57. スラムダンク創作山王でわちゃわちゃする話(深津一成•沢北栄治•仙道彰•牧伸一•藤真健司)


  • 主人公 佐藤アキちゃん、山王工高出身、大手雑誌編集部で働いている。



  • 沢北:アキの幼なじみ 山王工高出身 アメリカ在住



  • 深津:東京のプロチーム所属 沢北の先輩 山王工高出身

  • リョーコ:深津の幼馴染 東京プロチームのマネージャー


  • 水原さん:アキの上司、大手雑誌編集部で働いている。

  • 
仙道: 東京のプロチーム所属





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※成人指定※

※直接的な表現ありなので、苦手な人はご遠慮ください


完全自己満、結構大人な内容ですので苦手な方はご遠慮ください。あまりバスケに触れず健全な男女として書いてます。誤字脱字あり。すみません。前回の続きです。


※本作はファンアートです。原作とは一切関係ありません。

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「夜、こんなとこで一人で飲んでるの危ないと思うぞ。」
夜中のコンビニ前は、物悲しく感じる。そこでお酒を飲むのが好きだった。

なぜか言葉にできない。どんな風景を思い浮かべるかというと、高校生の時深津先輩とじゃれたコンビニだった。

確かにここは秋田じゃない。
そう思いふけって声がする方を見る。

パーカーを着て、片手にコンビニ袋をぶらさげてる。
少し伸びた髪をかきあげて別に下心がある様子もなく、
先輩が注意してきた。そんな感じで声をかけられた。
藤真さんとは家の近くのコンビニで、夜よく話した。
別に何か買いたい訳じゃないのに、
なんとなく外に行きたくて、でも飲みにいきたい訳じゃなくて、
中途半端に大人になった自分の時間を持て余してた。

