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♬ Dream ー当たるまで、危篤を繰り返せ!ー ♬

「父さん・・・・・。大分の爺さん、危篤らしい」
私が電話口で言うと、
「そうか・・・まあ親父ももう年だからな。覚悟は出来てるよ。」
受話器の向こう父が静かに答える。・・・元気がなかった。
若い頃から「不死身」と言われた祖父だが、父の言葉を聞いて思わず「あの爺さんもいよいよか」と私も覚悟した。なんだか、寂しい気持ちになった。
3日前の話だ。

今年で85歳になる祖父が危篤になるのは、これが初めてではない。10年前に初めて危篤になってから【3年ぶり5回目の危篤】だ。
これを人に話すと、

「危篤って、そんなに何回もできるもんなの?」

と笑って不思議がられる。まるで、有力高校の甲子園出場を思わせる危篤の仕方で、最初の頃は身内も大急ぎで駆けつけたものだが、あんまり“たびたび生き返る”ものだから

「爺さんの危篤信じるのもう、やめよう。
 危篤後、何日か様子みてから駆けつけるようにしよう」

と親族会議で決まった。
生命力の強さで右に出るものはない。まるで元気の塊のような爺さんで、
「アンタ見とると、不思議とみんな元気出るから」
と見込まれ30年位前から漁師の安全を守る神社の運営を任された。

そんな爺さんも、3年前から車椅子生活になった。
ある時、何のきっかけか、爺さんその車椅子で坂道を猛スピードで駆け下りた。疾走して向かった先にあったのは100段近くもある階段で、

「わーっ!」

爺さんが声あげながら、坂道を一直線に下っていく。
たまたまそれを見ていた若者二人が、こりゃいかん、ということで暴走する車椅子を止めようと追いかけた。間に合うか間に合わないか、もう階段間際のところ

「えいっ!」

若者二人が手を伸ばし車椅子の取っ手に手が届く寸前、どういうわけだか勢い良く車椅子はくるりと向きを変え、若者二人が階段を転げ落ちた。

「大変・・・・・申し訳ないことで・・・・・」
「おじいさん・・・・無事でよかったけど、今度から気を付けてくださいね」

爺さんの代わりにケガをした若者二人に爺さんと婆さんが二人して平謝りしたらしい。

そんな爺さんも数年前からいよいよ寝たきりになり、少しは静かになったかな、と思って昨年末遊びにいったらそうでもなかった。

「泰弘よ。年末ジャンボはもう買ったか?」
「いいや、買わんよ。
 あんなもん、ちっとも当たらん。爺さん買うの?」
「ワシは買う。テレビ見とると、かなりの人が当たっとる。
 そろそろワシが当たる番だ。絶対に、当たる。3億が手に入る。」
「(笑)・・・でも爺さん、もう金なんかいらんじゃろうが。
 その年で3億あって何に使うよ。」
「泰弘よ・・・・お前は大丈夫か?
 お前にゃ夢がないんか?生きとって、楽しいか?
 ワシは、3億当てたときのことは使い道までもう決めとる。」
「何、どうするん?」
「ワシは宝くじで近々3億当てる。
 そしたら、ワシはその金を持ってラスベガスに行く。
 そしてその3億を、ルーレットで50億にしてチャーター機で帰ってくる。」

ロクに食事もできない、寝たきりの爺さんが病床ではっきり言った。
イノシシが跋扈する大分の山ン中。確かに「Dream」を聞いた。


そしてつい先程、婆さんから電話がかかってきて
「爺さん、持ち直した」
と言う。嬉しくなって早速父に電話をしたら

「ほらみろ!
 あのクソオヤジの危篤なんて、あてになるもんか!」

訳のわからないことを言って笑った。元気になっていた。

よし。こうなりゃ爺さん、宝くじで3億当てよう!
そして当てた3億抱えて、ラスベガスへ行こう!
そしてお望み通り、50億にしてチャ-ター機で帰ってこよう!

言ってみるとなんだか、夢でもなさそうな気がするんだよね。
よし。だからそれまで、死んじゃだめだ!

当たるまで、危篤を繰り返せ!

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