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カミサマ行きます!

カミサマ行きます!

作・市川大賀(大河)

【解説】

2014年。それまで経験のなかった「声優による朗読劇の脚本と演出」を任されて、初めて手掛けたのが、ニッポン放送主催の声優朗読劇『カミサマ未満』という作品でした。
それは、漫画の背景技術を講座で見事にビジネスとして成功させた、『背景美塾』設立経営者のMAEDAX氏が書いた小説『ニートの神様』が、筆者の企画持ち込みで、人気声優・小林ゆうさんによる独演朗読劇(こっちも筆者は脚本を手掛けた)として上演されることになり、さらにそのスピンオフとして、同日公演用に作られた物語でした。
本番は一回しかありませんでしたが、観客席は満席になり、その出演者は皆新人声優でしたが、その中から今では大人気アイドル声優ユニットに所属している子もいたりします。
今回、またとある縁で、新たに繋がった新人声優さん達に演じてもらうために、二日で30分物の朗読劇用シナリオを書かねばと自ら手を挙げた時、真っ先に思いついたのが『カミサマ未満』の、このハイテンション女子力コンビのスピンオフ短編でした。
『カミサマ未満』の登場人物は全員、当時プライベートで作劇していた、とある作品の登場人物をグロスでスピンオフしましたので、『カミサマ未満』自体が、ある種『ニートの神様』と筆者の個人的創作の、二つの作品のスピンオフであり、今回の『カミサマ行きます!』は、さらにそのスピンオフという、面倒な出自のある作品になっております。
しかし、そんなアレコレは、読んでもらう声優さんにも、聞いていただくユーザーさんにも関係ないこと。この作品はあくまで、この作品単独で成立しております。
もちろん、『カミサマ未満』の続編的立ち位置ですから、二人の登場人物は、『カミサマ未満』の設定と内容を引き継いでおります。
本作の女子コンビ、チーとアカネは、群像劇だった『カミサマ未満』の中でも特に好きな二人であり、この二人の女子トークを書き続けていたら、どんな長い尺でも瞬く間に埋まることは『カミサマ未満』で自己証明済みでした。
昨今、ClubHouseやvoiceアプリなどでは、声優さんや俳優さんによる朗読劇は活発になってきていて、筆者もそこで書きおろしを提供することも増えています。
そこで「読む人」に好まれる、「聴く人」に好まれる文章形態とはなんだろうと考えた時に、やはり伝統文化的には、小説形態や落語形態などがスタンダードであり、安定した娯楽になっているのは百も承知です。
しかし、今回は「文章作法的には、朗読劇という概念を、最大限絞り込んで、たった二人の登場人物による、ダイアローグだけの脚本式文章」に拘ってみました。
それは、今回の発表までのスケジュールや練習時間の少なさ、担当する声優さん同士の負荷が偏らないようにとの判断から、そうなっております。
個人的には、演劇論も学んだ一人としては『ゴドーを待ちながら』などを恐れ多くも頭の片隅に入れながら、この、言葉遊びの会話劇「のようなもの」をでっち上げた次第であります。
一見、萌えファン向けの声劇コントのようにも読めるかもしれませんが、筆者の作劇のベースは、ミュシャの生涯に見られた「狂気の発露」でありまして、それはこの作品でも、珍妙な設定ではなく、あえて「描かれる日常」の中にいじましく佇ませたつもりであります。
そういった思い入れはともかくとして、いろんな声優さんや、声のプロの方が演じる、チーやアカネを、また聞かせていただくのも、筆者冥利に尽きると思っております。
どうかお付き合いください。

#朗読劇 #声優朗読劇 #ClubHouse朗読 #声優 #創作大賞2022 #朗読

【注意】

この作品は、無料公開しておりますので、どのような形であれ、どなたであれ、シナリオとして使うことは自由であり、シナリオとして使用する範囲においては、筆者はそこで対価を求めません。
けれども、「事前に筆者に必ず了承を得ること」「表現を変えるに至る改編をしないこと」だけはお守りください。
Twitterアカウント @ArbUrtla

登場人物(人間換算年齢)

チー・クレイン(17) 『ティーンズラブの神様』元々は『ロマンスの神様』を自称していた。自分を清楚清純純情派だと言い切る暴れ馬女子神。

ドーミン・アカネ(15) 『アイメイクの神様』年上相手でもタメグチで負けない。食い意地は張ってるが、ダイエットは欠かさない。豚骨醤油ラーメンをこよなく愛する女子神。

