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主婦ポリ4:民主勝利への道4-ドブ板選挙戦

今回もJon FavreauのPodcast、The Wildernessをざくっと訳して行こうかと思います。

大統領選でいつもぐちゃぐちゃウダウダ決まらない、右に振れたり左に振れたりするSwing Stateの代名詞、フロリダ州。共和が圧倒的に強かったがStacey Abramの奮闘により流れが変わってきているジョージア州。これらを含む南東部、"Southeast"のチャプターです。

今回は少し最初に注釈をば。

注釈1:フロリダ州法改正4条

felony、重罪の判決を受けた囚人から投票権を生涯剥奪するという法律を設定している厳しい州が米国には4州あります。フロリダもその一つ。

重罪、と一括りにしてますが、もちろん殺人などの深刻なものから、何個か以上の風船を指定区域以外で飛ばしただけでも食らってしまう、というケースもフロリダではあり、有罪となってそれを償った後でも投票権を剥奪されるのはあんまりだ、という運動が起こり、この改正4条が2018の中間選挙で市民投票で通りました。殺人や性加害などの罪人は対象外です。

これにより州内140万人の刑期を終えた人々に投票権が渡ります。もの凄い数です。そして、人種/経済格差や、警察/司法の人種ベースの不当な対応もあり、そのうち多数が有色人種です。

中間選挙でもの凄く注目されたフロリダ州知事選。共和ゴリゴリ保守の白人ディサントス候補と民主黒人候補のギラム氏。接戦の結果ディサントス氏が勝ちましたが、票差は何とたったの約3万票。率にして0.4%差。ギラム氏が当選していればフロリダ州初の黒人知事でした。

3万票で勝ち負けの決まる州で、140万人の新しい有権者。そしてその多数が民主支持と言う事で、この改正法がフロリダのフラフラ感を変えるかも、と言われています。

注釈2:Stacey Abramが挑んだ共和のVoter Supression

先のチャプターでも何度か出てきましたが、共和党は色々な選挙戦術を使って民主党支持の有権者を

1、投票に行かせない 

2、投票者登録させない

3、難癖つけて票を破棄する

など無効にする策を練ってきます。これを総じてVoter Supressionと言います。

有色人種の住む地域の投票所を少なく、車が無ければ行けない場所に配置したり。有色人種にフランス系やスペイン系の名前が多い事を利用してイレギュラーなウムラウトやハイフンなどの表記に関して、普段免許証などに使っている簡略表記でなく、出生証明書の通りに書かないと有権者登録無効、という新たな規則を瞬時に採用して通知しないでみたり。いかにも嘘っぽい陳腐な印刷の「何時何処何処に出頭して書類提出しないと投票権失効します」という葉書を有色人種の地域に送りつけ、それを理由に登録させないとか。

あの手この手でやるんです。

特に2018中間選挙のジョージア州知事選、白人共和党ケンプ氏と黒人女性民主エイブラム氏の対戦では酷かった。ケンプ氏は当時現任の州務長官。選挙を司る身でありながら自分が出馬したもんで(できるんですね、、、なぜか)、やりたい放題。言い訳は忘れましたが民主の票8万票を廃棄したとの報道もありました。そこに徹底的なドブ板選挙戦を繰り広げ不投票者を投票に駆り立て、オプラ筆頭に芸能人からの支持も得、僅差まで攻め寄ったのがステイシー エイブラム。5万5千票、1.4%差でした。

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Stacey AbramとOprah Winfrey 画像元https://www.nbcnews.com

注釈3:パークランド

フロリダ州パークランドと言えばマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件の事です。白人至上主義の生徒により17名が殺害され、銃規制を訴える子供達の社会運動のきっかけになりました。世界中で120万人動員したMarch For Our Livesはこの高校の生徒が中心に子供達が主体でオーガナイズされていました。記憶に新しいです。たった2年前。でももう2年も前。まだアメリカの銃規制は余り進んでいず、毎月/毎週のように大小の無差別銃撃事件が起こっています。

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March For Our Lives 画像元https://en.wikipedia.org