だから夜な夜な、コンビニ前でお酒を飲む。

藤真さんはバスケをしていたから、サークルには入ってなかったけど、
私がよくわからないまま入ったサークルの飲み会に、たまたま顔をだしてくれた。

誰かが無理やり誘ったらしく「1時間だけ。」そう言って一緒に飲み始めた。

誰かが私を山王出身って言ったから、
興味がありそうにバスケの話題を振られそうになって
私が会話をさえぎった。かなり感じ悪かったと思う。

当時の私は、深津先輩を考えないようにする事に
必死だったから。

だから、藤真さんが自分から話しかけてきたことが
凄く意外だった。
私を気にかける人はみんなバスケをしている人だ。そう思って可笑しくなる。

どうやら私は飲み会で泥酔してしていたらしい。

名前はださなかったけど深津先輩の話を未練たらしくしていたみたいで全く覚えてなかったけど、随分見苦しかっただろうな。と逃げ出したくなった。

「好きだった人を思い浮かべると、どんな気持ちになる?」

急に藤真さんが、車止めのブロックに座って
缶をかたむけながら聞いてきた。

私の手が止まって、今まで聞かれた事がない
角度の質問に吸い込まれる。

「どんな感情を象徴にしてる?」
「…なんか、勉強した人みたいな質問ですね。」
そう言うと、藤真さんははっと笑って「ばれた?」と恥ずかしそうにした。

「そうだな…。不遇とか言われたり、
バスケとか大変な状況で、乗り越えたいなって思ってさ。
精神論っていうの?勉強した。」

そう言って足を組んだ。

「何かを選ぶ時苦しいかどうかを、判断基準にしなくなった。
乗り越えたキャパが自分の自信になったから。
どうして自分がこんな目に、とか言わなくなった。」

藤真さんは懐かしそうに言うけど、ふっきれたようで
でも、どこかは納得がいってないようで。

きっと何度も葛藤したんだろうな。と感じた。

失った大切な存在と記憶は「彼」をどんな感情を紐づけて、何の象徴にしているか。

考えた事もなかった。
綺麗な顔で下から覗き込むから、答えを待っていると思って考えてみる。

「私は…無力感。」そう、ぽつりと呟く。

そう。心の中に息づくのは、私じゃダメだった。っていう無力感。

だから、きっと花火の記憶にすがりついてる。
あの瞬間から動き出したくなくて。

受け取ってもらえない気持ちはどんどん自分の中で溢れていって
いつか零れ落ちていく。

「一回、嫌な記憶と紐付けられた感情を塗り替えることは難しくて
でも、俺はバスケを不遇の象徴だなんて思いたくなかった。
佐藤も、そうなんじゃない?」

誰にも触れてほしくなかった心に触れられた気がして、抵抗したくなる。
でも、初めて目を奪われた深津先輩の練習風景を思い出した。
高校1年生の彼の姿を。
すりむいた膝の痛みを。

「その、好きだったやつと過ごした時間は、その感情にふさわしいのかよ?」

大好きだった。
大好きだったから、深津先輩に「全部手放して私と一緒にいて。」なんて言えなかった。

もし、深津先輩の愛の象徴が手放す事だったとしたら
私は、忘れる必要も、他の誰かで埋める必要もないと信じたい。

「…あの人はどんな風に私を思い出すんでしょう。…どんな感情なんでしょう。」

言葉にすると泣きそうだったから、そう言ってはぐらかして缶チューハイを飲んだ。

「時間がたったらもっと楽になると思ってました。けど、全然辛いままで。」

藤真さんが、今にも泣き出しそうな私を見つめる。

すぐ目をそらして、通りすぎる車のヘッドライトを眺めた。

「心の時間は時計の時間とは必ずしも一致しないらしいぞ。」

伏せていた目をあげて、藤真さんを見つめた。

「それって、クロノスタシスっていうんですよ。」

初めて、目が合う。

そのフレーズを聞いた事があって、きっと藤真さんは私と同じ物を記憶しているんだと感じた。ビー玉みたいな目をして、虫の知らせを感じた後のようにも見える。

奇しくも同じ境遇の人を見るかのように、見つめる目に吸い込まれそうになった。

心の中を言い当てられたみたいな不思議な空気感の中で
不思議な結びつきを感じたまま、あてもなく話し続けた。

多分私たちは、あの時心にぽっかり空いた穴を持っていて、
そこには今もなお消えることのない、愛情が溢れていて、その感情にもて遊ばれていた。

人生にこんな喪失があるなんて、誰も教えてくれなかったから。

「なあ、仙道。」
休憩室でシャワーを浴びたばかりの藤真さんがタオルで頭を拭きながら横に座った。
「あ、藤真さん。こんちわ。」
前のめりになって携帯で調べものをしていたので、一瞬目線を移して挨拶する。

「沢北って彼女いるのか?」
「‥‥。」

藤真さんってゴシップに興味あるタイプだったんだな。
そう思って「ん-。俺、そんなに知らないからなあ。」そう呟いて顔を上げた。

「深津に聞いてみますか?」
「そうか。いや…。」聞いてもらう程の事でもないというよりは、藤真さんが聞いてる事を知られたくない。っていう雰囲気だった。

そうか。と思って携帯でそのまま文字を打つ。
「検索したらでてくるんじゃないすか?」
あれほど有名な選手だったら、何かでてくるんじゃ。と思ったら
案の定フライデーの記事がでてきた。

「ほら。」
車の中で女性とキスしてる写真が出てきて、藤真さんに画面を見せる。
藤真さんが、一瞬固まって自分から携帯を奪い取って写真をズームしていた。

そんなに北沢に興味あるんだ…。そう思いながら不思議そうに見る。
一緒に練習もしてる相手のこんな話を、本人がいない前でしてるのも気がひけてきた。
「どうかしました?」
食い入るように、写真を見つめる藤真さんにおそるおそる声をかけた。

