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鼻毛カッターモニターへの応募文

先日、酔っぱらって家に帰ると嫁がパソコンに向かってウンウン唸っていたので、何をしているのかと思って覗いてみると、

「パナソニック製『鼻毛カッター』のモニター」

に申し込むための文章を考えていた。そして申し込むにあたっては、「どれだけ鼻毛に困っているか」を書く必要があるのだという。

「どれどれ、見せてみな」

酒臭い息を嫁に吹きかけながら、嫁を押しのけパソコンの前に座り、嫁の文章を読んでみる

嫁の文章(原文)
「うちの旦那の鼻毛には困っています。正直、みっともない。
 鼻毛を切るはさみを持ってはいるのですが、
 使うことは滅多になく手で抜くことがほとんどです。
 見ていて汚いし、不快です。」

「・・・・・・・」
「どう?」
「どうってお前・・・・俺の鼻毛でモニターに申し込むのか?」
「そりゃアンタに決まってるじゃない。
 私は鼻毛なんて伸びないわ。失礼な!」
「し・・・失礼なのはそっちだろ?
 人の鼻毛に『不快だ、みっともない』って!
 俺は夫だぞ?!」
「いいからウダウダ言ってないで、私の文章見なさいよ!」
「俺はそんなに鼻毛なんか伸びちゃいないだろうよ!」
「いいから早く文章見なさい!
 買うと高い商品がタダで手に入るかもしれないんだから」
「・・・・・・・」
「ほら早く!」
 腑に落ちない気持ちでもう一度嫁の文章を読み返し、率直な感想を言う。
「・・・これじゃ弱すぎるだろ。
 ほんとにモニターしたい気があるかどうか、俺なら怪しむね。
 『申し込んでみましたっ!当たると良いな!』って感じだよ。
 これじゃ。」
「う~ん・・・やっぱりそう思う?」
「ああ。これじゃダメ。当選を運に任せ過ぎてる。
 『鼻毛カッターのモニターの座を絶対に勝ち取ろう!
  この鼻毛カッターが、私はどうしても欲しいんです!』
 っていうインパクト、迫力に欠ける」
「・・・どうすれば、良い?」
「まずは、全体的な文字数を上げることだろうね。」
「文字数を?」
「こういう場合、文字数はその製品をどれだけ欲しいかって
 意気込みだから。」
「なるほど・・・でも、どうやって文字数を増やす?」
「より一層、具体的にしていくべきだろうな。
 旦那の鼻毛の、『何に困っているか』を明確にすべきだよ。
 そして、目に見えるような表現で書いていく。」
「それが難しいのよ。」
「たとえばね。俺の鼻毛の特徴を書く。」
「うん。」
「そして次に、
 それに対して君が思っている全体的なイメージを端的に書く。」
「うん。」
「それから、『不快』『みっともない』に対する
 具体的なことを書く。
 例えば、いつ、どこで、どんな風になっているから『不快』で
 『みっともない』と君が思うのか」
「うんうん。」
「そして、これはとても大切なことだけど、
 『パナソニックの鼻毛カッターでないとダメなんです!』
 って感じを出すことが大事だと思うね。」
「ああ、なるほど」
「何でパナソニックの
 この『鼻毛カッター』でないとダメなのか。
 どうしてこれが欲しいのか。
 そして、この製品を使った時、旦那がどのように変化するのか。
 それらを書くことが、とても大事なことだろうね。」
「そうか。」
「これらを、インパクトのある表現で書いていく」
そんな議論の末に何度も書き直しをさせ、出来上がったのが以下の文章。

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タイトル:「旦那の鼻毛」
「うちの旦那の鼻毛は凄まじく剛毛で、バカボンのパパ並みです。
 (旦那の鼻毛の特徴と全体的な印象を目に見える表現で端的に書く)
 街を一緒に歩いていると、私が彼の鼻毛に気がつき
 『ちょっと・・・・鼻毛、出てるわよ』
 言って指摘をすると、
 『ん、そう?』
 言ってところ構わず鼻毛をつかみ、抜こうとするのですが、
 何度やってもうまく抜けません。
 そして、たまに抜けたかと思うと、周囲を驚かすデカイくしゃみです。
 とても見てはいられません。不快です。
 (『不快』の具体化)
 なおかつ、抜けた鼻毛をご丁寧に私に見せるのですが、それが、
 『ほら見て!こんなに長い鼻毛が抜けたよ!』
 人の行き交う街中で馬鹿げた自慢です。
 みっともないったらありゃしない。百年の恋も、冷めます。
 (目に見える表現で『みっともなさ』を表現)
 そんな時にこの、パナソニックさんの鼻毛カッターがあれば、
 強靭な刃で、うちの旦那の剛毛鼻毛もよく切れるでしょうし、
 もし万一、私が街中で旦那の鼻毛に気がついたとしても、
 スマートでコンパクトなパナソニックさんの鼻毛カッターであれば、
 サッと取り出して鼻毛を切ることができると思うのです。
 (「パナソニックの製品でなきゃダメ!」を訴える)
 手前味噌ではありますが、うちの旦那、鼻毛さえ出ていなければ
 福山雅治にそっくりなんです。
 私は、福山雅治を取り戻したい。
 (製品を使った旦那の変化を具体的にする)
 格好の良かった旦那を取り戻すため、
 是非モニターさせてみたいと思い申し込みました。
 よろしくお願いいたします。」
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上記の文章を書き上げたとき、嫁はとても満足そうな顔をして喜んでいたが私は、楽しい文章を書き上げたことに多少の喜びは感じつつも、正直、とても不愉快だった。

俺は鼻毛出てねーし、人前で抜かねーよ!
(2011.10.22記)

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