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出版業界も注目 アメリカで起きている「BookTok」ムーブメントとは (竹田ダニエル)

世界で月間10億人以上のユーザーに楽しまれているTikTok。幅広い世代から多様なコンテンツが集まるTikTokでは、アプリを超えて社会に大きな影響を与えるトレンドが日々生まれています。今回は、アメリカ在住のライター竹田ダニエルさんから、出版業界も注目する、アメリカで起きている「BookTok」ムーブメントについて、アメリカ現地での体験とともに紹介いただきます。

筆者:竹田ダニエル

「BookTok」の存在をご存知だろうか。「若者は本を読まない」という言説が流布する中、TikTok上でさまざまな本を紹介したり、レビューをするコミュニティを「BookTok」と呼び、いまTikTokで熱いコンテンツとなっている。#BookTok というハッシュタグを含む動画の再生数は171億回(2023年8月末時点)を超え、いまや出版業界、書店業界までをも変える現象となっている。BookTokの影響で若者を中心に幅広い世代で大幅に読書が普及し、本の販売促進にもつながったのだ。書店に若者が戻ったとして、BookTokでバズっている本を入荷したり、販売の目安にしている関係者も多い。ニューヨーク・タイムズの報道によると、2021年だけでも、BookTokは2,000万冊もの書籍の売上に貢献したという。

 BookTokというコミュニティの概念が生まれたのは2020年頃。比較的新しい現象であるにもかかわらず、BookTokはアメリカの出版業界に多大な影響を与えている。あまりの人気ぶりに、2022年にはTikTokが公式の「BookTok読書クラブ」を立ち上げたほど。ロックダウンで時間と暇を持て余した若者たちが、(矛盾していると感じられるかもしれないが)オンラインでの情報摂取から離れ、よりアナログな「本」という媒体に注目し始めた時期と、TikTokで多くの若者たちが「心理的にセーフスペースであると感じられるコミュニティ」を形成し出したタイミングが重なったのだ。 

BookTokがここまで影響力を持ち、注目を集めているのには、TikTok特有のレコメンドシステム、そして本を「消費」する文化の変化が理由として挙げられる。ユーザーが普段どのようなコンテンツを見ているかを分析し、ユーザーの好みに合うような動画を流すことに特化したTikTokは、非常に「コミュニティ」を生み出しやすい。そのような密接なコミュニティが形成されやすいプラットフォームにおいては、「トレンド」が広がるスピードも速い。さらに、TikTokは他のプラットフォームとは異なり、短尺動画の中で視聴者にインパクトを残すことが求められる。この結果、短時間の動画を見るだけで視聴者も「読書してみよう」と、説得されやすい。

いまでは誰でもオンラインプラットフォームで本を出版することができるし、TikTokをはじめとしたプラットフォームやSNSでの「バズ」によって一攫千金を狙うことさえ可能なのだ。このように、出版業界全体が民主化された結果、既存の業界においてかつてはチャンスをほとんど与えられてこなかった人々も、自分で本を書き、自分でファンベースを築くことができる。多様なバックグラウンドを持つ人が作家になれる機会を得たことによって、キャラクターやストーリーの多様化、つまりは文学における表現の多様化が進んでいるのだ。

そのわかりやすい例として、女性作家の支援とエンパワメントがBookTok上では盛んだ。地位と名誉が高い男性作家による女性の描写が笑えるものとして批判されたり、小規模な女性作家や海外の作家もオルタナティブとして取り上げられる。「買い物は投票」と考えるZ世代的な思考と、つながっている。例えば「読書好き」の集まるBookstagramやBookTokでは、「1月は日本人作家の本を読もう」という #japanuary たるトレンドが起こった。このTikTokトレンドで紹介されている本は女性作家がメインであり、かつての「日本文学といえば村上春樹」というイメージとは異なる新しさを感じさせるトレンドだ。例えば「村上春樹の女性描写に対して批判的な人向けの、日本人フェミニストによるフィクション作品」を紹介するTikTokもあり、村田沙耶香、川上未映子、松田青子、柳美里などの作品が紹介されている。

BookTokは、TikTok以外のプラットフォームやブログと比べてトレンドの循環スピードとインフルエンス力が段違いだ。 TikTokでバズるだけで、出版当時はそこまで話題にならなかった過去の作品が突如ベストセラーになることもある。この影響力を出版・PR業界がビジネスにも利用し始めている。いまや、アメリカの書店の多くには「BookTokで注目の本」を集めたコーナーが設置されている。本の売れ行きが長年低迷していた書店は当然このBookTokブームに乗るし、「BookTokでのバズ」を狙う出版社も増えているほどだ。BookTokでの話題性によって無名だった作家がベストセラーになるなど、今や最大の効力を持つプロモーションになっている。今年の2月には、父親の書いた本を紹介し、「14年間かけて書いて11年間ほとんど売れてないんだけど、ちょっとでも売れたらいいな」と投稿したユーザーの動画がバズり、アマゾンのベストセラー1位となったことがニュースになった。

「若者は本を読まなくなった」と言われるが、実際にはこのように本を中心にしたトレンドやムーブメントがTikTokをはじめとした動画プラットフォームやSNS上で起きている。時代とともに、本の選び方、本の読み方、本の楽しみ方は変化するものだ。BookTokの投稿やコミュニティをきっかけに、いつの間にか失われてしまった読書への愛を復活させたり、読書を習慣づけるきっかけになったという人も多くいる。今後の出版業界も、多様で流動的なZ世代の多面的な消費行動や、常に渦巻いている社会的な議論に注目しつつ、この新しい潮流に適応していくためにさまざまな変化を起こすだろう。

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