March For Our Livesがあったのは2018、3/24で、私たち家族がNYCからオレゴン州ポートランドにやって来て数日でした。もの凄い数の生徒達が道を歩いていてびっくりしたのを覚えています。写真はDCの様子ですが、NYCも凄かったようです。ぐっと規模の小さいポートランドで外から聞こえる子供達のチャントと全国の様子を実況するテレビを見て、3歳の娘を抱えて涙したのを覚えています。

子供達は自分たちの命の値段(price tag)を首から下げていました。各州の政治家がNRA(全米ライフル協会)からもらっている献金額を就学児の数で割ったもの。あなた達政治家は私たちの命を一人頭この値段で売り払ったんだ、という痛烈な批判。

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price tag 画像元https://marchforourlives.com/price-tags/


この運動の中心となったストーンマン ダグラス校の生徒達はパークランドキッズなどと呼ばれます。David Hoggなど、これをきっかけにactivistの道へ進みました。

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David Hogg 画像元https://en.wikipedia.org/

では、本編へ。

新たな市民(returning citizen)

州法改正4条によって140万人が投票権を得た。その多数は民主党支持。もちろん共和党はその事を知っている。彼らが投票するための面倒な書類手続きや、手続き料まで設けている。これはpoll taxと呼ばれるもので合衆国憲法改正24条(64年設定)で禁止されている。だから反対の声も上がっていてこれから裁判になるのだろうが、だめ元で設定する事によってこの新たな有権者達を怖がらせるのには十分。

そのような上からの圧力も問題であるが、有権者本人の心を改めないと行けない、と支援団体The New Florida MajorityのPatrick Pennは言う。

彼らは自ら黙る事を選んでいます。黒人の若者はとにかく政府と関わりたくない。---Patrick Penn
自分の一票なんて意味が無いと、思わされている。---Cornell Belcher

マイアミ フォーカス グループ part 1

今回は2012年にオバマに投票し、2016年に不投票あるいは無党派に投票した人たちに集まってもらった。

フロリダ州の「投票離れ」の内実を知りたかったかだ。

12年オバマに投票した人のうち、9%はトランプに投票、7%は不投票、3%が無党派候補に投票している。

「政治全般についてどう思いますか?」

まるでコメディー。
見てられない。
政治家達が子供みたいに罵り合ってるだけ。
ニュースが信用できない。視聴率ばかり気にしている気がする。

「最後に投票した時、その動機は?」

世の中を変えたかった。
トランプを止めたかった。
俺は前回投票しなかったしな。

彼らは政治に無関心な訳では決して無い。国民皆保険、教育制度改正、住宅事情、警察の有色人種への過剰な暴力、気になる案件は山ほどある。

Hyper-Local:地域性

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Stacey Abram 画像元https://www.npr.org/

ジョージア州は10年以上共和党知事だ。2018年の知事選で対する共和党ケンプ氏のvoter suppression攻撃をかいくぐり、たった5万5千票(1.4%)差まで詰め寄った。Stacey Abramはその類い稀なるスピーチ力とカリスマ性でその名を全国に轟かせたが、彼女は「私自身がどうだと言う訳では無いんです。」と言う。

兎に角有色人種のコミュニティーを集中的に活動しました。彼らは若い不投票者で、「誰が選ばれたって政治家なんてみんな一緒だ」と思っています。地域に根ざした活動により、若者の選挙参加率は139%増、有色人種全体では40%増、2014年の知事選では民主党全体の得票が110万人、それを超える120万人の黒人が2018年私に投票してくれました。これを全部、たった420万ドル(42億円)でやってのけたのです。---Abram

トランプはジョージア州で勝っているがたったの5pt差だ。2018年、彼女はどんな戦い方をしたのだろう?

