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百年文庫52 婚

どことなくコメディタッチな作品が多い印象。
シェイクスピアとかでも結婚のモチーフはちょっと喜劇的なイメージがあるし、明るい話題だからこそそういう形で扱いやすかったりもするのかな。

求婚者の話/久米正雄

単刀直入を身上とする「鈴木君」は、道ゆく洋傘の女性に一目惚れし、30分後には結婚の約束を取りつけた。がむしゃらに夢を追う男の生きざまをユーモラスに描いた。

「鈴木君」の気持ちよく進んでいく人生を鈴木君の気持ちになって一緒に楽しく見ているつもりでいるからこそのオチが印象的。読み手は鈴木君に感情移入してはいるものの、その実傍観者でしかないということを強く感じさせられる。
久米正雄といえば漱石の娘筆子への失恋が大きく創作人生に影響した作家だそうで、この短編からも唐突に切り捨てられる鋭い悲しみが感じられる。

下宿屋/ジョイス

下宿屋の娘と関係を持ってしまった青年が宿の「マダム」の術中にはまり、次第に追い詰められていく話。


前半の下宿屋のおかみと後半の下宿屋の娘と関係してしまった男、最後に下宿屋の娘と移り変わっていく視点が特徴的な作品。ジョイスといえば「ユリシーズ」、超絶技巧をこねくり回す作家というイメージが強すぎて読む機会がなく来たけれど、ここで一端の一端だけでも齧れて良かった。この短さの中にもストーリーテラーというよりは建築家のように、新しい技術を試そうという気持ちが透けて見える気がする。


アリバイ・アイク/ラードナー

言いわけばかりしている野球選手「アイク」に美しい恋人ができ、試合でも大活躍!


何ということもない小話なのに、妙に印象的だった作品。良くても悪くても言い訳ばかりするアイク、というキャラクターがキャッチーかつ斬新で印象に残ったのかも。軽妙で読みやすく、ハッピーエンドとまでは言い切れないが読後感も明るくて楽しい作品。

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