アカネ「この世にはぁ。いろんな神様がおるんやでぇー。神様はなぁー。天界で修業を終えたあと―、人間社会へ舞い降りてぇー、仕える相手を探して、魔法でその人を幸せにするんやでー」
チー「なにゆえそんな説明的な台詞から始める? あと、微妙に間違ってる似非関西弁、やめろ!」
アカネ「そうおぉ? やはりこの、ビジュアルに訴える画面とか絵とかがない朗読劇というものでは、いかにして自然に、聴衆に状況やシチュエーションをつたえるべきかは、重要な問題であってぇ」
チー「あのなぁ! 今から地上世界に降りて、数年の修業期間仕える対象の人間を選ばなければいけない、この瞬間! なんのために厳しい天界の修業期間を、赤点ギリギリで卒業したのかを問われる、神様生涯最強のヘアピンS字コーナーを前にして、ストレスが溜まってない、その言い方がまず、生理的にメンタル的に皮膚感覚的に! もうあたしには無理なんだよ!」
アカネ「そういうもんかなぁ? だって今これを聞いてる人たちには、うち達が今この会話の真っ最中、高度4000mの地点を、地上に向かいながら滑空していることだって伝わってないんでそ?」
チー「伝え方ってもんがあんだろ! あたしら仮にも神様だぞ! カミサマ!」
アカネ「いや、まだ、その神様になれるかどうかの、最終地上修行期間への片道切符だべ?」
チー「片道切符なのかよ! 帰り道はねぇのかよ! 嫌だからね!? あたしは地上での修行を必ずクリアして、神様の称号を手に入れて、絶対天界に返り咲いてやるんだから!」
アカネ「いやいやいや。お前サ。今でこそ『ティーンズラブの神様』を名乗ることに決めたみたいだが、天界での修行開始時期は、自分でなんの神様になるって名乗ってた?」
チー「そっ!……そんなこと、どうだっていいじゃないかァ」
アカネ「いや、そこ大事よ? そこ大事。な? うちは怒らないから、最初はどんなミッションだったか、今一度言ってみ?」
チー「うん、まあ……その……なんだ」
アカネ「じれってーな」
チー「ろ!」
アカネ「……ろ?」
チー「『ロマンスの神様』……だった……よ。悪かったな! センスのないネーミングで!」
アカネ「センスっつーか。時代感覚が昭和っつーか。著作権的にアウトだしなー」
チー「だっていーじゃん! ロマンスは女子のライフワーク! 現代社会を生きる女子にとっての、幸せへの揖保乃糸……」
アカネ「『蜘蛛の糸』な? 果てしないバカのお前に教えてあげるけど、そこ、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』な? 夏場に茹でて冷やして食べると美味しいそうめんの話じゃねーから!」
チー「そうめんでもいいんだよ! 素朴純真爛漫清純精粗純情可憐なあたしみたいな乙女に似合う麺類は、カロリーも脂質も低いそうめんなんだよ!」
アカネ「そりゃなにか? これからの地上修行で、豚骨醤油ラーメンを追い求めることを至高の目的にしている、うちへの嫌味か!?」
チー「デブ活か! お前はなんだ!? これから地上にデブ活に行くのか!? 確かお前『アイメイクの神様』になったんじゃなかったのか!?」
アカネ「あぁそうだよ! うちは、お前と違って初志貫徹! 若き女子が、その女子力を存分に発揮できる、アイメイクの神様として、バキーっと神様の術でアイメイクが上手くなりたい! っていう女子の願いをかなえてあげるんだ!」
チー「いや、そのコンセプトは分かるよ? その心構えも立派だと思うよ? でもなんで、じゃあ豚骨醤油ラーメンなんだよ! そこがいきなりもって意味がわかんねーんだよ!」
アカネ「それは、うちの趣味だ!」
チー「ダウト! 公私混同な!?」
アカネ「うっせーなぁもう! とりあえず、うちは女子の魅力を引き出す『アイメイクの神様』で、お前が『ストレスの神様』だったっけ?」
チー「『ストレスの神様』ってなによ!? 『ロマンスの神様』な? しかもそのアイディアはもうなくなって、今は『ティーンズラブの神様』だから! 清廉深窓令嬢素敵明晰なあたしに、素敵に相応しい神様だから! とにかく、こんなところで喧嘩してる場合じゃねーぞ! 地上世界に辿り着いたら、速やかにとりつく人間を探さなきゃいけないんだからさ!」