民主党本部役員が勧めてくるような、テレビやラジオの宣伝にお金を使う戦術はとらなかった。そもそも投票する気の無い人はそんな宣伝聞いてません。彼らに個人的に話を聞きにいく。選挙の直前だけではなく、1年前2017年の夏から扉を叩いて個人宅訪問を繰り返し、会話を設けた。そのスタイルも「ステーシー エイブラムがあなたを助けます」ではなく、「今あなたに必要なことは何ですか?」「どうやったら政治家があなたを助けられると思いますか?」と聞く。彼らの声、一票がとても大切で、影響力のあるものであると肌から認識してもらう。---Abram

なにが困難でした?

まず、swing voterとlow-propensity voter。ジョージアでは前者は少なく、後者(不投票者)が圧倒的に多い。知事に出馬する前にThe New Georgia Projectという運動を立ち上げて、2014年当時80万人いた黒人不投票者達に投票者登録を呼びかけ/援助。しかし、登録してもそこから実際に投票に行くのはその中の20%です。投票がどれだけ尊いもので、実際に暮らしを変えられるものだという教育も行っていました。---Abram

フォーカスグループでは皆さん政治自体への不信感を示していました。

不投票の理由は1。誰に投票していいのか分からない。2。投票日直前にやたらと顔を出して票を集め、当選後にはそっぽを向く政治家にうんざりしている。3。希望や信念をもって投票したのに何も変わらなかったという過去がある。これらをふまえて、私の活動では「これは私を当選させるための選挙ではない。あなたが個人的に抱える問題を、声を、政治の場に響かせ、どの様に社会を変えていけるのか、という対話なのです。」と繰り返し訴えた。クッキーカッターの「失業率を下げる!」などという大きい公約の話でなく、パーソナルな問題、例えば仕事場が遠すぎて通うのが辛い父親、先のリーマンショックから地元の銀行が無くなりキャピタルをとれない起業家、そのような話に真面目に耳を傾ける。それはその痛みを個人レベルで共有できる地元の人間がやらなければいけません。本部から飛んできたスタッフではだめなんです。地元でスタッフを集めました。そうすれば非投票者への重い扉が開きます。---Abram

2020民主党選挙戦へのアドバイスは?

ジョージアの有権者は若い。とにかく若い。投票率がどんどん上がっています。16人の選挙人を擁し、上院議員は2席とも今回選挙。州政治の実権を握るために必要だった16の議席のうち11席を2018にひっくり返しました。ちょろい州なのよ(”Georgia is a cheap date”)。---Abram

2018のフロリダ知事選時のアンドリュー ギレム陣営の投票者登録支援団体Forward Florida ActionのRosy Gonzalez Speersも同じ事を言う。

地域内の、生活に関わる案件に興味を向けるのが最初です。地価高騰でどんどん仕事場から遠くに引っ越さなければならない人達に、「市の住宅プランはもちろん市長が決定するんですよ。あなたにその決定権があるんです。投票によって。」と説明すれば、シニシズムを超えて参加してもらえる。対話を超地域化するんです。--- Gonzalez Speers

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Rosy Gonzalez Speers 画像元https://twitter.com/rosygspeers

フロリダ南米系の複雑さ

民主党本部はフロリダのラティーノ(南米系)有権者の動向に注意が足りない。2016年にラティーノの64%がクリントンに入れたのに、2018のギレムでは47%に下がっている。--- Gonzalez Speers

確かに民主はフロリダのラティーノ票に弱い。2014から2018にかけてラティーノ全体の投票率は8%も上がったのに、民主の得票率は4%下がっている。なにが起こっている?

民主党本部はラティーノ内部の複雑さを分かっていない。本部のある米東北部のラティーノは主にドミニカ共和国、プエルトリコ出身で、元来民主支持だ。でもフロリダのラティーノは違う。ベネズエラ、キューバ、圧政の社会主義政権が国民を苦しめた国々出身で、「社会主義」という言葉自体にもの凄い嫌悪感を抱いている。本部の彼らが見る「ヒスパニック」とは違う。

その事をよーく分かっていたのが、言いたかないけど、トランプ陣営だったという訳だ。Facebookでスペイン語でフロリダラティーノの嫌社会主義を助長する広告を打った。それが功を奏している。

