちもいる。さらには、料理をしている動画の音声では料理とは全く関係のない社会問題について話したり、フォーマットも内容も自由だ。

「FoodTok」は、若者たちの意識を変革していると言っても過言ではないほど、Z世代の食事文化に大きな影響を与えている。紙媒体でのレシピや長々としたオンラインの料理ブログなどでしか料理の情報を得ることができなかった以前と比べて、オンラインプラットフォームやSNSが発達した今では圧倒的にアクセスしやすくなった。今まで、アメリカの若者は大学に入るまで実家で親の作ってくれたご飯を食べて、大学に入ってからは寮の食堂で、もしくは一人でカップラーメンを食べるなど、なかなか健康的な食事を自分のために作るというカルチャーが根付いていなかった。しかしロックダウンで大学も閉鎖され、自宅にいることを余儀なくされた若者たちは、TikTokを通じて持て余した時間を楽しむために、あるいは何らかの「生産性」を求めて、自分で料理を作るきっかけを得た。つまり、早いうちから自分で料理をすることの入り口をTikTokを通して見つけることができた変化が生まれたのだ。

「完璧な見た目でなければならない」という「映え」のプレッシャーはなく、「カオスでリアルなもの」が歓迎されるTikTokにおいては、料理も「見映え」より「楽しさ」や「手軽さ」が重視される。Z世代にとって料理系のコンテンツは、他者から見て「理想的、羨ましいと思うようなライフスタイル」かどうかではなく、自分にとって美味しいか、手軽に安く作れるか、そして奇妙であるほどウケるというプラットフォームの特性上、「面白くて新しいもの」に出会えるかにこそ価値があるのだ。

Emily Mariko(エミリー・マリコ)現象

これらが波及力を持つ根幹には、「リアルで個性的なストーリー」や「共感性」が紐づいている。「FoodTok」を語るにあたって欠かせない存在といえば、現在31歳のEmily Mariko(エミリー・マリコ)だ。日系ミックスである彼女はあえて日本名を名乗り、日本のルーツを視聴者にシェアするようなフュージョン料理を作って紹介している。彼女のファンのほとんどは、Z世代と言われている。。残り物のサーモンをほぐして皿に盛り、白米を乗せ、電子レンジで温めた後に醤油やマヨネーズをかけ、海苔を巻いて食べる。2021年10月に投稿されたそのシンプルな動画は、あっという間にバズり、「エミリー・マリコ現象」と呼ばれるほどの影響力をもたらした。彼女の料理の真似しやすいシンプルさやヘルシーさ、そして「理想的な落ち着き」を持ちながらも決して手の届かないほどではない、つまりインスピレーショナルであり親近感が湧くということに注目ポイントがある。

さまざまな「FoodTokクリエイター」

特に「@TheKoreanVegan」というアカウントの投稿主であるJoanne Molinaroは、韓国料理をはじめとしたヴィーガン料理を調理しながら、音声では淡々としたナレーションで「細くなければならない」プレッシャーを感じたエピソードや、父親の訛りに対して10代の頃に苛立っていたことを振り返ったり、そして親世代との文化の違いによる理解のズレなどを語る。TikTokはプラットフォームの特性上、ユーザーが興味を持つようなジャンルの動画を精度の高いレコメンドシステムで提供するため、このような一見ニッチに見えるようなクリエイターのストーリーやコンテンツは、「しかるべきユーザー」に届くようになっており、その結果として「共感」で繋がれるコミュニティも形成されやすい。

例えば、人気TikTokクリエイターであるKirsten Titus @pepperonimuffin は、カオスで恥ずかしいストーリーを(まるで友達とビデオチャットで喋ってるみたいに)フルーツを切り刻みながら語りまくることで有名。セラピストとのしょうもない会話とか、元カレとの喧嘩とか、ハワイで食べられる南国のフルーツを紹介し、雑に切りながら語る。親しみやすい語り口調とともに、視聴者側は普段触れないような食文化についてカジュアルに学べるのだ。

他にも、モン族の歴史的背景を説明しながら実際にモン族の伝統的な料理を(素材を買いに行く段階から)作ったり、まさに「学び」の濃度が高いものはかなり視聴者に人気だ。

ギリシャとトルコの似てる料理を原材料や調理法から比較したり、元々オスマン帝国から由来したものが地域別で発達したことを説明したり、「美味しそう」という気持ちと、「勉強になる」という気持ちを両方獲得できるのは「FoodTok」独特の現象なのではないだろうか。

この動画は、料理をしながら「なぜ文化の盗用は重要な問題なのか」について話している動画。ここで鍵となってくるのは、「FoodTok」は「食べ物」だけでなく、食にまつわる政治や文化について議論する場所でもあるということだ。

もちろん、最も人気なジャンルの一つは「簡単レシピ」系。これは「りんごが一個だけ余ってるときに5つの材料で作れるデザート」の紹介で、ポイントは「一人暮らしでも1人用に作れる」ということ。アメリカは基本的に大量に料理して家族で食べたり、パーティーで振舞うようなレシピが一般的だったものの、アメリカのTikTokではこのようなおひとり様用の動画はかなり需要が高い。

この「シェフが自分用に作るレシピ」の紹介動画では、「映える」とかなどの要素は一切関係なく、単にいかに美味しそうか、作りやすそうか、そして動画自体にリラックス効果があるか、「リアルさ」が評価されて伸びやすい系統の動画だ。

食事という生活の根幹にまでTikTokの影響が及んでいることからは、裏を返せば食事がいかに社会的影響を受け、Z世代を中心に、文化的生活と密接に関係しているかが見える。

不健康なファストフードを大量に食べたり、クレイジーな料理を作る「ショック系」の動画も確かにSNSでは人気のコンテンツだが、「FoodTok」では確実にユーザーが自身のルーツと文化的に繋がりを求めながら、対話を通して学びを得る場所になっている。

日々の暮らしを少しでも豊かにするための「彩り」としての食事、そして「学び」としての食事。誰かの目を気にして、見た目や体裁を重視するような食事のあり方ではなく、リアルであること、そして「新しいことに挑戦する」ことを求めるような、Z世代の食に対する新たな認識が広まっていることが、「FoodTok」では実感できる。

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