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米国ニュースつまみ食い20220504~米国堕胎規制

今週月曜日の夜にリークした妊娠人口中絶に関する最高裁の多数意見草案。地鳴りのような反発を呼んでいる。

73年の「ロー対ウェイド」判決(公権力による女性個人の妊娠中絶に関する決断への介入は違憲、との判決)は過去50年間、米国女性の妊娠中絶を受ける権利を守って来たが、その間も一部キリスト教右派は「胎児の命の権利」を主張し妊娠中絶を違法とするべくずっと活動を続けて来た。

近年、そのようなキリスト教右派に多大な支持を得るトランプ大統領により任命された超保守派判事(ゴーサッチ、カブナー、バレット)の加入により、6−3で保守と傾いた最高裁により、遂に右派の悲願であるロー対ウェイドの転覆が実現されそう。今回のリークでは5−4でロー転覆派優勢。

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ロー転覆派(アリート、トーマス、ゴーサッチ、カブナー、バレット)

本来保守派である議長ロバーツはロー判決続行派。理由は後ほど。

このリークを受けて火曜日には全国各地で大規模のプロテストが行われた。

キーポイント

1。これはまだ草案のリークであり、正式な判決は6月下旬〜7月に出る見込み

2。米国全体で禁止になる訳でなく「州政による堕胎禁止法は合憲」となる

3。現在13の州で「最高裁の判決待ち州法(trigger law)」が判決と同時に施行されるべく既に待機中。それ以外でも似たような中絶禁止州法を早急に可決すると思われる州は12−13州あり、米国の半数の州で禁止あるいは強度の制限がかかる事になる。

4。リベラル州では引き続き同じように堕胎手術は受けられる。保守州でも、裕福層の女性であれば州外に処置を受けに行ける。なので保守州の貧困層、そしてそれは大多数が有色人種の女性に大きな影響がある。

5。レイプ、近親相姦、母親の命に関わる場合などの例外の有無は州による。

6。国民の70%はロー判決の維持(堕胎権利の維持)を望んでいる

草案の内容

意見書草案の著者はアリート判事である。

米国憲法に堕胎処置に関する直接の記述は無い。

ロー判決は米国憲法修正14条(個人の権利「生命、自由、幸福追求」への公権力による恣意的な介入を禁止する)を使って堕胎禁止法を違憲とした。堕胎権利は、修正14条で守られるべき権利であり、個人の決断に任されるべきものだ、と言う判断。

アリート判事はそこがおかしい、と言う。憲法に直接の記述がなくても修正14条によって守られるべき権利はもちろんあるが、

「そのような権利とは本国の歴史と伝統に深く根づいたもの」("such rights must be deeply rooted the nation's history and tradition " )

であるべきで、堕胎手術はその範疇でない、と主張する。

この解釈に警鐘を鳴らす専門家は多くいる。なぜなら、例えば最高裁が2015年、同性婚禁止法を違憲としたObergefell判決も同じように修正14条を使っており、それらの比較的近年に最高裁で約束された権利が「その権利は14条の範疇でない」と後から難癖つけて転覆できる前例を作ってしまう事になるからだ。

司法判決(特に最高裁)は過去の判決を重んじる。ラテン語でStare Decisis(Let the decision stand)と呼ばれる。一度決めた事を覆すことはそうそう無い。アリート判事はその批判をかわすために過去に前例を覆したケースを挙げる。

