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百年文庫54 巡

ロマンティックな描写が散りばめられた三篇で、テーマがなんだったか思い出せなくてしばらく考えてしまった。巡という漢字自体にロマンティシズムを含んだ雰囲気があるのは否めないけれど。選出に特に意図はないと思うけれど、作品自体の構造が気になる三篇だった。理論的なことを考えた末の作だから、意図的ではなくても感性よりもそういった技巧的なところに凝りがちになるのかな。

アトランティス物語/ノヴァーリス

年老いた王の美しいひとり娘が、ある日、忽然と姿を消したー。伝説の地を舞台にくりひろげられる清らかな恋の物語。

王女の描写や自然の描写がたっぷりとしていてべったり描写しましたよ、という感じ。好きです。
話の展開はシンプルだけれど、途中の展開が地の文でも語りでもなく詩で進むところが面白い。作中に挿入される詩が本編とこうやって直接的に繋がっていることは少ない気がする。
アトランティスという謎めいた都を舞台装置にしているところもいかにもロマン派〜という感じで良い。唐突に理由もなく滅びる描写を最後意図的に入れているところも面白い。


枯葉

秋の日に枯葉のささやきが教えてくれた天地をめぐる生命の話。

童話的に直接枯葉が語るのではなく、「語り手」という人間が挟み込まれた枠構造になっているところが印象的。風邪をこじらせて体調を崩し亡くなった晩年に書かれた作品だそうで、作品に漂うモーツァルトのレクイエムのような死の予感がその事実を知らなくてもそうであろうという気にさせられる。

ポンペイ夜話/ゴーチェ

火山の噴火で埋もれたポンペイの遺跡を訪ねた青年オクタヴィヤンは、溶岩に美しい痕跡を遺した女性に二千年の時をこえて心を奪われていく。

夢のようなまことのような一夜の物語。オクタヴィヤンの妄想でも、本当の超常的なファンタジーでもあり得るような展開のバランスが好き。最後に登場するオクタヴィヤンの妻の存在がリアル。巡という感じはあまり受けなかった、円環しているよりもまっすぐな時間の流れの中でオクタヴィヤンだけが違う時間に移動してしまったようなイメージ。

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