「あ、いや…。すまん。ありがとな。」
藤真さんが考え込む様子で頭をかしげていた。

自分はあまり興味がなかったのですぐ画面を消して、元にもどす。
考えこむ藤真さんとしばらく沈黙の時間を過ごす。

「あー。あの藤真さんって、貧血に詳しいですか?」
「ん?貧血?」

その時、シャワールームから牧が同じくタオルで頭を拭きながらでてきた。

「ミロがいいらしいぞ。」
「あ、牧さん。」
思わず頭を下げる。

「え?ミロすか?牛乳いれるやつ?」会話聞こえてたんだ。この人から教えて貰えると思わなくて拍子抜けする。

「鉄分がはいってんだよ。」
随分詳しいな。貧血持ちには見えないけど。
そう思いながら「ありがとうございます。」そう言って背中を見送った。

藤真さんは思い立ったように、休憩室をでていった。

「…バズってるぴょん?」

練習終わりに、相田さんが話しかけてきて頭をかしげた。
かいつまんで言うと、プロリーグの視聴者数があがったとか
インスタグラムのリール総再生回数がなんちゃらかんちゃらで
YouTubeの視聴回数が何回転したとか、ちんぷんかんぷんだった。

「合宿参加と、流川選手のスポンサー契約がイイ感じに追い風になってるのよ~。」
はしゃいでる様子を見ると、悪いことではなさそうだ。
こうやってまめにチームのことを報告してくれる相田さんは、いつも仕事熱心でありがたい。
ただ、話しが入ってこない理由は宿泊施設に、アキちゃんがいて
会いたくてうずうずしてるから。
付き合った最初は実感がなかったけど、最近は距離感も近くなってて
過去で一番自分は浮かれているのかもしれない。とふと思った。

「あ。深津君、SNSのコメント欄は読まないでね。」携帯を触りながら相田さんがさらっと言った。

「…見たことないぴょん。」
はやく終わってアキちゃんに会いに行きたいな。と思って、そっけない返事をしてしまった。

「有名になると誹謗中傷は日常茶飯事だから。」
なんだか言い方が気になって少し考える。

「…アキちゃんが悪口書かれてるぴょん?」
一瞬手が止まったので、自分のことだけじゃないのか。と忠告してきた意味を理解する。

そうか。こういう事には疎いからな。
相田さんは優しいな。と思った。

会社の人達はなんとかなったけど、自分の力では世論はどうしようもできないから。

彼女がいるって公開した後の事を全く考えてなかった。

「彼女さんも、深津君と同じ位メンタルが強い人だといいんだけど。」
そう言って、心配そうに顔を見てきた。

「見てるかわからないぴょん。」
「まあ、メンタルケアしてあげてね?」

そう言って、じゃ。っと相田さんは手を振った。

彼女のメンタルケアか。
アキちゃんは、いつもよく喋って楽しそうに笑ってる。
悲しそうな顔は、あまり見た事がないかもしれない。

自分でも察しがいい方だとは思うけど、もしかしたらアキちゃんが自分に言ってない事もあるのかもしれない。

なんだろう。
そう思いだすと、珍しく自信がなくなってくる。

目に見えない不安から、俺はアキちゃんを守れるのだろうか。
アキちゃんに辛い思いをさせてばっかりだ。
付き合ってからも、自分といるだけで
辛い思いをする。

そんな自分に、ずっとついてきてくれるんだろうか。

もし幸いにも代表に選ばれたら、すぐアジア大会にワールドカップだ。
海外に行く期間も長くなる。
その間、アキちゃんはひとりぼっちだ。
もし傷ついていたとしても、抱きしめてあげられる距離にいるか自信がない。

