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パブリックなお腹


ウエストが普段の約1.5倍になった。
もう誰の目から見ても、明らかに妊婦らしい。
電車やバスでは席を譲ってもらえることも多くなった。
買い物に行けば「もうすぐですか?」と
レジで話しかけられることも多い。

たまに、ほぼ初対面なのに、
私の方が「落ち着いて」と言いたくなるぐらい、
誕生を楽しみにしてくれる人もいる。
今まで私が出会ってきたところでは、
そういう人は100%女性だった。

「わぁ〜〜〜♡♡♡」と満面の笑みで、
お腹に触らんばかり。

喜んでくれるのはうれしいけど、近い!
近いよ、距離が。

彼女達に似ているのが犬好きの人。
散歩中の犬を見つけるやいなや駆け寄って、
「あぁ、よしよし」なんて言いながら、
ワシワシと犬を撫でる。
そして、飼い主さんに話しかける。
本当に犬が好きなんだろう。

「まち」で見かける、よくあるシーンだ。

そんなふうに、はり出した私のお腹から
見知らぬ人との何気ない会話が生まれると、
自分のお腹が公共物になったような感じがする。

プライベートな部位であるはずの身体の一部が
パブリックな面も持ちうる、というのは、
ここ最近の発見だ。

曖昧な記憶だけれど、バラエティ番組で、
ぽっちゃりが特徴の女芸人さんが
「イケメン俳優にお腹をさわられるとドキッとする」
というような趣旨のことを言っていた。
三段腹を笑いの種として提供していても、
そのことと、お腹に触られることの間には
大きな溝があるのだろう。
お腹だって、身体の一部。
イケメンに触れられれば、思わずドキっとしても
全然おかしくない。

本人が抵抗なく話題にしていると、
大きなお腹は見てもいいもの、触っていいもののような
空気が生まれるけれど、
それはフリーハグのような
「触ってもいい」というサインではない。
みんなのお腹ではなく、彼女のお腹だ。

スレンダーなお腹や引き締まったお腹なら、
まず間違いなく触れるのをためらうはずなのに、
大きなお腹だと布袋さんやトトロ、タヌキなんかの、
ポンポンと叩くお腹と同じ扱いになる。

不思議だ。

大きなお腹の持ち主としては、
自分の意識と周囲の意識のギャップに戸惑うこともある。

妊婦であることをアピールしているつもりはないけれど、
お腹は常に存在を主張しているし、
私にしてみれば内臓や腹筋の入っている身体の一部だけれど、
そこは今、これから生まれてくる赤ちゃんの居場所でもある。

今のところ、セクハラ事案にはでくわしていないから、
別に意識のギャップがあっても特に問題はないのだが。

ただただ、自分のお腹が想像以上に注目を集めるのに、驚く毎日だ。

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