Plessy対Ferguson判決( "separate but equal"「分離すれども平等」)を覆したブラウン判決(教育の人種分離を違憲とした)、

前述Obergefell判決(同性婚禁止は違憲)、Lawrence判決(同性性交を犯罪とするのは違憲)など。

しかしこれらの前例転覆は全て個人の権利を拡張する形で転覆されている。ロー判決の転覆は女性の権利の制限であり、この規模、歴史のある前例のそのような転覆の例は無い。


最高裁の威厳


本来保守であるはずのロバーツ判事はロー保持の側(少数派)に加わった。彼は判事長として最高裁の威厳の維持を最重要事項としている。最高裁の威厳とは何かと言うと

最高裁は学術機関のようなものであり、政治の駆け引きなどとは無縁の機関である

と言う国民の認識。

三権分立の仲間、立法(議会)、行政(内閣)は政治に操られており、敵・味方などの思惑が渦巻き、駆け引き、ゲームが繰り広げられている。司法(裁判所)はそう言う俗っぽいものとは関わらないのだ、

と言うイメージ。

しかしトランプ大統領が政治色の強い判事をちょこちょこっと任命しただけで、ロー判決のような重要な前例が覆されてしまうようでは、「我々は政治のおもちゃではない」となぜ言えるのか。

大体この草案が「リーク」したと言うのが前代未聞。リーク、と言うのは敵味方の対立勢力図があった時に片方がもう一方を欺くために起こる現象である。そんな事が最高裁で起こってしまった。

イメージガタ落ちである。

アレキサンダー・ハミルトンが"no influence over either the sword or the purse"「刀にも財布にも影響力を持たない」と言ったように司法局には警察(行政局)もなければ予算決定権(立法局)も無いのだ。

彼らの力は、「他の二局とは違う純粋さ」みたいな所にしか無い。それをロバーツ判事は頑なに守っている。

最高裁判事の数を増やしてもっと公正性を高めよう。政治の影響を受けにくくしよう、と言う声もずっと上がっている。


司法でなければ立法で

女権活動家達はリベラル、ギンズバーグ判事が亡くなりその席に超保守派バレット氏が着任した2020年10月の段階で「ロー判決は覆される」と予想していた。

彼らが主張するのは「もう司法で女性の堕胎権利を保護するのは無理だ。立法に持って行こう」と言う事だった。

ロー判決は「堕胎禁止法は違憲」と言う判断。それ自体は法律では無い。法律・条例を作るのは連邦、州の立法局だ。なのでロー判決がどう効くかと言うと、それでも頑張って堕胎禁止法を可決する州がある。そうするとACLUなど人権団体が「その法律・条例はダメですよ。」と裁判を起こす。そこで裁判所が「あー、ロー判決があるからそうですね。この法律・条例はダメです」と却下される。そんな例は今まで幾度となくあった。

だからロー判決がそのまま法律になっている訳では無い。それを国法にしましょう、と言う動きがある。

それを"codify Roe"と言う。

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エリザベス・ウォーレンもめっちゃ怒ってる。

で、その法律と言うのは実際法案が出ていてWomen's Health Protection Actと言い、米国下院は通過済み。

しかし上院通過は難しいとされている。現在米国は大統領も民主党、上下議会も民主党。なぜ、上院で通らないかと言うとフィリバスターと言う上院裏技があって。。。

これは話すとまた長くなるので詳しい説明は省略するが、上院は今議員百人で民主連合・共和党が50・50の丁度半分。投票数が同数の時は副大統領が101票目を投じて決まるので51票で民主連合が勝つはずだが、フィリバスターを発動するとまー色々あって60票必要になっちゃう。

このフィリバスター、違憲でもあり(憲法にははっきり多数決で決定と書いてある)、少数派南部の声を拡大するために作られた古き悪しき慣習なのです。

じゃあフィリバスター禁止法を決めちゃえば良い!その投票にはフィリバスター発動できなくて上院の多数決で決まるのでいけんじゃん?って話だが、ここで民主党の暴れん坊、マンシン議員とシネマ議員が反対している。

この二人は先のバイデンの脱炭素法案含んだBuild Back Better予算案の通過を妨害した二人でもある。マンシン議員は利権バリバリ石炭王おじさん。シネマ議員は「私は少数派の味方!」ってよくわからないお騒がせおばさん。

なのでこちらも道のりは遠い。



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