好きという気持ちだけで、
繋ぎ止めてられるんだろうか。

幸せな時間を知ってしまうと、これから悪い事がおきるんじゃないかって
寂しさと不安をより一層深くするものなんだと初めて気づいた。

「近くにコンビニあったっけかな~。」
とぼとぼ、館内を歩き回った。

久しぶりに缶チューハイが飲みたくなってくる。
お酒は弱いのに、気分転換がしたくなった。

「佐藤。」

懐かしい声が前からした。
「藤真さん。」

振り向いたまま立ち止まる。

「お疲れ、飲むか?」
かぶっていたフードをとって笑顔になる。
コンビニに行ってきた帰りみたいで、手に袋を持っていた。
袋から缶チューハイが差し出された。

大学生の時、いつも飲んでいたお酒だったから
懐かしくなって思わず受け取った。

「あ、えーっと。」
受け取ってから言うのもなんだけど、
どうしようかなと悩む。

「1本開けるの付き合ってよ。」
そう笑いかけられながら、片手にもってた缶を傾けられて断れなくなる。
相変わらず綺麗な顔してるな。そう思いながら横顔を見つめた。

藤真さんが時折、缶を傾けて真剣な顔をするから、私は黙りこむ。

館内は今日は静かだった。静まり返った宿泊施設で飲みながら廊下を歩く。
あんなに迫力があった試合を日中見ていたから、この静寂が信じられない。

肩を並べて歩くと、深津先輩と再会する前に大学に入学して
右も左もわからなかった頃を思い出した。

「佐藤と家の近くのコンビニでよく鉢合わせしたよな。」
急にぽつりと言った懐かしい話に、笑いがでた。
「ははっ。私よく1人でコンビニ前で酎ハイ飲んでましたよね。」

私は、飲めないお酒を飲んで深津先輩を忘れようともがいてた。
急なサヨナラに耐え切れなかった毎日。

交われる未来はなかったのかな?って、
深津先輩の抜け殻がいつかの私の完璧な瞬間を映し出して
目の前の現実を受け入れられなかった。

今も昔も、ずっと深津先輩を追いかけてる。
だから、藤真さんは何も悪くないのに顔を見ると思い出しちゃう。

あの頃の喪失感を。

いつも困ったように見つめると、
同じく困ったように笑いかけてくれた。
あの時と同じようなビー玉みたいな目で私を見つめる。

「まさか、ここで会えると思ってなかったよ。」
そう言う藤真さんが、何かを決心した感じがして
少し緊張した。

「あの、雑誌見たんだ。」
「え?」

缶を傾けて、目を合わせずに藤真さんが歩幅を合わせながら言った。

雑誌…。こないだの深津先輩と仙道さんの雑誌かな?

