久しぶりの職質

ユウゲキタイノカワラですと彼は名乗ったが、遊撃隊の川原さんであるということを脳が知覚するまでに随分時間がかかったように思えた。やましい気持ちは毛ほどもないのだが、警察官に取り囲まれると額から汗が流れ落ちる感覚があった。ぼーっとバスを待っているこの男がプロの目には何かしらの点において怪しく写ったのだろう。
状況が久しぶりで笑ってしまいそうだったが、そこで愉快になっていては余計に疑われるんだろうと寡黙に渋い顔で対応していると”なにか危ないものとか、見せれないものもしかして持ってる?”と訝しまれ、どうやら裏目に出てしまったようだった。
足先から頭の先まで、ついでにカバンの中まで触られ放題され、猫カフェの猫は多分こんな気持ちだななどと思いながら応対していると、何も狙いのものが出なかったことにバツが悪くなってきたのか、警察官たちが温和な姿勢に切り替わってきた。
”お兄さんが危ないものを何も持ってなくて良かったです”と言われ
”ほんとそうですね〜僕も持ってなくてよかったです”と返すと、後ろに居た年増の警察官の目が光るのを背中で感じた。また状況が振出しに戻る。
”それは持ち歩くこともあるってことかな?”
違う。断じて違うが、否定するのも面倒くさいと思った。言いたいことは山ほどあったが、彼らも仕事なのだろう。
そんなことないですよと笑って返すと、”そうですよね!お兄さんみたいな人、僕らも逮捕したくないですから”と目元が笑ってない顔で年増の警官は言った。犯罪予備軍だと思われているのが、こうも気分が悪いとは思わなかった。
彼らがヤクザだなんだと言われている要因はなんとなく分かる気がした。

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