民主は皆保険や教育制度など、社会主義的な政策を売りに攻めるのだから、彼らフロリダラティーノにちゃんと違いを話せるようにしておかないと行けない。2018中間選挙で共和に「社会主義的なものは全て圧政に繋がる」とのイメージを植え付けられ、立ち直ってない。

マイアミ フォーカス グループ part 2

南米系の参加者に聞いてみた。

「トランプは約束を守ったと思いますか?」

全てじゃないね。

「守ったのはどの約束?」

不法入国者に厳しくしたのは良かったと思うよ。

「民主党をどう思いますか?」

国民を甘やかし過ぎ。
社会福祉などに金を使いすぎる。あれでは国民が怠惰になる。
共産主義も社会主義も一緒だよ。きれいごと言って最後は中産階級の俺たちから金を巻き上げて貧乏人に配るだけ。上の奴らはノータッチでどんどん肥える。バーニーの公立大学学費タダとか、巧すぎる話だよ。
俺たちは社会主義国家から来たんだ。先が見えるんだよ。政府が隅から隅まで制御し始めて最終的には食料まで掌握する。キューバには買えるチキンすら無くなったさ。

恐怖を超えて希望の光を。

トランプや共和は彼らのトラウマ、恐怖を利用して自分たちがその「上部の強大な力」であるのにも関わらず彼らを騙している、って事を分かってもらう。「公教育、公住宅、最低賃金の値上げ、国民皆保険。皆さんが希求する社会は民主党が届けます。あなたが社会主義的なサービスに感じる不信感、分かります。あなた達の経験は辛く、苦しいものでした。それを受けて私達はこのサービスを必ず民主主義の枠組みで届けるものです。一緒に走って頂けますか。」このメッセージを、選挙直前でなく、ずっと前から届ける。「トランプはあなたの聡明さを甘く見ているの。私たちはあなたを尊重し、あなた個人の要求を、声を、聞きます。」と。---Gonzalez Speers
民主は「目指す所」の話を。反対勢力のここがだめ、あそこがだめ、では無く。アメリカンドリームの話をするの。私たちラティーノはアメリカン ドリームを求めてここに来た。私の両親は中卒でブロンクスに来た。3人娘を授かって、その一人の私は今知事選有力候補の戦略家になってる。私たちにとって、アメリカン ドリームは凄く最近の事で、今でもそれを生きている。
私たちはフロリダの共和党地区でも活動します。それらの郡や地域はさすがに強力でとてもひっくり返せるとは思っていません。それでも諦めてはいけない。そういう真っ赤な地域に細々と暮らす民主党支持者が必ずいます。彼らが繋がり、組織を作れるような地盤を提供する。もちろん選挙としては負けます。でも、大幅な負けでなく、僅差の負けを目指します。オバマはそういう1%を積み重ねて勝ちました。

投票で世の中は変わる

大敗せず、投票者登録を促し、人々の意見を聞きに早くから顔を出す。投票であなたの暮らしが変わると訴える。

若い層が政治に関心を持ち始めている。若い活動家達、パークランドキッズなどが良い例です。ギレムの知事選での躍進はそういった若年層に支えられていました。---Gonzales Speers

新しい世代が民主主義の活動に参加し始めた。あらゆる分野で、莫大な労力を費やして、突き進む。そしてもし最後に敗れたり、不公平な結果に泣いたりしても、その努力が無駄になる事は無い。

「これは敗北演説ではありません。勝利や敗北は公正な戦いのみから生まれるものですから。」(2018中間選挙後初めての演説)---Abram
私の戦いが終わった瞬間、次の戦いが始まった。私の責任は、「あなた達の票は数えられた。それは私が保証します。あなた達は大きな変化を社会にもたらしたんだ。」とのメッセージを届ける事。民主主義のシステム自体に欠陥はない。欠陥があるのはそれを好きなように操り、私たちの声を聞こうとしない上位一部の団体だ。私たちは叫び続ける。そうやって彼らの欠陥に立ち向かうの。私は自分の為にやってるんじゃない。人々が、大きく、もっと大きく叫び続けた先に、希望の光を見出す手伝いをしているんです。

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