「雑誌ですか?」そう聞き返しながら、藤真さんが節目がちに同じく缶を傾ける。

「佐藤が好きだった男がわかったよ。同じ山王って言ってたしな。」

頭を搔きながら、外を見て言い終わった時にじっと目を見つめる。

「えっ」そんな事言われると思ってなかったから声が出た。

「付き合ったって、事なんだよな...?」

確信がない聞き方で、でも嘘つかないでほしいって気持ちが伝わってきた。

「…そうですね。」

選手の人から何か聞いたのかな?って思いながら頷いた。

「そうか。よかったな。」声が全然よくなさそうで、気になった。

「藤真さん何にも変わってないですね。」
「え?」
「声に全部でてる。」そう言ってふふっと笑った。

「そーか?」当てられたみたいに、眉間に皺を寄せて恥ずかしそうにした。

しばらくまた飲みながら沈黙の中歩いた。

「俺、今から余計な事、言うわ。」

急に立ち止まって、通せんぼされた。
ポケットに片手をいれながら、缶を一気にかたむける。

飲み干した後、私の目を見て真っすぐいった。

「なんていうか、あいつが...佐藤に合ってると思わない。」

「え…。」
予想外の言葉に、困惑する。

「うん。俺、踏み込みすぎだよな。」
一回下を向いた後、少なくなった缶の中身を確認するように缶を振る。

「わかってんだけど。」
真剣な顔をして私の目を見る。
どうしよう、目が逸らせない。

「佐藤の好きなやつが、佐藤を幸せにできると思わない。」
それ以上言わないでほしい。
そう思って耳をふさぎたくなる。

「さらいたかった。ずっと。」

遮れなかった言葉が溢れた。
後ろから人の話し声が聞こえて、考えがまとまらなくなる。

「もう遅いか?」

傷ついてた私を知ってる藤真さんに何を伝えれば、納得するのかわからなくて目を逸らした。

「藤真さん、私。」

「アキ。なに浮気してんだよ。」

肩に腕をまわされて、体が後ろに動く。
身長差を感じて誰だかすぐにわかった。

沢北が唇をとんがらせて、私の顔を見下ろしていた。

私の驚いた顔を見た後、藤真さんを見据えた。
藤真さんは片手に空いた缶を少しへこませて、
首を傾けて沢北を見つめる。

2人が見つめ合うから、私は息を飲んだ。

「佐藤とは、話してただけだよ。」

口元を緩ませて笑ったようだったけど、藤真さんは睨みつけてるように感じた。

沢北が首を傾げて私の目を見る。

「俺はもう行くよ。考えておいて。」
私の目を見て、藤真さんが缶片手に通り過ぎていく。

沢北と見つめあっていた。

藤真さんの背中が遠くなった時

「なんだよ、あれ。」

沢北が唇を尖らせて回した手を少し詰めて、言葉に合わせて私の体を揺さぶる。

「私も…わからない。」

本当に、わからなかったのかな?言った後に考え込む。
記憶の中の藤真さんは、いつも困ったように笑いかけてた。
あんなに熱くて、冷静な人なのに。
私を見つめる時は、いつもいつも迷ってた。

違うよ。
私が逃げてたんだ。

困ったように見つめる目が、私をどう見ているのか。
ずっと考えないようにしてた。

伝えてみたい。
こんなことを思うようになるなんて、馬鹿みたいだ。

伝えてみると
思い知らされた。

ずっと昔の記憶に縛られて、
動けなくなっていた君を見つめて
はやく今この瞬間まで、心を動かしてほしかった。
それなのに気がついたら
自分の方が進めていなかった。

俺の方が、動けなくなってた。
綺麗な顔でずっと誰かを思う。

ただ傷ついていた君に惹かれて、
そんな顔で自分を想って欲しいなんて
欲張りな思いに縛られたんだ。
自分が辛い思いをしてきた経験は、君を励ます為だったんじゃないか。
そんな勘違いをおこしたんだよ。

