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広島に住んでいる父方の祖父母に会いに行くために、新宿から夜行バスに乗った。

座席は窓側だった。
なんだ、トイレに行きにくいな、と思った。

後ろの席には中国人カップル。国民性なのだろうか、ぺちゃくちゃと大声で話す。今は何をしててもいいが、夜になったらしっかり口を閉じていただきたい。

祖母に「今からバス乗ります」とSMSを送った。早く床に着く祖母には、起きてからメッセージが届くだろう。

「すいません、隣、すいません」
私の隣には、50代くらいのおじさんが座った。

(なんだ、おっさんかよ…)

私の心にあった僅かばかりの期待。
美女が肩にもたれかかってきたり、、、
そんな期待はもちろん叶わなかった。

夜行バスではそんなことは起きない。
見知らぬ男女は隣に座らないようになっているから。

(おっさん、頼むから静かに寝てくれよ、、、)

運転手が覇気のないアナウンスを淡々と読み上げ、バスは出発した。

隣のおじさんはすぐにイヤホンで耳をふさぎ、就寝体制に入った。

最悪だ。
大音量でシャカシャカと音漏れが聞こえる。

(今回は寝れないかもなぁ、、、)

そうは言っても仕方ないので、私も目を閉じて寝ようとした。

こういう時はたいてい、寝よう寝ようとすればするほど音漏れが気になってしまうものである。

うーん、うーんと頭を悩ませる。

ふと、気づいた。

聞こえてくる音漏れは切れ目がない。

音楽と音楽の間の切れ目。
普通なら静かになるはずの場所が全くない。

おじさんは音楽を聴いているのではない。

「あはははははははははは」
「いひひ、いひひひひひひひひひひひ」
「へへ」
「わはははははははははははは」

おじさんは笑い声を聞いていた。

老若男女の笑い声。微笑。爆笑。狂乱。
私がそれに気づいた瞬間。音漏れがぴたりとやんだ。




おじさんが。
私を見て笑っていた。

おかしい笑顔。目と口が真ん中で折れ曲がっている。
風船にマッキーで適当に描いたような。

おじさんの向こうの大学生も。笑顔。

前の座席の隙間にも。笑顔。

斜め前も。後ろも。笑顔。

笑顔、笑顔、笑顔、笑顔、笑顔、笑顔、笑顔、笑顔、笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔笑顔

バスが急ブレーキをかけて止まった。
急な出来事で、思わず前の座席に頭をぶつける。

瞬間、




わははははははははははははははは

↑読んじゃったね笑


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