電柱と花束、不思議などなく

仕事で疲れ、クタクタの中、うちへ帰る道。
空は、すっかり夜色に染まり、電柱に寄生している街灯が道を照らすのみだ。
その街灯が照らす電柱の足元に花束が添えてあった。
毎日通ってる道でいままで気が付かなかったのか、はたまた仕事に行っている時間の間で事件が起こったのか。
花束の周囲には、事件の痕跡を残すようなものはない。
どうやら今まで自分が気が付かなかっただけのようだ。
それか、悪趣味ないたずらか。
だとしても「気が付いたからには手でも合わせておこうか」と近づく。

人もなくなれば仏である。

手を合わせるか、一瞬の逡巡が思考を爆発させる。
手を合わせ冥福を祈るのも人の道だと思うが、触らぬ神に祟りなしともいう。
手を合わせ、祈られる存在は、ある種の神に近似する存在ということにはならないだろうか。
なんの縁もないのに関わりを持てば何が起こるか、最悪の場合、祟られるかもしれない。
爆発的飛躍でしかないが、足を動かし、その場を離れる。

翌朝、まだ空気に夜の冷たさが残る時間に会社へ向かう。
昨夜と同じ道を通る。そういえばと、電柱に目を向けてやる。
その足元に添えられていた花束は無くなっていた。
では、昨夜見た花束はなんだったのか。
まさか、朝の通勤の時間までの間で回収したのか、されたのか。
はたまた、本当に見知らぬ神がそこにいたのか。
もし、自分が手を合わせてしまっていたら――いや、止めておこう。過ぎたことだ。
朝日で温められた生ぬるい風が抜けていく。
不可思議なことなんてあってたまるものか。
電柱の足元に花束を置き、会社へと急いだ。

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