アカネ「とりつくのかよ! 地縛霊かよ、うちらは! そうじゃねぇだろ!? うちらにとってご主人様になる、たった一人のパートナーを探し出して仕える。これしかないはずだろう!?」
チー「だいたい同じだ!」
アカネ「違うよ! かなり違うよ! 一緒に思えたらお前かなりおかしいよ! 神様というか、患者様だよ!」
チー「そんなことより、もうすぐ地上だよ! ホラ、すぐにとりつく相手を探さなきゃ!」
アカネ「結局とりつくのかよ! まぁいいや、うちはうちでマイペースにやるから! 今は人間界でいうとどんな時間なんだ?」
チー「人間界は、地球っていうまぁるい星の上のほぼ全域で人間が住んでるから、降りる場所によって、全ての時間がちがってるんだよ」
アカネ「地上が見えてきた! ここは今どんな時間なんだ?」
チー「えーっと、ここは日本だから……『時間ギリギリに、遅刻遅刻ぅと叫びながらパンをくわえて走ると、素敵な出会いがあるかもしれない午前8時』だな」
アカネ「朝だよな!? そんな回りくどい言い方しなくても、普通に『朝』でいいんだよな?」
チー「そうとも言うけど……。誰かピンポイントに神様を求めてる子はいないかなぁ」
アカネ「そうとしか言わねーよ……。誰かいないかなぁ」
チー「お? あのバス停で、静かに本を開いてバスを待つ、女子高生とかよくない?」
アカネ「うん、悪くないねェ。高校へ行く最中だから最低限のナチュラルメイクしかしてないけど、アイメイクをちゃんとすれば絶対『映え』るよ!」
チー「ちょっと地味めでおとなしそうな子だけど、ああいう子がティーンズラブではヒロインタイプなんだよねぇ! かわいいかわいい、うん、あの子に決めた!」
アカネ「ちょちょちょいと待て! あの子はアイメイクの神様の、うちの下で映える子になるんだよ!」
チー「何言ってるんですかぁ!? 豚骨醤油ラーメンの神様ァ! あの子は今あたしが先にみつけたんですー! あんたも神様の落ちこぼれだとしても、神様界、最低限のルールは知ってるよねぇ?」
アカネ「まぁうちは確かに落ちこぼれだったが、神様界のルールも、そしてお前がうち以下の成績だったことも知っている」
チー「『一人の人間には、一人の神様しかお仕えできない』、つまり、あたしかお前か、どっちかしかあの子には仕えられないのよ!」
アカネ「どうする? 神様界にいたころのように、拳を交えてガチ喧嘩でこの場で決めるか?」
チー「もう研修生じゃなくって、正式に神様になったんだから、そういうのは卒業しなさい! 純粋に、あの子の幸せを考えて上げるのよ……。本が好きな少女……。学校の、図書館で一人陽光を浴びて椅子に座り、ツルゲーネフの『初恋』を読むあの子……そんなあの子に、あたしは運命の出会いの男子をみつけてきてあげるんだよ……」
アカネ「いやいやちゃうな。イマドキはそんな、昭和みたいな展開はないな」
チー「全否定かよ!」
アカネ「やっぱさぁ! 女子は好きな男子の前でだけ、さなぎから蝶になるように、変貌してこそ輝くんだよ! そのためのアイメイク! 余計な神様の術や根回しなんかいらない! アイメイク一つだけで男を墜とす! それが女のロマンなんだよ!」
チー「言う言う。しかも、あたしの存在価値全否定かよ」
アカネ「まぁ喧嘩は後にして、もっとあの子を観察してみない? で、どっちが仕えるかをうちとあんたで、平和的合意で決めようじゃないのサ」
チー「それもそうだ。どうせあたしらの姿も質量も、仕える人以外には見えないし触れない。あの子をそばで、じっくり観察するチャンスだね」
アカネ「お、バスがやってきたみたいだよ。うちらもアレに乗り込もう」
チー「ま、あたしら飛べるけどね」
アカネ「人間界の気分を味わうのも、大事なミッションでしょ?」
チー「お前は豚骨醤油ラーメンを味わう気だろうが!」
アカネ「まぁ、気分気分」
チー「しかし、こうやって、朝のバスに乗ってみると、人間界って、本当、いろんな人がいるもんだよねぇ」