むしゃくしゃして2本目の缶酎ハイを開けた。

合ってないなんて、
考えなおせ。なんて、

君がするわけないのに。

あんなに傷ついて、ずっと想っていた相手なのに。

曲がり角で、急ぎ足で歩いてくる人影に気づく。

体を足で動かしてるような独特な歩き方ですぐ誰かわかった。

「深津。お疲れ。」
缶を傾けるのをやめて、声をかけた。

手にバスケの本を持っていて
こいつオフの時ないのかよ。と思いながら
ただ会釈する顔を見上げて、しばらく何か言いたげな様子を少し不思議そうに見つめた。

バスケの事しか考えてないような男を見ると、
今自分が考えていた事が、
いかに幼稚か思い知らされた。

きっと、この男がこんな事で悩む事なんてないんだろう。

こんな愚かな感情に支配される事なんて、きっとないさ。

しばらく自分を見つめたけど、何も言わずに目線をそらした。
そのまま足早に通りすぎていった。

「アキちゃん。」

大好きな声で後ろから話しかけられる。

「かずくん。」
思わず笑顔になった。さっきまでの喪失感が嘘みたいだった。

人目がいない事を確認して、近づいていく。
少し照れて口元をきつく締めながら、深津先輩を見上げた。

なんだか眉毛が下がってて、元気ないな…?
そう思って、心配そうに顔を見ていると
両手で私の肩を掴んだ。

目を細めて掴んだ後、大きな手が上下に優しく肩をさすった。
「…かずくんどうしたの。」
急にいたわるように、触るから何かあったのかなと思う。

「いや。」何か言いたそうな様子を見て、練習で疲れてるよね。そう思って
私も腕をさすった。

「アキちゃん。何か俺に言いたい事ない?」

そう聞かれて、さっきの藤真さんの事を思い出す。

頭の中でぐるぐるどうしたらいいか考えるけど、同じチームで試合する事もあるだろうし
こんな合宿中に言わなくても、いいか。そう思った。

「…ないよ?」

私の表情は少し固かったかもしれない。
深津先輩があまり納得してない様子で少し息を吐いた。

「ないなら、いいぴょん。」そう言って頭に手をぽんと置いた。

深津先輩は最近ずっと何かを言いかけて、違う話をする。

悪い事ではないと思いたいんだけど、
心のどこかでいつか言われたサヨナラが頭をよぎる。

前より色んな話しができてるし、何も問題ないはずなのに幸せな分凄く不安に思ったりする。

ずっと言いかけてる言葉は、サヨナラじゃない。ってわかってるのに。
自信がない。
私じゃダメだった。っていう無力感が、大好きな分襲ってくる。

たくさんの取材をうけて、アリーナでたくさんの歓声をうけてる深津先輩が
私をずっと思ってくれるなんて、信じられない。

私の表情が不安げだったのか、私の両手をとって深津先輩が大きな手で撫でた。
しばらく私は深津先輩の大きな手を見ていた。
目を伏せた後、私の顔を少しのぞきこむ。

「全部終わったら、秋田に行かない?」
「秋田?いいね?」

しばらく実家に帰ってない。
2人でまた学び舎を歩く姿を想像した。
多分、色々と思い出して私は泣くと思う。

でも悲しいより、またあの道を2人で歩けるなんて。っていう
嬉し泣きなのかもしれない。
大きな手に包まれてるから、そうも思えてきた。

ずっと闇の中で夢を見てたから。
また、会いたくて。

私たちは怖がりだ。
今も昔も。
そこがよく似ている。
言いかけた言葉を言わないまま、
深津先輩は大好きな声で「おやすみ」と言った。

「水原さーん。」
軽快に部屋をノックする。

少しドアがあくと、部屋の中で少し仕事をしていたのか
眼鏡をかけた水原さんが出てくる。
整頓されたホテルの部屋の室内をチラッとのぞいた。

「…仙道くん。」
「プレゼント。」
部屋の中に無理やり入り込んで、コンビニの袋からミロを取り出して手渡した。

「これ、貧血にいいって聞いたから……ってもう遅かった?」
水原さんに手渡しながら、部屋の片隅におかれた未開封のミロに目をとめた。

「あ...。」
空気が抜けたみたいな声を出すから、珍しいなと感じた。

「ねえ、ちょっと話したい事があるんだけど。」そう言って
水原さんがベッドの上に座って自分を呼ぶ。

「また、手切れ金渡すのやめてくださいよ。」ふざけて顔をのぞきこみながら言った。

「そういうんじゃないわよ。」少し困ったように笑うから、こりゃ大事な話だな。と勘づく。

「私、海南大なの。」
「海南?ああ、言ってたよね。」

なぜそんな事を切り出したんだろう。と思ったのと同時に、
あまり考えたくない事が頭に浮かぶ。

「牧くんと大学が一緒だったんだよね。」

牧くん。そう呼ぶ口調になんだか歴史を感じて口を固く結んだ。

「へえ~。牧さんと。で、まさか元彼とかじゃないですよね?」
少し間があった後、自分を見つめた。

「年下と付き合ったのは、仙道くんが初めてだよ。」
