11月8日 刃物の日

《1》

しなびた引戸。
日焼けた紙に「包丁研ぎマス」の6文字。
訪れたのは、ただの冷やかしの筈だった。

しかし目が合った瞬間に、俺の心臓は貫かれた。
下手に抜こうと抵抗すれば、きっと息が止まるだろう。

大将の刀で、どうかこの身も貫いて。

邪な想いを抱き、俺は今日も暖簾を潜る。

***

《2》

さんざ世話になった、今はもう使えなくなってしまった、彼の刃物が愛おしい。

ただ、口に含むだけ。

これまでのように満足を与えることも、与えられることももうないけれど、
こうしていられるだけで、俺は十分にしあわせなのだ。

***

※刃物の日 ; 刃物に感謝し、使わなくなった刃物を供養する日。

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