アカネ「あのおじさん、なんでまた死にそうな顔をしてるんだろうねぇ」
チー「そりゃバブル経済崩壊後、さらなるリーマンショックが日本経済に打撃を加え、失われた二十年が三十年とも言われる中……」
アカネ「あ、あっちの女性! 綺麗だわぁ! やっぱ最新メイクは一味違うわー。勉強になるわー」
チー「人の話を聞けよ! っていうか、『アイメイクの神様』を仮にも名乗ってるんだから、最新のアイメイクぐらい履修しておけよ!」
アカネ「そんなことよりさ。今はあの美少女高校生を観察すべきじゃね?」
チー「あームカつく! あー腹立つ! なんか、あんたに正論言われると、しかもこの流れで言われるとめっちゃ腹立つわー!」
アカネ「うーん。あの子いいわぁ。朝陽を受けてバスのシートに座るたたずまい。それは静かなる美。うちのアイメイクがそれを躍動の美に変えて!」
チー「無茶いいなさんな。あの子、そんな派手なアイメイクなんかする子っぽくないでしょ?」
アカネ「まぁそうだけどさ。アイメイクって派手だけってわけじゃないのよ。ナチュラルメイクで魅力を引き立てるって、絶対ありなのよ」
チー「よし、もうちょっと近くで観察しよう。どうせあたしたちの存在はバレないんだから、思いっきり近くで、うちらのご主人様になるにふさわしいかを見定めようよ!」
アカネ「仕える相手なんだから、ご主人様じゃねーよなー」
チー「ほうほう、朝一番のバスの中でも、随分あの本に熱中してるのね。文学少女ってやつよね」
アカネ「なんの本読んでるんだっけ? つ……つるはしの?」
チー「ツルゲーネフの『初恋』よ」
アカネ「それ、あんた確かめたの?」
チー「いや? あたしの野性の勘」
アカネ「勘かよ! しかも神様なのに野性かよ! すげぇな神様!」
チー「だって見てごらんよ、あの子の表情。少し恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、キュンと胸の鼓動に身を任せる少し赤味がかった頬の色……。アレは確実に、純愛小説を読んでいる時の少女の恥じらい!」
アカネ「そういうものなのかねぃ」
チー「とにかく、あの子に合うのは絶対に『ティーンズラブの神様』!」
アカネ「いやいや、『アイメイクの神様』だ!」
チー「お、高校の駅についたみたいだぞ、あの子が立ち上がる!」
アカネ「お、揺れたなぁ。あ、本落としたみたい」
チー「よろけ方も美少女だなぁ」
アカネ「えーと……おい『ロマンスの神様』」
チー「しつこいなぁ! あたしは『ティーンズラブの神様』だと言ってるでしょう!?」
アカネ「そんなのどうでもいい。今あの子が落とした本を見てみ?」
チー「うにゅ? えぇと? 『全受け責め大百科 パーフェクト腐女子マニュアル 縛り編』……これは」
アカネ「『受け』と『責め』って……」
チー「腐女子なんだ……。しかもパーフェクトなんだ……」
アカネ「801かよ! しかも『縛り編』ってなんだよ! じゃあ『吊るし編』とかもあるのかよ!」
チー「知らんがな! これはもう、あたしみたいな『ティーンズラブの神様』にはどうにも出来ない、こじれてる子!」
アカネ「この子に必要なのは、きっと『ボーイズラブの神様』なんだよ。お前、名前が似てるからできるんじゃねぇの?」
チー「出来ねぇよ! むしろ逆だよ! バス屋とガス屋は全くの別物だろうが! 無理だわ無理無理! あたしには絶対無理!」
アカネ「仕方ないなぁ……。あの子は諦めて他を捜すかぁ……」
チー「なんていうか、あのタイトルの本を、大事そうに拾って、抱きしめて去っていくあの子の姿、こっちは複雑だねぇ」
アカネ「でも、うちら山ほど候補生はいるから、どっかにいるんじゃないの? 『ボーイズラブの神様』が。それに出会えれば、きっと双方幸せになれるよ」
チー「神様になるのって、辛いよね……」
アカネ「そらまぁ、『神も仏もあるものか』って言われもするよね」
チー「次いってみよう、次……」

【完】


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