そう両手を後ろについて足を崩しながら、目をふせた。

「でも、牧くんはずっと私のこと好きだった。」

そう聞いて、理由がわかった。
水原さんが貧血持ちだから、あの人は貧血にくわしいんだ。

「こりゃ、参ったな。」

思わず言葉にでた。いや、別にいいんだけど。
少しもやもやする。

「やったの?」

目線を移して、ストレートに聞いた。

「若かったし。」
水原さんが後ろ手をついて目線を合わせずぽつりと正直に言った。

その言葉になんともいえない気持ちになる。
昔々にするには最近のように感じるし、元彼でもないのに凄い存在感を残してくる。

水原さんに牧さんの影を感じ始めて、幼稚な気持ちが渦巻いてくる。

でも、なんだろうな。不思議に思った。

「水原さん。」自分の返答を少し体を固くして待つ水原さんに声をかける。

目を真っすぐ見つめた。

「俺、人生で初めて嫉妬したかも。」

あっけらかんとした表情で、伝えた。
自分でも驚いていたから。そのあと少し視線を逸らして、次にどうするべきかを考えてみる。

「触ってもいいかな?」
体を向き合わせて、少しきょとんとしてる水原さんの手を掴んだ。

「ダメって言っても触りそう。」

煽り立てるように見つめた目が強がってる事に気づいていた。
掴まれた手が弱々しくて、この人は俺が嫌いになる事を恐れてるんだと気づく。
何て言っても大丈夫なように、必死に予防線をはってる。

自分になんでもしてくれそうなこの人は、優しい人で。

与えたいけど傷つくのが恐い。臆病な女の人だ。
誰かから、何かを貰おうとして、なんでも愛情を図っている。

自分が愛される事より、欲求が向けられる事で自分の存在意義を証明してる。

もういいんだよ。
そんな事で自分を図らなくていいんだ。
君はもう完璧だってことに、気づいて欲しい。
そう思って、壁を壊すように唇をつけた。

黒目が揺れてるのがわかる。

いいんだよ俺に、身を任せてほしい。
嫌いになんてならないから。

一目見た時から、君は短い夜みたいな人だと思った。

傷ついても、君以上の人なんていないんだよ。
唇を合わせた時から、明けていくのが怖くなる人。

擦れた感情とすねた愛情しか持ち合わせてなくて、
唇が触れると変化に備えた。

時計の針が0時をさして、1日の終わりをつげてる。
その時に私は目を閉じて秒針の音を感じた。

仙道は朝日みたいな人だ。
目覚めて最初に見る、朝の光。

唇の感触が心地よくて、安心してくる。
大きな手が私の手を掴んでて、自分が女だって気づかされる。

仙道は、まるで自分が特別な存在になったと感じるように触ってくれる。

安堵して満たされてく。
生まれて初めて何かを与えたいと思ってたのに、君は当たり前のように愛をくれる。

意外と照れ症で、名前を呼べない人。
土砂降りの雨がふってきても、笑い飛ばしてもっと楽しい思い出にしてくれる人。

「水原さん。」重ねた唇を離して、いつもみたいに名前をよんだ。

「世界一好きだよ。」
「…ふふっ。」

真っすぐすぎる言葉をくれて、思わず笑ってしまった。

「え、なんで笑うんすか。」
大きな手で顔をつかんで、顔を向かせる。

「嬉しかったから。」
安心して言葉がでた。
ふふっと仙道も笑って、唇を数回くっつけ合う。
そのあと肩に両手をまわされて、ベッドに倒れこんだ。

「あ~。凄い水原さんに触りたくなっちゃった。」
「いいよ。別に。」
そう言って上目遣いで見つめると、時計を見てから私の唇にまた唇を押し付ける。

少し長めに唇をくっつけると、唇の間からゆっくり舌が入ってきて
仙道の舌先を吸った。

吸った舌を離すと、角度をかえてまた舌が入ってきて舌を絡める。
強く抱きしめられて、ドキドキした。

そのまま、覆いかぶさるとティーシャツの下から手をいれながら唇を味わう。

「牧さん…部屋まできたんですか?」
ティーシャツをまくり上げて脱がしながらそう聞くから
「うん。中にはいれてないよ。」自分で脱ぎ始めながら答えた。

「そっか。」そうひとこと言って、お腹を舐められて吐息が漏れる。

お腹にうずくまって仙道の頭にキスをした。
「なんか…すぐいれたい。」
そう言ってお腹から胸まで舐めて、下からキスをしてくる。
受け入れながら頷いた。

キスが止められないまま。仙道が下着を脱がして、私の下半身をまさぐる。
唇を合わせたまま、首に手をまわして静かに喘ぐ。

段々指を激しくかきまわされて、大きな声がでた。

食べるみたいに唇を挟まれてそのリズムで、仙道が入ってきて下半身がびくっと反応する。
腰を大きく動かして、一回一回確かめるように動くから
ゆっくり快感に満たされていった。
「っはーー。」
仙道が唇を離して、眉間に皺をよせて息を吐く。
その表情がセクシーで見とれる。

「なんか、全部あげたくなる。」
「…なにそれ…。じゃあ、頂戴よ。」

仙道は軽い冗談みたいな甘いことをバカ正直にセックスしてる時に言う。
抱きしめたまま、その甘い言葉を味わって
心まで捧げたくなる。

「ずっと愛してて欲しいっす。こんな風に。」そう言って唇を合わせてきて
気持ちよさも相まってるからか、心が通ってるような気分になる。

快感を超える何かを感じて、愛おしくてたまらなくなった。

「愛してるって言った事あったっけ?」
そう言って唇を離すと、子供みたいな顔をした。

「言われてた気分になってました。」
目をパチクリさせてあっけらかんと言うから笑った。

「ずっと愛してあげるよ。」
なぜか、言葉にしたら泣きそうになった。

いい言葉を言って、涙がでそうになったのは初めてだった。
こんな恥ずかしい事を言えるようになったなんて、私も仙道に似てきたのかな?と
ひとりで考え事をする。

「あっ、え。言ってくれると思ってなかったな…。」
恥ずかしそうに慌てるから、顔を手で包み込んだ。

この整った顔で何人の女を泣かせてきたんだろう。
改めて顔を見つめて、赤い顔を楽しんだ。

この瞬間を目に焼き付けておきたかったから。

「私と牧くんはね、うまくいかないんだよ。」
昔みたいに拗ねた子供みたいな顔をして
素直にあげたものを受け取ると、向けられた愛情をいつものように拒絶する。

「私はね、背負われてここまでやってきたって言いたくないの。」
「背負った事、確かにあったけど。」
いつか、この人が貧血で倒れた時、初めて女の人をおんぶしたのを覚えてる。
恥ずかしそうに顔を赤くして、そう言った自分を綺麗な顔で睨みつける。

もう、何も考えなくていいから俺を好きになればいいのに。

そう思って、ドアを閉じさせないように
ドアのへりに手を置いた。

「本当は大切な人を守れるような、強い私になりたいの。」
いつにもなく意思がある目で見つめてくる。

「牧くんと一緒にいると、可哀想な自分になりたくなる。
その自分に甘えて、大したことない女なのに、牧くんが大事にしてくれるのが嫌なんだよ…。」

「大事にされればいいのに。俺は、会いたかったよ。ヒトミが会いたくなくても。」
本当は抱きしめたい。
その細い腕を、また包みこみたい。
いつもだったら、なんだかんだ俺を部屋をいれるのに。

「…私は、牧くんが優しすぎて、ダメな人間になるの。」
そう続けるから、

「わかったよ。見守ってる。何もしないよ。そっとしておく。」
そう言って、ドアから手を離した。
何もしないように、ポケットに両手をしまう。

「ヒトミが好きだから。」
そっと閉じられていくドアが閉まる前にそう言った。
泣き出しそうな顔に少し圧倒されて、心に焼き付けた。

もしかしたら、ドアを開けてくれるんじゃないかと思って
しばらく立ち尽くす。

「牧くん。ありがとう。牧くんが私にしてくれた事を、私もしてあげたい。って思える人ができたよ。」

ドア越しに聞こえる声が震えてたから、息をついて立ち去った。

誰もいない廊下を歩きながら
この人がいつもしてたオチのない話を思い出していた。

暇つぶしによったカフェで、よく話したよな。
こんなにこの人は綺麗に笑うんだ。そう思って見とれてたんだ。

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